今週のお役立ち情報
現代科学の闇(中)〜科学を語らない科学者たち〜
2007年02月10日10時53分 / 提供:PJ
【PJ 2007年02月10日】−
科学の「語り部」がいない
(上)からのつづき。科学をオカルト化から救うためには、科学を正しい言葉遣いで平易に解説する「語り部」の存在が不可欠である。誰が語り部としてふさわしいかと言えば、それはもちろん、科学者自身である。すべての科学者は、小中学校の勉強から出発して、現在の最先端科学へと到達した経歴を持っている。科学者が自分自身の経験を振り返りながら現在の研究を語れば、きっと多くの一般市民に理解されるに違いない。どのような知識が現在の研究の基礎になっているのか、現在の研究の先に何があるのか、を最もよく知っているのは彼ら自身である。
しかし、残念ながら、現代の職業科学者に「語り部」たることは求められていない。科学者は、最先端科学を探求することが使命であり、一般市民に研究を解説したところで、業績にはならない。むしろ、一般市民向けの活動は、研究の第一線から退いた科学者の仕事であるかのような雰囲気さえある。
現在、本来「語り部」の役割を果たすべき科学者に代わって、最先端科学と一般市民とをつないでいるのは、科学雑誌であり、テレビの科学番組である。科学雑誌としては、科学朝日(のちにサイアスと名称を変えたが、2000年に廃刊)、ニュートン、日経サイエンスなど、テレビ番組ではNHKの特集番組などが代表的であろう。わかりやすい解説と図解が、一般市民の科学の理解にどれだけ有用であるかを科学者たちに提示した点でも、これらは科学史上画期的な情報媒体であった。
文部科学省の調査によれば、科学雑誌の創刊が続いた1980年代の科学雑誌の総発行部数は108万部だったが、1990年代以降発行部数の減少に歯止めがかからない状態に陥り、廃刊・休刊が相次いでいる。その一方で、「科学に関心がある」人の割合は、1980年代後半以降も50〜60%と高く、わずかながら増加している。
科学に関心がありながら、科学から離れていく市民。その背景には、科学雑誌でさえも「語り部」としての役割を果たせないほど、科学が細分化し専門化したことがあるのだろう。今、科学の「客観性」と「再現性」を一般市民の手に取り戻すために必要なのは、最先端科学の知識を一般市民に開放し、解説することができる科学者であろう。それは、誰にでもできる仕事ではないし、なにより科学者たち自身の意識改革が不可欠である。
しかし、研究グループに、たった一人の「語り部」がいさえすれば、その研究成果の素晴らしさと価値を、一般市民と共有することができるのだ。その価値は、科学を一般市民から遊離させないために極めて重要である。全国の自治体が「シティセールス」を展開しているように、科学者も「リサーチセールス」を展開すべき時に来ている。もはや、基礎科学の研究者でさえも「孤高」が許される時代ではないだろう。
「あるある大事典」のデータ捏造事件を教訓として
生命科学は、最も身近な科学であると同時に、他の自然科学と比較すると、わからないことだらけの研究領域でもある。わからないことだらけの研究領域では、科学者の興味は科学者の数だけあり、科学という大樹のあちこちから新芽が吹き出す。その新芽が、葉になり、実をつけるかどうかは、他の科学者による検証や、他の科学者による成果との整合性を検討しなければ、わからない。面白い研究成果が次々と発表されるが、ただ一つの研究グループの成果を鵜呑みにすることは、危険なことでもある。
「あるある大事典」は、多くの市民の関心の的である「健康」に特化した番組で、ある意味で「生命科学」の語り部となりうる番組であった。しかし、納豆問題を発端として次々と明らかになったデータ捏造によって、語り部たる資格がなかったことを露呈した。情報を提供してきた科学者にとっても、情報を信じてきた一般市民にとっても、不幸な出来事だったとしか言いようがない。
テレビ番組が、科学者の研究成果を学術的に正確な形で伝えることは事実上不可能なのかもしれない。視聴者を引き付けるためのストーリー作りをしなければ、限られた時間の中で取り上げることは難しいし、そのためにはある程度の大雑把さは許容されるべきである。ただ、制作者の意図に反する事実を隠蔽してはならないし、主観的なデータの解釈を行うことも厳に慎まなければならない。科学的正しさを担保しながら、視聴者の興味を引き付ける番組を作ることは、難しい問題である。まずは、番組の制作者に研究成果を正しく理解してもらい、その上で番組制作に科学者自身が関与しうるような枠組み作りが求められるだろうが、試行錯誤の積み重ねによる成熟を待つしかないのが、もどかしくもある。【つづく】
■関連情報
PJニュース.net
