「雪崩は起こるもの」、雪山登山の心得=東大スキー山岳部の新井裕己監督(上)
2007年04月04日12時04分 / 提供:PJ
カナダ西部で2日(現地時間)、スキー客が雪崩に巻き込まれ、日本人2人が死傷する事故が発生した。また、3月半ばには北海道積丹町の積丹岳で、雪崩に巻き込まれた4人が死亡した事故があった。春先は好天候に恵まれることや、雪がしまって歩きやすいこともあり、雪山登山の愛好家にとっては絶好の季節だ。しかし、雪崩による遭難が相次いでおり、雪山登山は危険と隣り合わせなのも事実。雪山登山の心得とは。日本を代表する山岳スキーヤーであり、登山・クライミングの理論的指導者でもある新井裕己・東京大学運動会スキー山岳部監督に話を聞いた。
−春の雪山の装備はどうしたらいいでしょうか。
「季節に関わらず、積雪と斜面があれば雪崩は起きる可能性があり、そこに人がいれば事故になる可能性があります。雪崩を完全に予測することは現時点では不可能です。『雪崩は起こるもの』と考え、それに備えた行動をしなければなりません。万が一の自動車事故に備えて、自動車にシートベルトやエアバッグが装備されているように、雪山に入山する場合には、必ず雪崩救助用装備を持つことが必要です。具体的には雪崩ビーコン(捜索用電波送受信トランシーバー)、プローブ(ゾンデ棒・積雪の下を捜索する棒)、スコップ(埋没者救助・積雪面観察用)の3点です。これらの有無で救助にかかる時間は大幅に変わります」
「雪崩とともに春には滑落事故も多くなります。春は昼間と夜間の温度差が激しく、朝はカチカチに凍り付いていた雪面が、午後にはグサグサに溶けたシャーベット状になる場合が典型的です。急斜面を登る場合には、柔らかい雪をかきわけながら登るよりも、固く凍った雪上を登る方が手っ取り早いですが、その場合には、しっかりとした前爪を持つアイゼン(クランポン)と、雪面に刺して手がかりとするピッケル(アイスアックス)が必要です。そのような装備なしでは滑落は免れません。気温と日射でシャーベット状に緩んだ雪も、ひとたび太陽が雲にかげり、風が吹き始めれば、雪面は一気に氷化します。天候の変化に備えて、最低でもアイゼンは携帯するようにしてください」
−春の雪山の危険を教えてください。
「春の天候は、移動性低気圧の影響で変化が激しいのが特徴です。それに伴って、雪表面の変化も激しく、氷化した固い雪面の上に新たに降雪が起こる場合も少なくありません」
「雪は温度によって時間とともに周囲の雪と結合し、安定化していくものですが、タイプの異なる2種類の雪同士は安定するまでに時間がかかります。積雪が不安定なところに登山者の体重がかかると、ギリギリで保たれていた積雪層の安定性バランスが崩れて、雪崩が発生します。急激な温度変化や大量の降雪、そして人間による加重など、急激な変化に雪は適応できないのです。春の不安定な天気は、雪も不安定にすることを覚えておきましょう」
「中でも、南を向いた斜面は日射の影響を強く受けるため、雪の状態が激しく変化します。大量の水を含んだシャーベット状の積雪は、ズルズルと流れる点発生雪崩を起こします。スピードは遅いですが、雪崩の密度が高いため、足元を取られがちです。この場合、雪崩に埋没して窒息するよりも、岩や立木に衝突したり、崖や滝に落下して怪我をすることが多くなります。下部にそのような『地形の罠』が存在する箇所を極力避けるルート取りをするとともに、致命傷を避けるためにヘルメットを着用したいものです」
「融雪が進んでくると、稜線や岩場の上に形成されている雪庇(せっぴ)が崩壊します。この塊が落ちる雪崩を『ブロック雪崩』といいます。冷蔵庫大の大きさのものや、時には軽自動車並のブロックが落下してくることもあります。崩落しそうなブロックの下で休憩をすることはもちろん、行動中も疑わしいブロックの下の通過はなるべく避けるべきです」
「同様に、春には積雪層全体が雪崩を起こす『全層雪崩』が発生する可能性があります。これは前兆として、積雪面にクラック(割れ目)が入ったり、そのクラックの下にシワが寄ったりします。このような前兆のある地形の下にはなるべく立ち入らないことが重要です」【つづく】
■関連情報
新井裕己氏略歴
1975年群馬県生まれ。鹿島槍ヶ岳北壁や不帰1峰北壁など、多くの初滑降記録を持つ日本を代表する山岳スキーヤー。雪崩啓蒙活動にも関わり、東京大学在学中には東京大学総長賞を受賞。クライミングにも精通し、「Rock&Snow(山と渓谷社)」誌に連載を持つ。著書に「フリークライミング(山と渓谷社・共著)」。現在、東京大学スキー山岳部監督。日本山岳協会選手強化委員。
