金融庁は、信金・信組の普銀転換をテーマに審議を進めている

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   金融庁は2007年8月から、信用金庫や信用組合、労働金庫、農業協同組合などの「協同組織金融機関のあり方」について金融審議会で審議する。具体的には、信金・信組の普銀転換がテーマ。協同組織金融機関は、営業地域が限定されている代わりに税制面の恩典があるなどの優遇措置がある半面、業務面では「銀行と同質化している」との指摘があった。規制改革民間開放推進会議(安倍晋三首相の諮問機関)から06年末に協同組織金融機関の業務の見直しの提言(第3次答申)を受けていた。

   預金量で5,000億円以上の信金・信組等は、「半ば強制的に普銀に転換させる」(東京都内信金の幹部)との見方もあり、いわば「第3地方銀行」グループが誕生することになる。

東京都内はオーバーバンキングに拍車

   たとえば、東京都内では現在、メガバンクのほか、東京都民東日本東京スター八千代の4銀行があり、それでなくてもオーバーバンキングの状態。信金は預金量3兆円超の城南信用金庫から1000億円台の東栄信用金庫まで23がひしめき、このうち預金量5000億円以上の信金が普銀転換すると、一気に14もの銀行が誕生することになる。

   地方では、京都府に本店を置く3つの信金がそれぞれ5,000億円をはるかに上回っており、かつて「信金王国」と呼ばれた地域から信金がすがたを消す可能性も出てきた。

税制恩典の消滅で雪崩をうつ

   協同組織金融機関のあり方は1990年、当時の金融制度調査会第一委員会で審議して以来、16年ぶりのこと。その後のバブル崩壊とそれに伴う不良債権処理で経営破綻や合併を繰り返してきた信金・信組は、90年の454信金から287に、414信組から168にまで数を減らした。

   しかし一方で、地域によっては規模で銀行を上回ったり、業務面でも銀行とほとんど変わらないにもかかわらず法人税制の恩典がある信金・信組の存在は、かえって「地域金融機関の競争を不平等なものにしている」(第二地銀の幹部)との指摘となってくすぶっていた。

   ある地銀関係者は、「財務省は財源不足に頭を痛めていることもあって、税制の恩典をなくしたいようだ。おそらく恩典はなくなるだろう」と話す。信用金庫から普銀転換した、唯一の銀行である八千代銀行は4月19日に、待望の東京証券取引所第1部への上場を果たしたばかりだが、そんな同行にも、普銀転換を模索している信金・信組のようすが漏れてきているようだ。

   4月24日付の日本経済新聞は、大阪に本店を置く在日韓国人系の近畿産業信用組合が普銀転換へ向けて準備を進めていることがわかった、と報じた。同信組は06年6月に、同じ在日韓国人系の長崎商銀信用組合と合併し、「地域」の垣根を越えている。預金量は5,682億円(06年3月末)。普銀転換すれば、信組固有の融資制限や地域の制限も解かれる。認可は流動的だが、「認められる公算は高い」(信金役員)とみる向きもある。

   ちなみに、信用組合からの普銀転換は、相互銀行を経て転換した長野銀行の例がある。

   信金・信組業界は猛烈に反発するだろう。しかし、前出の信金役員は「税制の恩典がなくなれば、信金でいる理由がなくなる。八千代銀行が普銀転換したときから、『次はうち』と公言していたところもあり、雪崩をうって(普銀)転換する」という。

   金融システムがようやく安定化してきたというのに、信金・信組業界は一転、存亡の危機に立たされた。