在宅勤務で働く沖ワークウェルの障害を持つ社員。(写真提供:沖ワークウェル)

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通信ネットワークを利用して、場所や時間にとらわれずに働く労働形態「テレワーク」を積極的に活用して、障害者の雇用推進に役立てている企業が注目されている。

 在宅勤務を奨励する総務省や経済産業省など4省から支援を受ける社団法人日本テレワーク協会(東京都千代田区、青木利晴会長)主催の「第7回テレワーク推進賞」(2006年12月13日に表彰式)で、奨励賞を受賞した沖ワークウェル(東京都港区)の木村良二社長と、ライブドア(東京都港区)の平松庚三社長に、障害者雇用について聞いてみた。

 障害者雇用促進法による民間企業(常用労働者数56人以上)の設定数値は1.80%。厚生労働省が06年12月14日に発表した同年(6月1日現在)の実雇用率は1.52%だが、支援・活用の部で奨励賞を受賞した沖ワークウェルが所属する沖グループの実雇用率は06年12月現在で1.92%に上る。42人の社員のうち34人が障害者(在宅勤務者が27人)で、同グループ会社内のホームページ制作や名刺作成などを行っている。

 障害者の「完全参加と平等」の実現を目指す社会福祉法人・東京コロニー(東京都中野区、勝又和夫理事長)の常任理事も務める沖ワークウェルの木村社長は「福祉的就労施設の充実なしには、障害者の就労促進はいずれ行き詰まる」と危惧を隠さない。この就労促進を浸透させるために、作業所などの就労施設が障害者の教育や研修の役割を担うべきというのが木村社長の主張であり、06年10月1日から本格的に施行された障害者自立支援法によって、障害者の「働く場」は一変したと説明する。

 同支援法施行前には、作業所など通所施設に通って「作業」をこなし、月5000円−1万円程度の支給金を受け取っていた障害者は、施行後は逆に、施設利用料や食費を請求され、自己負担が発生するようになった。その結果、施設の利用を断念した障害者も少なくないという。木村社長は「福祉的就労施設は、能力とやる気があって積極的に社会参加できる障害者と、作業所で仲間と一緒に働くことを『生きがい』に感じる障害者など、それぞれに適した環境を提供できる場であるべき」と持論を展開する。

 一方、ライブドアは、同社ポータルサイト内の誤字脱字や表示不具合の確認業務などを行う障害者の在宅社員4人の採用などが評価され、同テレワーク推進賞の実施・推進の部で奨励賞を受賞。実雇用率は06年10月現在で1.16%と低いが、07年9月までにさらに4人の障害者を雇用する計画だ。同事業のきっかけは、堀江貴文元社長=証券取引法違反の罪で公判中=が就任していた05年9月ごろ、長野県からIT企業に障害者雇用についての打診があり、重度身体障害者の在宅就労を支援するNPO法人、SOHO未来塾(長野県松本市)に業務を05年10月に委託。06年5月に4人の正社員が同社に誕生した。

 現在、テレワーク事業を推進する同社の平松社長は、障害者雇用に関して堀江元社長が好んで使っていた「ウィンウィン」(両方が勝者となり、得をする)理論を展開し、テレワークによる在宅勤務が障害者雇用の機会を創出し、同社のニーズにマッチしたと説明する。「『税金を払えるようになってうれしい』という(障害者)社員の声は忘れられない」と話す平松社長は、雇用した社員は知識・質・モチベーションが非常に高いと絶賛。同社はテレワークを利用して、障害者の中に埋もれた貴重な人材を雇用するように、IT同業他社に呼びかけている。

 「福祉事業は、企業マインドが7割、福祉マインドが3割のバランス感覚が必要不可欠」という沖ワークウェルの木村社長は、福祉的就労施設、NPOとの役割分担を明白にした上で、企業は業務、資金、人材を障害者雇用に提供するというCSR(企業の社会的責任)を考える。一方、ライブドアの平松社長は、「ウィンウィン」理論の発想で、経営戦略の一部としてテレワークを利用しながら、障害者雇用に対する機会平等の実現を目指す。沖ワークウェルとライブドア、考え方は異なるが、いずれも障害者の雇用推進に一役買っている。【了】