作家・伊藤桂一『同人誌の精神』を語る
2006年10月14日08時15分 / 提供:PJ
作家・伊藤桂一さん(89)は10日、神奈川県近代文学館(横浜市)で開催された全作家協会(豊田一郎会長)主催・第2回文芸講演会で、『同人誌と私』について語った。伊藤桂一さん(直木賞・芸術院賞受賞)は純文学、戦記物、時代物、現代小説などと執筆の幅が広い。他方で、吉川英治文学賞など有名な文学賞の選考委員をも数多く引き受けている。
「わたしは同人誌育ちの作家です」と伊藤桂一さんはみずからを位置づける。直木賞を受賞してプロ作家になるまえの伊藤さんは、長く同人誌活動を行ってきた。この頃には芥川賞候補にもなっている。
「同人誌時代のわたしは、数多くの批評家、作家の励ましの言葉により、見守られてきました。だから、立場が変わってから、恩返しとして、同人誌作家を育てることにも、力をそそぎました」と語る。
芥川賞と直木賞の違いについて、「芥川賞は一発勝負の面があり、一本の良い作品を書けば、それが生涯にわたって付いてまわる作家になります。直木賞のほうは落選しても、作品が書き続けられる作家です」と性格のちがいを示す。
同人誌の作家については、「一番損な執筆活動で、金銭的に得するものはない。最後に勝負をかける、息の長い執筆活動です」と支援する口調で語った。
文芸同人誌をとりまく環境について、「日本人はあまり文化を大切にしない。とくに詩人や歌人などは冷遇されています。ヨーロッパで自分は詩人だといえば、それだけで優遇されます。しかし、日本ではほとんど通用しない」と話す。それでも、過去には身銭を切り、同人誌作家を育てるスポンサーはいた。最近はほとんど聞かない。他方で、同人誌の活動を通した文学で、勝負をかける作家が少なくなった。
伊藤さんがかつて参加した、伝説的な著名な同人誌『近代説話』についても語った。これは力量のある作家をあつめた同人誌(57年に創刊、6年後までに全11冊を刊行)だった。伊藤桂一さんのほかに、司馬遼太郎、寺内大吉、清水正二郎、黒岩重吾、永井路子など著名作家が多数。この同人から、六人の直木賞作家を輩出した。
『近代説話』の運営の中心的存在だった司馬さんついて、伊藤さんは思い出やエピソードを披露した。そのうえで、熱意ある力の注ぎ方だったと述べた。
若手作家を育てた駒田信二さんにも、話がおよんだ。中国文学の専門家だった駒田さんは、一条さゆり、という伝説の名ストリッパーを支援してきたことでも有名。朝日カルチャーセンターでは『小説講座』を受け持ち、小説家を志す生徒に対して厳しい育て方をしてきた。容赦ない酷な批評に涙し、教室を離れていったものは多かったという。他方で、重兼芳子という芥川賞作家を輩出した。
これらの指導力に対して、「駒田さんは、たいしたひとだ」と伊藤さんは語る。伊藤さんが講談社や読売新聞の『小説講座』を引き受けるまえだった。駒田さんに、教室で小説を教えて、どのくらいの期間で書けるようになるのかと、指導面から質問をむけたという。
「小説を書き出してから4年で、どうにか読めるものを書くようになる。そこから、一生懸命やって文学賞の候補にたどり着く」と説明を受けた。それが伊藤さんの後輩を育てる指針の一つになったという。約30年間、作家を育てる一方で、同人誌『グループ桂』など永年にわたって指導してきたのだ。
同人誌作家には生活費、金銭的な支えがない裏事情にもふれた。多くの作家は悩み、他に職業を持つ。書く時間が制約されてしまう。芥川賞を受賞した宇野鴻一郎、さらには筆力の高かった川上宗薫などは生活のためにポルノ作家になった、と背景を話す。
農民文学賞の選考委員は約40年間つづいている。農民は行政に冷たくされている。農民作家は田畑を耕しながら、ひたむきに書き続けている。伊藤さんは農民作家にたいして温かい目で語っていた。
良い小説とは何か。この問題にもふれた。「何らかのかたちで、社会に役立つ」、読み人にとって「人間の生き方にプラスになる」。伊藤桂一さんはこの二つをあげた。【了】
