「ゆうちょ銀行」のスタートまで1年を切った

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   郵政民営化を監視する政府の郵政民営化委員会(田中直毅委員長)は2006年12月20日、07年10月に発足する「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」の新規業務について、どんな方針で認可するか、についての考え方をまとめた。

   住宅ローンやクレジットカードなど個人向けサービスを中心に認める方向性を打ち出し、既存の銀行や生保など業界団体が強く主張する民業圧迫論を退ける内容になった。「民営化まで1年を切ったこの段階で、そんな論議にはもうつきあえない」と業界を突き放した格好だ。

国債が暴落すると、地銀も道連れになる

   「新規業務の調査審議に関する所見」を公表した田中委員長は、「政府が100%株式を持っている段階でも、新商品を一切認めないというわけにはいかない。郵政民営化の目的は競争の促進による経済の活性化と利用者利便の向上で、金融業界の利害調整はしない。適正な競争関係は確保する」と説明した。金融業界にくすぶる民業圧迫論を、もう終わりにしたいという意図が明確だった。

   民営化で誕生する新会社は300兆円を超える資産規模を誇るが、「規模が大きいだけで相当変な金融機関。国債と公社債しか持っておらず、信用リスクがとれていない。健全な銀行のバランスシートではなく、何もしなければ経営破綻する」(同委員会関係者)という。郵便貯金の現状について「所見」も、「定額貯金による調達と国債の運用に偏り、ビジネスモデルには競争力がない」と言及した。

   「大量の国債を抱えるゆうちょ銀行の経営が揺らげば、国債も暴落する。地方金融機関だって国債を多く抱えており、地銀も道連れだ」(同)。既存の金融機関はみな郵政民営化の成功と利害を共有しており、同じ船に乗る運命共同体という見立てだ。

「各論」になると業界利害を優先してしまう体質

   金融界も実は、こうした認識を総論で理解している。しかし、各論になると業界利害を優先して、「株式の完全売却まで新規事業を認めない」と主張していた。ある委員会関係者は「志のある金融マンが、民業圧迫論をいつまで言っていても顧客の共感は得られないとこぼしていた」と打ち明ける。そんな業界事情を見透かし、「所見」は「既存の金融機関との健全な競争で、国民の利便性が向上する」と競争を恐れるなと訴えた。

   郵便貯金と銀行業界は「百年戦争」と呼ばれる対立の構図が続いた。ほんの10年前の96年には、郵便局ATM(現金自動預払機)と銀行ATMの接続問題があり、敵対する郵政省(当時)との提携論議はタブー視されていた。アンチ郵政の雄である東京三菱銀行がATM接続したのは04年暮れと最近のことだ。

   新会社の新規業務といっても、例えば住宅ローンを扱える人材や審査体制、システムが整うには2年程度かかり、田中委員長も「業務拡大は段階的なものになる」と述べている。それでも、住宅ローンにゆうちょ銀行が参入し、健全な競争でローン金利が下がれば、国民も郵政民営化のメリットを享受できる。今回の「所見」で国民から乖離した不毛な論争が終わるのか。とかくサービスが悪いと言われる日本の金融業界は新秩序に向けて脱皮する覚悟が問われている。