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一【 宮城県 】
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(上)からのつづき。科学をオカルト化から救うためには、科学を正しい言葉遣いで平易に解説する「語り部」の存在が不可欠である。誰が語り部としてふさわしいかと言えば、それはもちろん、科学者自身である。すべての科学者は、小中学校の勉強から出発して、現在の最先端科学へと到達した経歴を持っている。科学者が自分自身の経験を振り返りながら現在の研究を語れば、きっと多くの一般市民に理解されるに違いない。どのような知識が現在の研究の基礎になっているのか、現在の研究の先に何があるのか、を最もよく知っているのは彼ら自身である。
しかし、残念ながら、現代の職業科学者に「語り部」たることは求められていない。科学者は、最先端科学を探求することが使命であり、一般市民に研究を解説したところで、業績にはならない。むしろ、一般市民向けの活動は、研究の第一線から退いた科学者の仕事であるかのような雰囲気さえある。
現在、本来「語り部」の役割を果たすべき科学者に代わって、最先端科学と一般市民とをつないでいるのは、科学雑誌であり、テレビの科学番組である。科学雑誌としては、科学朝日(のちにサイアスと名称を変えたが、2000年に廃刊)、ニュートン、日経サイエンスなど、テレビ番組ではNHKの特集番組などが代表的であろう。わかりやすい解説と図解が、一般市民の科学の理解にどれだけ有用であるかを科学者たちに提示した点でも、これらは科学史上画期的な情報媒体であった。
文部科学省の調査によれば、科学雑誌の創刊が続いた1980年代の科学雑誌の総発行部数は108万部だったが、1990年代以降発行部数の減少に歯止めがかからない状態に陥り、廃刊・休刊が相次いでいる。その一方で、「科学に関心がある」人の割合は、1980年代後半以降も50〜60%と高く、わずかながら増加している。
科学に関心がありながら、科学から離れていく市民。その背景には、科学雑誌でさえも「語り部」としての役割を果たせないほど、科学が細分化し専門化したことがあるのだろう。今、科学の「客観性」と「再現性」を一般市民の手に取り戻すために必要なのは、最先端科学の知識を一般市民に開放し、解説することができる科学者であろう。それは、誰にでもできる仕事ではないし、なにより科学者たち自身の意識改革が不可欠である。
しかし、研究グループに、たった一人の「語り部」がいさえすれば、その研究成果の素晴らしさと価値を、一般市民と共有することができるのだ。その価値は、科学を一般市民から遊離させないために極めて重要である。全国の自治体が「シティセールス」を展開しているように、科学者も「リサーチセールス」を展開すべき時に来ている。もはや、基礎科学の研究者でさえも「孤高」が許される時代ではないだろう。
「あるある大事典」のデータ捏造事件を教訓として
生命科学は、最も身近な科学であると同時に、他の自然科学と比較すると、わからないことだらけの研究領域でもある。わからないことだらけの研究領域では、科学者の興味は科学者の数だけあり、科学という大樹のあちこちから新芽が吹き出す。その新芽が、葉になり、実をつけるかどうかは、他の科学者による検証や、他の科学者による成果との整合性を検討しなければ、わからない。面白い研究成果が次々と発表されるが、ただ一つの研究グループの成果を鵜呑みにすることは、危険なことでもある。
「あるある大事典」は、多くの市民の関心の的である「健康」に特化した番組で、ある意味で「生命科学」の語り部となりうる番組であった。しかし、納豆問題を発端として次々と明らかになったデータ捏造によって、語り部たる資格がなかったことを露呈した。情報を提供してきた科学者にとっても、情報を信じてきた一般市民にとっても、不幸な出来事だったとしか言いようがない。
テレビ番組が、科学者の研究成果を学術的に正確な形で伝えることは事実上不可能なのかもしれない。視聴者を引き付けるためのストーリー作りをしなければ、限られた時間の中で取り上げることは難しいし、そのためにはある程度の大雑把さは許容されるべきである。ただ、制作者の意図に反する事実を隠蔽してはならないし、主観的なデータの解釈を行うことも厳に慎まなければならない。科学的正しさを担保しながら、視聴者の興味を引き付ける番組を作ることは、難しい問題である。まずは、番組の制作者に研究成果を正しく理解してもらい、その上で番組制作に科学者自身が関与しうるような枠組み作りが求められるだろうが、試行錯誤の積み重ねによる成熟を待つしかないのが、もどかしくもある。【つづく】
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