学歴の価値暴落 東大卒「割に合わない」
兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科助教授
中野雅至氏インタビュー(1)
2007年01月08日15時54分 / 提供:J-CASTニュース
学歴はお金にならない。損だ。みんなそう感じ始めている。にもかかわらず、進学競争がやまらないのはなぜか。兵庫県立大学大学院・応用情報科学研究科の中野雅至助教授はその著書「高学歴ノーリターン」(光文社ペーパーバックス)で、学歴の価値が大暴落し、東大卒でも報われないギャンブル社会がやってくる、と予見している。歪む日本の教育と格差社会の現状を、2回にわたり中野氏が斬る。第1回は「学歴は割に合うのか」について聞いた。
――「学歴の価値が暴落している」と指摘していますね。
中野 受験戦争を勝ち抜き、東大を卒業したエリート官僚たちが霞ヶ関でやらされていることは、パソコンの使えない上司の代用でしかありません。上司の手書きの文書を、しかも深夜に代打ちするのです。はっきり言って東大卒がやる仕事ではありませんが、彼らのそんな姿をわたしは旧労働省に勤務していた時代にみてきました。これまでは、彼らはそれなりに尊敬をかち得ていましたが、いまは『所得がいくらあるか』のほうが成功者としての尺度になっています。相次ぐ不祥事を目の当たりにし、所得も上がらない。一般の企業でも、果てはリストラで追い出される。そんな世の中が続けば、『東大なんて意味ない』という人が増えます。学歴社会のトップが崩れるのですから、おのずと学歴の価値は暴落します。
――受験戦争の反省が「ゆとり教育」への転換を促しました。それでも受験戦争がなくならないのはなぜでしょう。
中野 確かに、学歴の価値は下がっていることは、みんな認識しています。だからといって、ほかに投資しても、見返りがあるとはいえない。だったら、学歴。不利にならないくらいの条件は整えてあげたい、といったところでしょうか。一般の家庭では、『教育投資が割に合うのか』といえば、『合う』と信じざるを得ないし、それが安定した生活を送れる、モデルであると思っています。逆に言えばそれしかない。いや、抱かなければやっていけない、といったところでしょう。また、『ゆとり教育』といっても、『受験戦争はなくならない』と考えていたでしょうね。そう考えた人たちが子供を塾に行かせたり、私立校に入れるということを選んだのではないか、とはいえます。東京ではバブル前から私立校が強かったですから、それほど大きな変化が起こっているとは思いませんが、これが地方へ波及したことが大きいのではないでしょうか。
――一方で、最近は留学させたり、スポーツスクールなどへ通わせたりする親が増えてきたようです。
中野 お金のある人はいま、子供をスイスの寄宿舎のある学校へ通わせたり、早く英語をマスターさせようと留学させたりと、海外に目を向けています。ゴルフの宮里藍や横峯さくらの登場で、子供の頃からプロを目指して、親が子供をスポーツスクールに通わせるケースも増えているようです。おそらく、それは官庁などで働く東大卒のエリートが必ずしも高給取りではないし、報われていないことを親がわかっているからです。手に職というか、『プロフェッショナル』がもてはやされる時代といえます。しかし、実際の成功者はごく稀です。
――大学院で教鞭を執られています。「学歴が日本の社会であてにならない」ことを学生は認識しているのでしょうか。
中野 なんとなく、『大丈夫』と思っていて、明確な認識はないのではないでしょうか。ただ、学生たちは公認会計士や弁護士、勤務医など、日本のプロフェッショナルが米国ほど儲からないことを知っています。わたしはグローバル化というのであれば、報酬面でも米国並みに儲かるようになればいい。そうすれば、学歴熱も復活するのではないか、とにらんでいます。
――いま、「ゆとり教育」から昔のような、奉仕やボランティア、愛国心などに象徴される教育に戻そうとしています。昔に戻して、どうするのでしょう。
中野 むずかしい質問です。ただし、『昔の教育』が何を意味するのか、いまひとつわかりかねます。昔のような教育に戻れば、国家を強く意識した子どもが育成されるということは確かでしょう。詰め込み教育や公教育の復活が、格差や階級とどうリンケージするのか、正直わかりません。学歴と資格や所得を政府が結びつけようと努力するのであれば、公教育が復活して、格差の是正につながるような気がします。
【中野雅至氏プロフィール】
1964年奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業後、90(平成2)年旧労働省入省。人事院長期在外研究員制度でThe School of Public Policy, The University of Michiganに留学、公共政策修士。労働省職業安定局高齢・障害者対策部企画課総括係長、厚生省生活衛生局指導課課長補佐(法令担当)を経て、2000(平成12)年から3年間新潟県総合政策部情報政策課長。厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)を経て、04(平成16)年4月から現職。経済学博士。
主な著書に「間違いだらけの公務員制度改革」(日本経済新聞社)、「格差社会の結末」(ソフトバンククリエイティブ)、「ローカルIT革命と地方自治体」(日本評論社)、「高学歴ノーリターン」(光文社ペーパーバックス)、「はめられた公務員」(光文社ペーパーバックス)、「投稿論文でキャリアを売り込め」(日経BP社)がある。
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