シルクロード関連の講演で井上靖氏について話した写真家の大塚清吾さん(右)と、井上氏長女の浦城幾世さん(撮影:佐谷恭)

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まだシルクロードが全く未知の場所だった27年前、NHK取材班や作家の井上靖氏らと同地を旅した写真家の大塚清吾さん(60)が6日、東京都世田谷区の日本大学文理学部で講演し、井上さんとの思い出などを語った。25日まで同学部で開かれているシルクロードに関する展示会の一環として、“シルクロード探検”の体験者の大塚さんが講師に招かれた。

 大塚さんは、井上氏が気持ちのはやる取材班に対して、「今日はいい顔をした仏様の近くで、ゆっくり休みましょう」「ここに立つことに意味があるんですよ」などと冷静さを取り戻させたエピソードを紹介。同行した学者がデータ収集や分析との照会だけを急ぐ中、多くのシルクロード関連の小説を訪問以前に文献のみによって書いた井上氏は、一つひとつの場所をかみしめながら回ったという。

 また、一連のシルクロード取材のためにNHKが莫大な費用を中国政府に支払ったという秘話を明かし、「他国のテレビ局も取材のためにより多くの金額を支払う準備をしていたようだ。しかし、シルクロード小説で名高い井上先生に対する中国政府の信頼が厚く、歴史的なドキュメンタリーの作成に日本が関わることができた」と、体験を感慨深げに語った。

 同講演には、井上氏の長女・浦城幾世さんも聴講に来ていた。浦城さんは「大塚さんが写真や書籍で、父のことを伝えてくれて嬉しい。少しでも多くの人が、父について知ってくれれば」と語り、謝辞を述べた。【了】

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