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「生きた英語」って何だろう?

2006年12月30日10時56分 / 提供:PJ

pj
PJの工藤さんの記事「日本の英語教育では英語が喋れるようになる訳がない」を読んで、ちょっと考えさせられた。よくいわれる「生きた英語を身につけよう」という標語についてである。工藤さんの主張するところは、突き詰めて考えると「英語の発音」と「英語の慣用句」をきちっと身につける必要がある、ということではなかろうか。これにわたしはまったく同感である。中学・高校と日本語なまりの英語教育を受けてきたせいか、米国に留学した際、わたしの下手な英語はアメリカ人にはまったく通用しなかった。

 しかし、もっと重要なことに気付かされたのも事実だ。それはリベラル・アーツ(常識的な教養)と専門分野の知識を身につけていることだった。日常会話程度であれば、一年も滞在すれば日常使う単語の発音も覚えるし、英語の慣用句も身に付く。たいていの英会話は通じるようになると思う。しかし、「食っていく」ための、「社会人として通用する」ための英語はそうはいかない。

 わたしの英語の勉強といえば、学部時代の英語論文の読みこなしが一番実になった。学部時代は勉強というか実験に明け暮れ、その合間に膨大な量の英語の研究論文を読んでいた。専門用語さえ押さえていれば、科学論文を読みこなすのはさほど難しくない。誤解を避け、正確に物事を伝えるための科学論文には、単純で明瞭な表現が用いられていたためだ。

 渡米後、わたしは当初、理科系の大学院に進学したのだが、授業中の英語での説明がからっきし理解できなかった。生化学の講義中、教授がわたしに向かって「エスノー、エスノー」と言うのだが、どんな物質なのか分からない。教授はあきれた顔でわたしを眺めていた。化学式で書いてもらうと「C2H6O」。なんだ、「エタノール」のことじゃないか。ここでは英語の発音の大切さもさることながら、化学式という言語でもコミュニケーションでき、生化学そのものを良く理解していれば、米国人とも渡り合えることに気付いた。この時、専門知識を習得することの大切さをあらためて感じた。

 アメリカの理科系大学院の院生のほとんどは外国人留学生だ。同級生12人のうち4人が中国人とインド人、3人が韓国人、そしてわたしだった。同級生にアメリカ人は一人もおらず、その研究科全体でも上級生に一人いるだけだった。同級生の英語はお世辞でもうまいとは言えなかった。同じ研究室の中国人の友達とは英語で説明が付かなくなると、「漢字」と「化学式」の筆談でコミュニケーションを取った。つまり、いろいろな国の人々とコミュニケーションを取るのに、英語はツールの一つでしかないと納得したのだった。

 就職はアメリカの会計事務所にした。そのアトランタの事務所には500人の会計士・弁護士・MBAが勤めていたのだが、その99%がアメリカ人だった。毎日の会話は当然、英語。英語でクライアントや同僚と話し、英語の資料やプレゼンテーションを用意する日々が続いた。仕事の内容は英語で理解していなければ話にならない。それより苦労したのが常識的な教養の会話だ。特に困ったのが世界史や日本史に関すること。

 酒の席では必ず、時事問題や世界や日本の歴史の話が出る。こんなことをウイットたっぷりにさらりと話すのが米国流の教養人の証しとされる。彼らはわたしが日本人だと知っていたので、英語でもゆっくりわかりやすいように話してくれた。しかし、理解できなかった。なぜなら、わたしに常識が無かったから。一般教養を著しく欠いていたので非常に肩身の狭い思いをした。日本から高校の世界史と日本史の教科書を取り寄せて、何度も読み返したほどだった。

 かれこれ約10年間、アメリカに滞在したのだが、いまだに日本語なまりの英語が抜けきらない。もう40歳も過ぎているので直すに直せず、しかたのないことだろう。ゆっくり話すことで、相手に理解してもらうようにしている。

 アメリカ人と会話するうえで、さらにはいろいろな国の人々への理解を深めるうえで、英語の大切さが身にしみたことはいうまでもない。だが、その英語を生かすための一般教養がもっと大切だということは言葉で表せないほどだ。昨今、世界史の履修漏れの問題が新聞紙面をにぎわしているが、この問題こそが、グローバル社会での日本や日本人への評価を左右する大問題なのである。世界史だけでなく、高校で履修する教科をまんべんなく身につけてこそ、生きた英語が使えるようになる、とわたしは考えている。【了】

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※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 小田 光康

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