社保庁解体でも年金不信は消えない
2006年11月09日08時12分 / 提供:PJ
社会保険庁の解体と「ねんきん事業機構」の設置を中心とした"社会保険庁改革関連法案"は、審議未了で廃案となる見込みとなった。一からの出直しである。
社会保険庁の改革は、年金問題の本質ではない。確かに、社会保険庁の不祥事が度々報道されており、社会保険庁という組織の見直しは必要であろう。しかし、これまで明らかになっている不祥事は、随意契約による不明朗な物品購入、補助金関連書籍の監修料受領、年金納付状況の目的外閲覧、不正な免除申請手続きなど、国民の目に付きやすい、批判しやすい不祥事ばかりである。社会保険庁の組織改革によって、これらの不祥事はなくなるかもしれない。しかし、社会保険庁の改革が行われたとしても、年金への信頼が回復するとは思わない。それは不信の原因が、社会保険庁の不祥事にではなく、「年金資金の無駄遣い」にあると思うからだ。
年金資金の運用は、2001年度までは財務省(旧大蔵省)資金運用部が行っていた。2005年度に厚生労働大臣による自主運用が開始して、年金資金運用基金事業団がその全額を運用することになった。現在は、2006年度に設立された年金積立金管理運用独立行政法人が運用を行っている。
そもそも、年金問題が注目される発端となったのは、グリーンピア問題である。グリーンピアは、当時の年金福祉事業団が全国13カ所に建設した保養施設で、赤字経営が続き、2005年度末に全廃された。建設費用は財務省資金運用部からの借り入れで、総額3730億円。廃止に伴う売却額はわずか48億円。このような巨額の損失を出しながら、誰一人として処分されなかった。
年金住宅融資は年金加入者に貸し付ける住宅ローンで、1973年度から2005年度に新規融資が廃止されるまでの32年間で、403万件、総額25兆8000億円の貸し付けを行ってきた。貸付資金は、資金運用部から年金福祉事業団が借り入れ、それを加入者に貸してきたが、借入金利よりも貸出金利が低く設定されていたため、貸せば貸すほど損をする「逆ザヤ」の状態になっていた。逆ザヤによる損失は、1兆3200億円。低金利時代になって逆ザヤは解消されたが、それでも9000億円あまりの損失がある。現在の融資残高は6兆円あまりで、不良債権も含まれているらしいが、詳細は明らかになっていない。この住宅融資損失の責任も誰も負っていない。
今年3月、4兆4000億円の年金積立金を取り崩して、総額6兆3000億円の財務省からの借り入れを一括返済した。グリーンピアの損失も、逆ザヤの損失も、年金積立金から返済されてしまった。年金加入者からの返済も残っているので、最終的な損失は1兆3000億円と見込まれている。返済によって、財務省の「不良債権」は減ったかもしれない。しかし、積み立てていた年金で損失を埋めたのだから、国民の資産が減ったという点ではなんの違いもない。
現在、総額140兆円にものぼる年金積立金のうち、83兆円が運用されている。2005年度は、約9兆円の利益があった。しかし、運用していれば、儲かることも損をすることもある。運用責任者が責任を取っても損失が返ってくるわけではないが、損をすれば責任を取らされるという緊張感がないのであれば、国民の金で遊ぶゲームでしかない。そんな無責任なゲームをしておきながら、給付水準の引き下げ、保険料の引き上げをされたのではたまったものではない。
近い将来、厚生年金との一元化によって、大幅な赤字になっている国民年金(2005年度国民年金特別会計国民年金勘定は1071億円の赤字)の辻褄あわせが行われるだろう。そのとき、国会での議論は制度改革に重点が置かれ、過去の損失についての個別的な議論は行われないかもしれない。郵政民営化のときと同じような理念的抽象論で議論が終わってしまう危険性がある。そんなことをさせないためにも、運用の責任、損失の責任の所在を明らかにする必要がある。
社会保険庁を改革すれば信頼が回復する、と政府は思っているらしいが、それは大きな間違いである。社会保険庁の改革は、徴収・給付の窓口業務の改革でしかない。被保険者と直に接する窓口の不手際は、被保険者の「不満」となるだろう。しかし、今問題となっているのは、「不信」であり、年金制度に対するもっと根源的な不安感である。その不安を取り除く努力をしない限り、年金は破綻する。【了】
