【書評】ウェブ人間論ー梅田望夫×平野啓一郎対談
2007年01月04日11時24分 / 提供:PJ
昨年末、正月休みに読もうと思い、「ウェブ人間論」(新潮新書)を買った。最近、ネットで書物を注文するのが多く、久しぶりに本屋で買ったが、本屋の店頭で山積みされていた「ウェブ人間論」はそれなりの面白さがあった。
「ウェブ人間論」は1999年、京都大学在学中に「日蝕」で芥川賞を受賞した作家の平野啓一郎氏と、昨年「ウェブ進化論」でIT分野の知的リーダーとしての地位を確立した梅田望夫氏との対談記録である。
アマゾンの書評に見られる相反する評価
アマゾンにでている書評を見ると、この本の評価は2つに割れている。IT関係の技術者にとっては、「ウェブ人間論」という人生論・哲学論的な問題設定が面白くないかもしれない。書評の一つに、「人間論そのものに興味がある人には面白いでしょう。しかし私のように、ウェブの側からこの本に興味を持った人間には、正直よく分かりませんでした」とあったが、こうした人々の典型的な見方だろう。
一方、この本を高く評価する人は、平野氏の常識的な問いかけに魅力を見出している。つまり、平野氏は、日常生活者として「ウェブ2.0」などのネット論議に常識的な疑問を投げかけている。書評の一つに「海外に飛び出せる実力とタイミング(年齢も含めて)を持っている人は別として、『リアルの現状を改善する方向へ努力しなさい』という(平野氏の)テーゼはまだまだ重いものがあります」との感想は、ネットにそれ程関心の高くない人の普通の感覚だろう。
ウェブ2.0概念に対する平野氏の自然な疑問
シリコンバレーに居住している梅田氏は、前著「ウェブ進化論」で、1)グーグルによる検索機能の高度化、2)WEB2.0によるロングテール現象、3)ブログの一般的な普及、等々により情報発信側にも情報受信側にも革命的変化が起こっていることを語り、大ベストセラーとなった。
一方、小説家・文筆業の平野氏は、インターネットの機能拡充が著作権(コピーの氾濫による文筆業収入源の縮小)や他国語への翻訳(より多くの人々へ自分の作品を紹介できる)の影響に関心を投げかける。文筆業という職業が、ネットの発達により失われるかもしれない不安を表わしたものと考えられ、質問の意図はわかり易い。
平野氏と梅田氏の年齢(平野氏31歳、梅田氏46歳)を考えれば、年齢が高くウェブ関係の知識の豊富である梅田氏に共感する点が多くても良さそうなのだが、平野氏の疑問に説得力を感じてしまうのは文化系学部出身の限界なのだろうか。
個人的に平野氏の発言に好意を持つ要因には、一昨年、平野氏が映画「みやび」で三島由紀夫作品を解説する姿を映像で見ていたことが大きい。芥川賞受賞者の勲章とともに映像の持っている不思議な効果だろう。
一方、梅田氏についていえば、米国のネット産業の本拠地であるシリコンバレーに長らく住み、コンサルティング・ビジネスやベンチャー・キャピタルを日米で行って来た経歴を持っている。しかし、こうした技術・知識集約型企業は、日本でも米国でも乱立しており、中には近未来通信のように多少胡散臭い例もあり、必ずしも信用が高くはないのが実情である。IT産業関連の講演会等でも自称IT技術評論家があふれ、彼らの講演を聞いてももう一つピンと来ないことが多かったことが、梅田氏の各種テーゼに対する疑問の根幹にある。
こうした読者の梅田氏に対する疑問を解き明かすかのように、平野氏は、「ウェブ2.0」の定義について単純に質問する。「(1995年から始まる)最初の10年が『ウェブ1.0』で、これからが『ウェブ2.0』という理解で良いんでしょうか?」。これに対し梅田氏は、「ただ利便性、コンビニエンスというのは、まだ1.0の感覚なんですよ。利便性以上の変容を迫るのが2.0なんですよ」 と答える。
平野氏はさらに、「この2.0がもたらした事態も後から見れば『ささやかな変化』ということになるんでしょうか?」「今後何が起きるのかについて、梅田さんなりの見通しというのは現時点であるのですか?」と次々に疑問を発し梅田氏に迫っていく。
結局、梅田氏は、「わからないです。・・・だから今『ウェブ2.0』だなんて騒いでいるけれど、次のグーグルになるような新しい技術開発が水面下ではもう進行しているのかもしれない」と、今後の技術開発に答を託す形で会話を終えている。
この本の「おわりに」の章で、梅田氏は、平野さんは「社会がよりよき方向に向かうために、個は何が出来るのか、何をすべきか」と思考する人である。・・・私はむしろ『社会変化とは否応もなく巨大であるがゆえ、変化は不可避との前提で、個はいかにサバイバルすべきか』を最優先に考える」と書いている。
梅田氏の「ウェブ進化論」を読む前に、この本「ウェブ人間論」を読んでしまったことで、梅田氏に対し多少見当違いの見方があるかもしれない。その為、「ウェブ進化論」を読んで見てもう一度、梅田氏と「ウェブ2.0」の世界を再評価する機会がでてくるかもしれない。 【了】
■関連情報
ウェブ人間論
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
日蝕
