デジタルエンタテインメントアカデミーの入学式で講演したカプコン稲船氏

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 ゲーム専門学校、デジタルエンタテインメントアカデミー(DEA)の入学式で5日、トップクリエイターの一人として知られるカプコンの稲船敬二氏が「次世代ゲーム機に見るゲームの将来」と題した記念講演を行った。稲船氏は自身の体験について語りながら、いつの時代も「夢」ではなく「目標」に向かって「戦う」姿勢が重要だと指摘した。

 冒頭で稲船氏は「夢」と「目標」の違いについて説明した。「夢」とは努力しても現段階では現実味が薄いもので、「目標」とは努力すれば達成できそうなもの。「ゲームクリエイターになる」ことは、努力すれば達成できるもので、これを自分の「夢」にしないで欲しいと訴えた。その上で、まずは入学したばかりのDEAを「途中で辞めない」ことを、第一の目標にして欲しいとした。そうすれば自ずと「ゲームクリエイターになる」という新しい目標が見えてくる、というわけだ。

 稲船氏は1987年にグラフィックの専門学校を経てカプコンに入社。以後カプコン一筋で20年のキャリアを重ねてきた。代表作にはキャラクターデザイナーとして第一作からかかわった「ロックマン」シリーズや、自身がプロデュースした「鬼武者」シリーズなどがある。最近ではXbox360向けにプロデュースした「デッドライジング」「ロストプラネット」が、共に世界市場でミリオンセラーを記録した。今、もっとも旬なクリエイターの一人だろう。

 ちなみにゲーム業界は転職率が非常に高く、稲船氏のように同じ企業で20年間も勤めた例は珍しい。特に90年代前半までは好景気だったこともあり、プロジェクトごとに転職するなどの例は珍しくなかった。稲船氏自身も「これまで何度も浮気しそうになったし、今もそういう気持ちはある。でも、そのたびに『やめて良い方向に進めるのか?』と踏みとどまってきた」と心中を述べた。

 稲船氏が「浮気」しそうになった理由。それがゲーム開発で立ちふさがる、さまざまな「壁」の存在だ。なにより「売れるゲーム」と「おもしろいゲーム」は違う。会社が求めるのは「売れるゲーム」だが、クリエイターが作りたいのは「おもしろいゲーム」。ここに永遠の壁がある。それ以外にも会社体制、人間関係、運不運など、有形無形の壁が立ちふさがる。これらの壁から安易に逃げるのではなく、戦って、乗り越えていくことが重要というわけだ。稲船氏も「クリエイター人生の中で戦わなかったことはない」というほど。特に学生時代から「壁から逃げる」ことを選択してはいけないと釘をさした。

 稲船氏を最初に襲ったのは「運」の壁だ。グラフィッカーとして入社した稲船氏が最初に任されたのが、ファミコンのオリジナルアクションゲーム「ロックマン」のキャラクターデザイン。新卒で入社し、まだ右も左も分からなかった稲船氏は、いきなり最前線に投入される。主人公や敵キャラクター、ロゴ、エフェクトなど、背景グラフィック以外のすべてのデザインを任されたのだ。これには新人を即戦力として使わざるを得ない、会社の内部事情もあった。一作目は出足こそ鈍かったものの、続編「ロックマン2」は海外でも発売され、高いセールスを記録することになる。

 しかし1年目の冬のボーナスは、同期入社のグラフィッカーより低かった。彼が手がけたのは初代「ストリートファイター」だったが、点数表示やエフェクトなどで、仕事の中身は雲泥の差があった。にもかかわらず金額に差がついたのだ。しかも翌年のベースアップも彼の方が高かった。当時はアーケードがドル箱で、ファミコンのゲーム開発は移植が中心と、社内の重要性が低かったからだ。新人にとってプロジェクトの配属先など「運」でしかない。「今思えばこれが最初の「壁」だった。辞めることも心によぎったが、発憤材料にして頑張った」(稲船氏)。