■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
PJニュース.net
「わたしは同人誌育ちの作家です」と伊藤桂一さんはみずからを位置づける。直木賞を受賞してプロ作家になるまえの伊藤さんは、長く同人誌活動を行ってきた。この頃には芥川賞候補にもなっている。
「同人誌時代のわたしは、数多くの批評家、作家の励ましの言葉により、見守られてきました。だから、立場が変わってから、恩返しとして、同人誌作家を育てることにも、力をそそぎました」と語る。
芥川賞と直木賞の違いについて、「芥川賞は一発勝負の面があり、一本の良い作品を書けば、それが生涯にわたって付いてまわる作家になります。直木賞のほうは落選しても、作品が書き続けられる作家です」と性格のちがいを示す。
同人誌の作家については、「一番損な執筆活動で、金銭的に得するものはない。最後に勝負をかける、息の長い執筆活動です」と支援する口調で語った。
文芸同人誌をとりまく環境について、「日本人はあまり文化を大切にしない。とくに詩人や歌人などは冷遇されています。ヨーロッパで自分は詩人だといえば、それだけで優遇されます。しかし、日本ではほとんど通用しない」と話す。それでも、過去には身銭を切り、同人誌作家を育てるスポンサーはいた。最近はほとんど聞かない。他方で、同人誌の活動を通した文学で、勝負をかける作家が少なくなった。
伊藤さんがかつて参加した、伝説的な著名な同人誌『近代説話』についても語った。これは力量のある作家をあつめた同人誌(57年に創刊、6年後までに全11冊を刊行)だった。伊藤桂一さんのほかに、司馬遼太郎、寺内大吉、清水正二郎、黒岩重吾、永井路子など著名作家が多数。この同人から、六人の直木賞作家を輩出した。
『近代説話』の運営の中心的存在だった司馬さんついて、伊藤さんは思い出やエピソードを披露した。そのうえで、熱意ある力の注ぎ方だったと述べた。
若手作家を育てた駒田信二さんにも、話がおよんだ。中国文学の専門家だった駒田さんは、一条さゆり、という伝説の名ストリッパーを支援してきたことでも有名。朝日カルチャーセンターでは『小説講座』を受け持ち、小説家を志す生徒に対して厳しい育て方をしてきた。容赦ない酷な批評に涙し、教室を離れていったものは多かったという。他方で、重兼芳子という芥川賞作家を輩出した。
これらの指導力に対して、「駒田さんは、たいしたひとだ」と伊藤さんは語る。伊藤さんが講談社や読売新聞の『小説講座』を引き受けるまえだった。駒田さんに、教室で小説を教えて、どのくらいの期間で書けるようになるのかと、指導面から質問をむけたという。
「小説を書き出してから4年で、どうにか読めるものを書くようになる。そこから、一生懸命やって文学賞の候補にたどり着く」と説明を受けた。それが伊藤さんの後輩を育てる指針の一つになったという。約30年間、作家を育てる一方で、同人誌『グループ桂』など永年にわたって指導してきたのだ。
同人誌作家には生活費、金銭的な支えがない裏事情にもふれた。多くの作家は悩み、他に職業を持つ。書く時間が制約されてしまう。芥川賞を受賞した宇野鴻一郎、さらには筆力の高かった川上宗薫などは生活のためにポルノ作家になった、と背景を話す。
農民文学賞の選考委員は約40年間つづいている。農民は行政に冷たくされている。農民作家は田畑を耕しながら、ひたむきに書き続けている。伊藤さんは農民作家にたいして温かい目で語っていた。
良い小説とは何か。この問題にもふれた。「何らかのかたちで、社会に役立つ」、読み人にとって「人間の生き方にプラスになる」。伊藤桂一さんはこの二つをあげた。【了】
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パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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