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「2ちゃんねる」の歪みと終焉

2007年01月17日08時58分 / 提供:PJ

pj
2ちゃんねるに初めてアクセスしたのは、西鉄バスジャック事件の犯行予告を見に行ったときだった。西鉄バスジャック事件が起きたのが、2000年5月3日。もう7年も前のことになる。

 2ちゃんねるには、ありとあらゆる情報が詰まっていた。事件があれば現場の近所に住む人がレポートしてくれるし、株価の動向や会社の決算の分析もある。パソコンの使い方に困ったときには、よってたかって解説してくれた。「知りたいことがあったらまず2ちゃんねる」という時期が、わたしにはあった。そして、わたし自身が知っていること、調べたことも2ちゃんねるに書き込むようになった。それは、わたしなりの2ちゃんねるへの恩返しだった。無数のスレッドの一つの、その中のほんの一つの質問に答えることだけで、2ちゃんねるを支えているように夢想するのは、楽しかった。数百万の書き込みの中に埋もれた自分の書き込みを、見ず知らずの一人が参考にしてくれて、「ありがとう」と書き込んでくれるだけで、満足だった。

 わたしの2ちゃんねるとの付き合いは幸せだったんだな、と最近になって思うようになった。誰かにひどく非難されたり攻撃されたりすることもなかったし、誰かを攻撃することもなかった。実生活が忙しくなってからは、泣ける2ちゃんねるお笑いコピペ選手権で、夜中に大泣きしたり大笑いして楽しんでいただけだった。だから、ニュースで2ちゃんねるの「暗部」が取り上げられるようになっても、実感はなかった。そういうところだけ集めて見ればそうなるだろう、と思っただけだった。

 2ちゃんねるは、ネット社会の「世間」である。誰でも書き込みができるし、どんな意見を言ってもいい。実社会では、人間はその人自身の行動と言動によってのみ評価されうる。2ちゃんねるでは、その人自身の「書き込み」によってのみ評価されうる。それだけの違いだ。匿名性は2ちゃんねるの特徴の一つだ。しかし、匿名の書き込みの向こう側に、実体を持った人間がいることを忘れてはならないように思う。匿名での書き込みでも、書き込んだ「人間」は、非難されれば傷つくし、褒められれば喜ぶ。非難されることを覚悟でホンネを書き込むこともあれば、注目を集めるために心にもないことを書き込むこともある。そこに実社会の「世間」と違いはない。

 2ちゃんねるは、実社会の法に当然縛られる。法は最低限の道徳を規定したものであり、最低限の道徳を守れない人間は、ネット上での書き込みにも法的責任を負う。個人情報を暴露した人間、脅迫した人間、罪を犯した人間。法を共有している限り、ネット社会が実社会から遊離することはない。もはや、ネット社会はアンダーグラウンドな無法地帯ではないのだ。

 「人間はその人自身の行動と言動によってのみ評価されうる」と書いた。では、2ちゃんねるへの"違法"な書き込みは、誰に責任があるのか。言うまでもなく、2ちゃんねるに書き込みをした人自身である。2ちゃんねるをめぐる訴訟では、「違法な書き込みを削除しなかった」として管理人が訴えられることが多い。管理人が訴えられるニュースに触れるたびに、それは筋違いだと思う。数百万の書き込みの中の、ほんのわずかな違法書き込みについて、管理人にどれほどの責任があるのか。

 しかし、現状はどうか。管理人は公判に出席せず、損害賠償訴訟に敗訴している。管理人の真意は分からないが、蓋然的には2ちゃんねるの違法な書き込みの責任を管理人が一身に背負って敗訴している状況だ。マスコミが騒いでいる「管理人が賠償金を支払うか否か」が問題の本質ではないように思う。2ちゃんねるという「世間」の中の出来事について、管理人が法的責任をとってしまっていることが問題なのだ。

 書き込んだ人の法的責任を明確にするのは容易なことではないし、明確にするためにはインターネットサイトの管理者が取るべき責任の限度を法的に規定して、管理者を法的に保護することも必要であろう。管理者が無限の責任を負わされる(あるいは、負うことのできる)可能性がある現状は、個人の責任を隠蔽し、ネット社会のひずみを生んでいる。

 ここ数日騒がれている「2ch.netドメインの仮差し押さえ」が、空騒ぎに終わるのか、あるいは2ちゃんねるの終焉になるのかは、現時点では分からない。ドメインを変更して生きつづけることもあるだろう。ただ、「2ちゃんねる」が質的大転換を遂げない限り、破綻への歩みは止まらないように思う。数百万人が参加するまでに成長した巨大掲示板が、いまさら転換できるのかという問題もある。しかし、責任の所在が明確ではない、あるいは責任を取るべき人間が責任を取らない社会は、いずれ破綻する。2ちゃんねるもその例外ではない。

 昨日から、仮差し押さえ報道を2ちゃんねるでどう議論しているのかを見ていた。2ちゃんねるの閉鎖騒動は今回が初めてではない。閉鎖騒動のたびに、あちこちの板で白熱した議論があった。技術的問題で閉鎖の危機を迎えたときには、システムに関する具体的な技術的問題も議論されていた。だが、今回の閉鎖騒動をマジメに議論しているのは、数えるほどのスレッドでしかない。申立人への個人攻撃に終始しているスレッドも多い。

 法的な問題であるため、裁判所の決定を待つしかないという面もあるだろうが、2ちゃんねるという「世間」が当たり前の存在になってしまって、2ちゃんねるに参加していながら当事者として議論に参加するつもりがない人が多いようにも感じる。もちろんそれは、個人の自由だ。2ちゃんねるが当たり前の存在になることは、逆説的かもしれないが、2ちゃんねるの終焉につながっていくような気がしている。今がその時期なのだろうか。

 2ちゃんねるを懐古してみても始まらないことはよく分かっている。2ちゃんねるには古い2ちゃんねるも新しい2ちゃんねるもなく、連続する「今」しかない。だが、わたしの中の2ちゃんねるは、管理人が書き込みに関する法的責任を取るような歪んだ2ちゃんねるではない。おかしなことを書けば、IPを抜かれて晒される緊張感があった時代の2ちゃんねるだ。そんな緊張感、言い換えれば自律への意思があのころ2ちゃんねるを支えていたのかもしれない、と今になって思う。ならば、今の2ちゃんねるを支えているのはなんなのだろう。

 2ch.netと打ち込んで404エラーが返ってきたら、どんな思いに駆られるのだろうとふと思った。一時代の終焉を感じるのか、ネット社会の限界を知るのか。そのときになってみないと分からないが。【了】

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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一

関連ワード:
2ちゃんねる  コピペ  アクセス  個人情報  犯行予告  
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