HIVとともに生きる(中)
2006年10月19日06時31分 / 提供:PJ
(上)からのつづき。
−HIVに感染していることがわかったきっかけを教えてください。
「結婚して7年も経つのに子供がなかなかできなくて、不妊治療専門の産婦人科に夫婦で相談に行きました。それが今年の2月です。検査をしたら不妊の原因がわかって、体外受精をすることにしました。体外受精を申し込みに行って、説明を受けた後、感染症の検査をしましょう、と言われて、血液検査を受けました。体外受精の前には、一通り性病の検査をするのが普通だそうです。それから一週間ぐらいして、病院からはがきが来て、『精密検査が必要ですから、もう一度来てください』って書いてありました。病院にいったら、HIVの簡易検査(スクリーニング検査)で陽性が出たと言われました。それが最初です」。
−それを聞いて、どう思いました?
「びっくりしました。でも、実感はありませんでした。検査ミスとか、検体の取り違えとか、そんなことを考えていました。家に帰ってネットで調べたら、スクリーニング検査で陽性が出て、精密検査で陰性になる(擬陽性)割合は、1%以下って書いてあるのを見つけて、わたしはその1%なんだって思っていました」。
−奥さんには?
「病院には二人で行ってましたから、一緒に検査結果を聞きました。妻の血液検査は、体外受精の直前にホルモン検査と一緒にする予定だったので、わたしのスクリーニング検査の結果が出たときには、妻が感染しているかどうかはわかりませんでした。わたしの結果が陽性だったので、その場で血液を採って、検査しました。でも、検査結果が出るまでの一週間を待っていられなくて、一緒に即日検査をしてくれるところに行きました。即日検査の結果、わたしはまた陽性、でも、妻は陰性でした。子供がほしくて普通に性交渉はあったので、もしわたしが感染していたら妻も感染している可能性が高く、妻が陰性だったと知って、本当によかったと思いました」。
−精密検査の結果を聞いたときはどんな心境でしたか。
「スクリーニング検査の結果を聞いた直後は、何かの間違いだと思っていましたが、そんなことばかり考えていてもしょうがないと思い始めて、本当に感染していたらどうしようと考えていました。だから、精密検査の結果を聞いたときは、比較的冷静だった気がします」。
−精密検査の結果を聞いて、どんなことを考えましたか?
「妻と別れようって思ってました。一緒に生活していれば、妻への感染のリスクは当然あるわけで、子供もいないし、別れるのが当たり前だと思っていました。自分のことはあまり考えませんでした。死ねばそれで済むって思っていた」。
−でも別れなかったんですね。
「検査結果を聞いて、家に帰る車の中で『ずっと一緒にいようね』って言ってくれました。・・・HIV陽性ってわかってから、泣いたのはそのときだけです」。
−HIV感染がわかると、どんなことをするんですか?
「検査を受けた産婦人科からHIV拠点病院を紹介されて、翌日、外来で検査を受けました。その検査は、病気がどの程度進行しているのかを調べる検査でした。HIVは、CD4+T細胞に感染するので、血中のCD4+T細胞の濃度が病気の進行の目安になります。一般の人で、一ミリリットルあたり800-1000個。わたしは、その時点で750個でしたから、まだそれほど進行した状態ではありませんでした。AIDSっていうのは、HIVによってCD4が減少してAIDS感染症に感染した状態ですから、まだAIDSの発症までには時間があります。CD4が200を切ったときが投薬治療の開始の目安で、CD4は年に50ぐらいずつ減少していくらしいので、5年以上はこのまま無症状でいるのかもしれません。いまは、2カ月に一度、血液検査をして、CD4をモニターしている状態です。
−HIVの感染経路は、わかってるんですか?言いにくいかもしれませんけど。
「思い当たることが全くないわけじゃありません。輸血や血液製剤で感染したのではないことは確かですが、思い当たることがあったのは結婚前で、そんな前に感染していたとすると、いまの体の状態とは一致しません。いろいろ考えてみましたが、まだ、自分で納得できる感染経路はわかっていないというのが正直なところです」。
−奥さんから感染経路について聞かれたことは?
「聞かれたと言うか、思い当たることは自分から話しました。でも、結局は藪の中かもしれません。それに、感染経路がわかったからといってHIVが治るわけではないので、二人で話すのは、将来のことばかりですね」。
−お二人でどんなことを話してますか?
「やっぱり子供がほしいって言ってくれたので、体外受精で子供を授かることを話しています。夫が陽性で、妻が陰性の場合、精液からHIVに感染した成分を除去して、体外受精ができます。国内でそれを実施しているのは新潟大学医学部と慶応病院だけで、まだ、研究段階です。医学会の中では、子供への感染の危険性を完全に排除できないからやるべきではないという意見もあるらしいですが。5月に申し込んで、いまは順番待ちの状態です。HIVに感染したわたしが子供を授かっていいのだろうかと真剣に悩みましたし、妻ともよく話し合いました。子供を授かることがすべてではないかもしれませんが、子供ができることが、いまの二人の支えになっていることも事実です。子供が成人して、一人前になるまで、どんな状況になっても、生き続けようと思っています」。
−お子さんへの感染の危険性についてはどう思っていますか?