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社会保険庁の改革は、年金問題の本質ではない。確かに、社会保険庁の不祥事が度々報道されており、社会保険庁という組織の見直しは必要であろう。しかし、これまで明らかになっている不祥事は、随意契約による不明朗な物品購入、補助金関連書籍の監修料受領、年金納付状況の目的外閲覧、不正な免除申請手続きなど、国民の目に付きやすい、批判しやすい不祥事ばかりである。社会保険庁の組織改革によって、これらの不祥事はなくなるかもしれない。しかし、社会保険庁の改革が行われたとしても、年金への信頼が回復するとは思わない。それは不信の原因が、社会保険庁の不祥事にではなく、「年金資金の無駄遣い」にあると思うからだ。
年金資金の運用は、2001年度までは財務省(旧大蔵省)資金運用部が行っていた。2005年度に厚生労働大臣による自主運用が開始して、年金資金運用基金事業団がその全額を運用することになった。現在は、2006年度に設立された年金積立金管理運用独立行政法人が運用を行っている。
そもそも、年金問題が注目される発端となったのは、グリーンピア問題である。グリーンピアは、当時の年金福祉事業団が全国13カ所に建設した保養施設で、赤字経営が続き、2005年度末に全廃された。建設費用は財務省資金運用部からの借り入れで、総額3730億円。廃止に伴う売却額はわずか48億円。このような巨額の損失を出しながら、誰一人として処分されなかった。
年金住宅融資は年金加入者に貸し付ける住宅ローンで、1973年度から2005年度に新規融資が廃止されるまでの32年間で、403万件、総額25兆8000億円の貸し付けを行ってきた。貸付資金は、資金運用部から年金福祉事業団が借り入れ、それを加入者に貸してきたが、借入金利よりも貸出金利が低く設定されていたため、貸せば貸すほど損をする「逆ザヤ」の状態になっていた。逆ザヤによる損失は、1兆3200億円。低金利時代になって逆ザヤは解消されたが、それでも9000億円あまりの損失がある。現在の融資残高は6兆円あまりで、不良債権も含まれているらしいが、詳細は明らかになっていない。この住宅融資損失の責任も誰も負っていない。
今年3月、4兆4000億円の年金積立金を取り崩して、総額6兆3000億円の財務省からの借り入れを一括返済した。グリーンピアの損失も、逆ザヤの損失も、年金積立金から返済されてしまった。年金加入者からの返済も残っているので、最終的な損失は1兆3000億円と見込まれている。返済によって、財務省の「不良債権」は減ったかもしれない。しかし、積み立てていた年金で損失を埋めたのだから、国民の資産が減ったという点ではなんの違いもない。
現在、総額140兆円にものぼる年金積立金のうち、83兆円が運用されている。2005年度は、約9兆円の利益があった。しかし、運用していれば、儲かることも損をすることもある。運用責任者が責任を取っても損失が返ってくるわけではないが、損をすれば責任を取らされるという緊張感がないのであれば、国民の金で遊ぶゲームでしかない。そんな無責任なゲームをしておきながら、給付水準の引き下げ、保険料の引き上げをされたのではたまったものではない。
近い将来、厚生年金との一元化によって、大幅な赤字になっている国民年金(2005年度国民年金特別会計国民年金勘定は1071億円の赤字)の辻褄あわせが行われるだろう。そのとき、国会での議論は制度改革に重点が置かれ、過去の損失についての個別的な議論は行われないかもしれない。郵政民営化のときと同じような理念的抽象論で議論が終わってしまう危険性がある。そんなことをさせないためにも、運用の責任、損失の責任の所在を明らかにする必要がある。
社会保険庁を改革すれば信頼が回復する、と政府は思っているらしいが、それは大きな間違いである。社会保険庁の改革は、徴収・給付の窓口業務の改革でしかない。被保険者と直に接する窓口の不手際は、被保険者の「不満」となるだろう。しかし、今問題となっているのは、「不信」であり、年金制度に対するもっと根源的な不安感である。その不安を取り除く努力をしない限り、年金は破綻する。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一
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