東京大学運動会スキー山岳部ホームページ
PJニュース.net
−春の雪山の装備はどうしたらいいでしょうか。
「季節に関わらず、積雪と斜面があれば雪崩は起きる可能性があり、そこに人がいれば事故になる可能性があります。雪崩を完全に予測することは現時点では不可能です。『雪崩は起こるもの』と考え、それに備えた行動をしなければなりません。万が一の自動車事故に備えて、自動車にシートベルトやエアバッグが装備されているように、雪山に入山する場合には、必ず雪崩救助用装備を持つことが必要です。具体的には雪崩ビーコン(捜索用電波送受信トランシーバー)、プローブ(ゾンデ棒・積雪の下を捜索する棒)、スコップ(埋没者救助・積雪面観察用)の3点です。これらの有無で救助にかかる時間は大幅に変わります」
「雪崩とともに春には滑落事故も多くなります。春は昼間と夜間の温度差が激しく、朝はカチカチに凍り付いていた雪面が、午後にはグサグサに溶けたシャーベット状になる場合が典型的です。急斜面を登る場合には、柔らかい雪をかきわけながら登るよりも、固く凍った雪上を登る方が手っ取り早いですが、その場合には、しっかりとした前爪を持つアイゼン(クランポン)と、雪面に刺して手がかりとするピッケル(アイスアックス)が必要です。そのような装備なしでは滑落は免れません。気温と日射でシャーベット状に緩んだ雪も、ひとたび太陽が雲にかげり、風が吹き始めれば、雪面は一気に氷化します。天候の変化に備えて、最低でもアイゼンは携帯するようにしてください」
−春の雪山の危険を教えてください。
「春の天候は、移動性低気圧の影響で変化が激しいのが特徴です。それに伴って、雪表面の変化も激しく、氷化した固い雪面の上に新たに降雪が起こる場合も少なくありません」
「雪は温度によって時間とともに周囲の雪と結合し、安定化していくものですが、タイプの異なる2種類の雪同士は安定するまでに時間がかかります。積雪が不安定なところに登山者の体重がかかると、ギリギリで保たれていた積雪層の安定性バランスが崩れて、雪崩が発生します。急激な温度変化や大量の降雪、そして人間による加重など、急激な変化に雪は適応できないのです。春の不安定な天気は、雪も不安定にすることを覚えておきましょう」
「中でも、南を向いた斜面は日射の影響を強く受けるため、雪の状態が激しく変化します。大量の水を含んだシャーベット状の積雪は、ズルズルと流れる点発生雪崩を起こします。スピードは遅いですが、雪崩の密度が高いため、足元を取られがちです。この場合、雪崩に埋没して窒息するよりも、岩や立木に衝突したり、崖や滝に落下して怪我をすることが多くなります。下部にそのような『地形の罠』が存在する箇所を極力避けるルート取りをするとともに、致命傷を避けるためにヘルメットを着用したいものです」
「融雪が進んでくると、稜線や岩場の上に形成されている雪庇(せっぴ)が崩壊します。この塊が落ちる雪崩を『ブロック雪崩』といいます。冷蔵庫大の大きさのものや、時には軽自動車並のブロックが落下してくることもあります。崩落しそうなブロックの下で休憩をすることはもちろん、行動中も疑わしいブロックの下の通過はなるべく避けるべきです」
「同様に、春には積雪層全体が雪崩を起こす『全層雪崩』が発生する可能性があります。これは前兆として、積雪面にクラック(割れ目)が入ったり、そのクラックの下にシワが寄ったりします。このような前兆のある地形の下にはなるべく立ち入らないことが重要です」【つづく】
■関連情報
新井裕己氏略歴
1975年群馬県生まれ。鹿島槍ヶ岳北壁や不帰1峰北壁など、多くの初滑降記録を持つ日本を代表する山岳スキーヤー。雪崩啓蒙活動にも関わり、東京大学在学中には東京大学総長賞を受賞。クライミングにも精通し、「Rock&Snow(山と渓谷社)」誌に連載を持つ。著書に「フリークライミング(山と渓谷社・共著)」。現在、東京大学スキー山岳部監督。日本山岳協会選手強化委員。
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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小田 光康
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