「担当の先生の話では、これまで、感染せずに出産した実績が数十例あるそうです。もちろん、感染の危険性があることも繰り返し説明されましたが、HIVを除去する技術の詳細を納得するまで教えてくれましたので、リスクは限りなくゼロに近いと思っています。子供や妻に感染させる危険が高いなら、申し込まなかったと思います」。
−HIVに感染したことを知っているのは、奥さん以外にいますか?
「病院の先生とあなただけですね。親には言えないし、職場で言うこともできません。あなたに言うのも、相当悩みました」。
−言えない理由を聞かせていただけませんか。
「現在の医療では、AIDS発症前にHIV感染が分かれば、AIDS発症を十分に抑制することができますので、仕事の上では迷惑をかけずに済みます。迷惑をかける心配が無ければ、教える必要はないんじゃないかなと思います。HIVは感染力が弱いから、血液その他の体液に直接触れなければ、感染することはありません。だから、わたしからの感染は自分自身でコントロールできると思っています。わたしは、親よりも長生きすると思っていますし、そんな心配はさせたくないと思っています。もう一つは、HIV感染者と公言することで、人格が否定されてしまうような漠然とした不安があります。それは、感染する前の自分自身を考えるとよく分かります。もし、感染を明らかにすると、HIV感染者が同性愛者や薬物使用者に多いこともあって、HIVそのものというよりは、感染した理由に興味をもたれると思います。そうすると、わたしだけじゃなく、家族にも好奇の目が向けられるわけで、それは避けたいです」。
−最後になりますが、なにかおっしゃっておきたいことはありますか?
「HIVは、同性愛者や薬物使用者だけの病気ではありません。異性間の性交渉による感染も、年々増加しています。性交渉で感染するというのは、愛する人に感染させてしまう危険性が高いということです。もし、大切な人に感染させてしまったら、本当に悲しい思いをするに違いありません。何よりも、コンドームを使った感染防止をしてほしいと思います。そして、自分には無関係な病気だと思わずに、検査を受けてほしいと思います。全国で、匿名で受けることができる無料検査が実施されていますし、有料ですが、郵送でも検査を受けられるようになっています。感染を最大限に予防できる中で、わたしが感染してしまったことは、悔やんでも悔やみきれません。HIVに感染して苦しむ人が一人でも減るように、予防をお願いしたいと思います」。【つづく】
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−HIVに感染していることがわかったきっかけを教えてください。
「結婚して7年も経つのに子供がなかなかできなくて、不妊治療専門の産婦人科に夫婦で相談に行きました。それが今年の2月です。検査をしたら不妊の原因がわかって、体外受精をすることにしました。体外受精を申し込みに行って、説明を受けた後、感染症の検査をしましょう、と言われて、血液検査を受けました。体外受精の前には、一通り性病の検査をするのが普通だそうです。それから一週間ぐらいして、病院からはがきが来て、『精密検査が必要ですから、もう一度来てください』って書いてありました。病院にいったら、HIVの簡易検査(スクリーニング検査)で陽性が出たと言われました。それが最初です」。
−それを聞いて、どう思いました?
「びっくりしました。でも、実感はありませんでした。検査ミスとか、検体の取り違えとか、そんなことを考えていました。家に帰ってネットで調べたら、スクリーニング検査で陽性が出て、精密検査で陰性になる(擬陽性)割合は、1%以下って書いてあるのを見つけて、わたしはその1%なんだって思っていました」。
−奥さんには?
「病院には二人で行ってましたから、一緒に検査結果を聞きました。妻の血液検査は、体外受精の直前にホルモン検査と一緒にする予定だったので、わたしのスクリーニング検査の結果が出たときには、妻が感染しているかどうかはわかりませんでした。わたしの結果が陽性だったので、その場で血液を採って、検査しました。でも、検査結果が出るまでの一週間を待っていられなくて、一緒に即日検査をしてくれるところに行きました。即日検査の結果、わたしはまた陽性、でも、妻は陰性でした。子供がほしくて普通に性交渉はあったので、もしわたしが感染していたら妻も感染している可能性が高く、妻が陰性だったと知って、本当によかったと思いました」。
−精密検査の結果を聞いたときはどんな心境でしたか。
「スクリーニング検査の結果を聞いた直後は、何かの間違いだと思っていましたが、そんなことばかり考えていてもしょうがないと思い始めて、本当に感染していたらどうしようと考えていました。だから、精密検査の結果を聞いたときは、比較的冷静だった気がします」。
−精密検査の結果を聞いて、どんなことを考えましたか?
「妻と別れようって思ってました。一緒に生活していれば、妻への感染のリスクは当然あるわけで、子供もいないし、別れるのが当たり前だと思っていました。自分のことはあまり考えませんでした。死ねばそれで済むって思っていた」。
−でも別れなかったんですね。
「検査結果を聞いて、家に帰る車の中で『ずっと一緒にいようね』って言ってくれました。・・・HIV陽性ってわかってから、泣いたのはそのときだけです」。
−HIV感染がわかると、どんなことをするんですか?