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「ウェブ人間論」は1999年、京都大学在学中に「日蝕」で芥川賞を受賞した作家の平野啓一郎氏と、昨年「ウェブ進化論」でIT分野の知的リーダーとしての地位を確立した梅田望夫氏との対談記録である。
アマゾンの書評に見られる相反する評価
アマゾンにでている書評を見ると、この本の評価は2つに割れている。IT関係の技術者にとっては、「ウェブ人間論」という人生論・哲学論的な問題設定が面白くないかもしれない。書評の一つに、「人間論そのものに興味がある人には面白いでしょう。しかし私のように、ウェブの側からこの本に興味を持った人間には、正直よく分かりませんでした」とあったが、こうした人々の典型的な見方だろう。
一方、この本を高く評価する人は、平野氏の常識的な問いかけに魅力を見出している。つまり、平野氏は、日常生活者として「ウェブ2.0」などのネット論議に常識的な疑問を投げかけている。書評の一つに「海外に飛び出せる実力とタイミング(年齢も含めて)を持っている人は別として、『リアルの現状を改善する方向へ努力しなさい』という(平野氏の)テーゼはまだまだ重いものがあります」との感想は、ネットにそれ程関心の高くない人の普通の感覚だろう。
ウェブ2.0概念に対する平野氏の自然な疑問
シリコンバレーに居住している梅田氏は、前著「ウェブ進化論」で、1)グーグルによる検索機能の高度化、2)WEB2.0によるロングテール現象、3)ブログの一般的な普及、等々により情報発信側にも情報受信側にも革命的変化が起こっていることを語り、大ベストセラーとなった。
一方、小説家・文筆業の平野氏は、インターネットの機能拡充が著作権(コピーの氾濫による文筆業収入源の縮小)や他国語への翻訳(より多くの人々へ自分の作品を紹介できる)の影響に関心を投げかける。文筆業という職業が、ネットの発達により失われるかもしれない不安を表わしたものと考えられ、質問の意図はわかり易い。
平野氏と梅田氏の年齢(平野氏31歳、梅田氏46歳)を考えれば、年齢が高くウェブ関係の知識の豊富である梅田氏に共感する点が多くても良さそうなのだが、平野氏の疑問に説得力を感じてしまうのは文化系学部出身の限界なのだろうか。
個人的に平野氏の発言に好意を持つ要因には、一昨年、平野氏が映画「みやび」で三島由紀夫作品を解説する姿を映像で見ていたことが大きい。芥川賞受賞者の勲章とともに映像の持っている不思議な効果だろう。
一方、梅田氏についていえば、米国のネット産業の本拠地であるシリコンバレーに長らく住み、コンサルティング・ビジネスやベンチャー・キャピタルを日米で行って来た経歴を持っている。しかし、こうした技術・知識集約型企業は、日本でも米国でも乱立しており、中には近未来通信のように多少胡散臭い例もあり、必ずしも信用が高くはないのが実情である。IT産業関連の講演会等でも自称IT技術評論家があふれ、彼らの講演を聞いてももう一つピンと来ないことが多かったことが、梅田氏の各種テーゼに対する疑問の根幹にある。
こうした読者の梅田氏に対する疑問を解き明かすかのように、平野氏は、「ウェブ2.0」の定義について単純に質問する。「(1995年から始まる)最初の10年が『ウェブ1.0』で、これからが『ウェブ2.0』という理解で良いんでしょうか?」。これに対し梅田氏は、「ただ利便性、コンビニエンスというのは、まだ1.0の感覚なんですよ。利便性以上の変容を迫るのが2.0なんですよ」 と答える。
平野氏はさらに、「この2.0がもたらした事態も後から見れば『ささやかな変化』ということになるんでしょうか?」「今後何が起きるのかについて、梅田さんなりの見通しというのは現時点であるのですか?」と次々に疑問を発し梅田氏に迫っていく。
結局、梅田氏は、「わからないです。・・・だから今『ウェブ2.0』だなんて騒いでいるけれど、次のグーグルになるような新しい技術開発が水面下ではもう進行しているのかもしれない」と、今後の技術開発に答を託す形で会話を終えている。
この本の「おわりに」の章で、梅田氏は、平野さんは「社会がよりよき方向に向かうために、個は何が出来るのか、何をすべきか」と思考する人である。・・・私はむしろ『社会変化とは否応もなく巨大であるがゆえ、変化は不可避との前提で、個はいかにサバイバルすべきか』を最優先に考える」と書いている。
梅田氏の「ウェブ進化論」を読む前に、この本「ウェブ人間論」を読んでしまったことで、梅田氏に対し多少見当違いの見方があるかもしれない。その為、「ウェブ進化論」を読んで見てもう一度、梅田氏と「ウェブ2.0」の世界を再評価する機会がでてくるかもしれない。 【了】
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ウェブ人間論
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
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パブリック・ジャーナリスト 片岡孝二郎
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