「検査を受けた産婦人科からHIV拠点病院を紹介されて、翌日、外来で検査を受けました。その検査は、病気がどの程度進行しているのかを調べる検査でした。HIVは、CD4+T細胞に感染するので、血中のCD4+T細胞の濃度が病気の進行の目安になります。一般の人で、一ミリリットルあたり800-1000個。わたしは、その時点で750個でしたから、まだそれほど進行した状態ではありませんでした。AIDSっていうのは、HIVによってCD4が減少してAIDS感染症に感染した状態ですから、まだAIDSの発症までには時間があります。CD4が200を切ったときが投薬治療の開始の目安で、CD4は年に50ぐらいずつ減少していくらしいので、5年以上はこのまま無症状でいるのかもしれません。いまは、2カ月に一度、血液検査をして、CD4をモニターしている状態です。
−HIVの感染経路は、わかってるんですか?言いにくいかもしれませんけど。
「思い当たることが全くないわけじゃありません。輸血や血液製剤で感染したのではないことは確かですが、思い当たることがあったのは結婚前で、そんな前に感染していたとすると、いまの体の状態とは一致しません。いろいろ考えてみましたが、まだ、自分で納得できる感染経路はわかっていないというのが正直なところです」。
−奥さんから感染経路について聞かれたことは?
「聞かれたと言うか、思い当たることは自分から話しました。でも、結局は藪の中かもしれません。それに、感染経路がわかったからといってHIVが治るわけではないので、二人で話すのは、将来のことばかりですね」。
−お二人でどんなことを話してますか?
「やっぱり子供がほしいって言ってくれたので、体外受精で子供を授かることを話しています。夫が陽性で、妻が陰性の場合、精液からHIVに感染した成分を除去して、体外受精ができます。国内でそれを実施しているのは新潟大学医学部と慶応病院だけで、まだ、研究段階です。医学会の中では、子供への感染の危険性を完全に排除できないからやるべきではないという意見もあるらしいですが。5月に申し込んで、いまは順番待ちの状態です。HIVに感染したわたしが子供を授かっていいのだろうかと真剣に悩みましたし、妻ともよく話し合いました。子供を授かることがすべてではないかもしれませんが、子供ができることが、いまの二人の支えになっていることも事実です。子供が成人して、一人前になるまで、どんな状況になっても、生き続けようと思っています」。
−お子さんへの感染の危険性についてはどう思っていますか?
「担当の先生の話では、これまで、感染せずに出産した実績が数十例あるそうです。もちろん、感染の危険性があることも繰り返し説明されましたが、HIVを除去する技術の詳細を納得するまで教えてくれましたので、リスクは限りなくゼロに近いと思っています。子供や妻に感染させる危険が高いなら、申し込まなかったと思います」。
−HIVに感染したことを知っているのは、奥さん以外にいますか?
「病院の先生とあなただけですね。親には言えないし、職場で言うこともできません。あなたに言うのも、相当悩みました」。
−言えない理由を聞かせていただけませんか。
「現在の医療では、AIDS発症前にHIV感染が分かれば、AIDS発症を十分に抑制することができますので、仕事の上では迷惑をかけずに済みます。迷惑をかける心配が無ければ、教える必要はないんじゃないかなと思います。HIVは感染力が弱いから、血液その他の体液に直接触れなければ、感染することはありません。だから、わたしからの感染は自分自身でコントロールできると思っています。わたしは、親よりも長生きすると思っていますし、そんな心配はさせたくないと思っています。もう一つは、HIV感染者と公言することで、人格が否定されてしまうような漠然とした不安があります。それは、感染する前の自分自身を考えるとよく分かります。もし、感染を明らかにすると、HIV感染者が同性愛者や薬物使用者に多いこともあって、HIVそのものというよりは、感染した理由に興味をもたれると思います。そうすると、わたしだけじゃなく、家族にも好奇の目が向けられるわけで、それは避けたいです」。
−最後になりますが、なにかおっしゃっておきたいことはありますか?
「HIVは、同性愛者や薬物使用者だけの病気ではありません。異性間の性交渉による感染も、年々増加しています。性交渉で感染するというのは、愛する人に感染させてしまう危険性が高いということです。もし、大切な人に感染させてしまったら、本当に悲しい思いをするに違いありません。何よりも、コンドームを使った感染防止をしてほしいと思います。そして、自分には無関係な病気だと思わずに、検査を受けてほしいと思います。全国で、匿名で受けることができる無料検査が実施されていますし、有料ですが、郵送でも検査を受けられるようになっています。感染を最大限に予防できる中で、わたしが感染してしまったことは、悔やんでも悔やみきれません。HIVに感染して苦しむ人が一人でも減るように、予防をお願いしたいと思います」。【つづく】
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パブリック・ジャーナリスト 小林 亮一
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