『表現の自由』で闘う社長 名誉毀損事件(下)
2006年09月18日06時37分 / 提供:PJ
(上)からのつづき。神戸地方裁判所は、鹿砦社(ろくさいしゃ)代表の松岡利康(としやす)さんに対して「表現の自由に名を借りた言葉の暴力」だったと有罪判決を出した。松岡さんは判決の前日まで、真に無罪を信じていたという。わが国の憲法21条には「表現の自由」「言論・出版の自由」が謳ってあるからだ。事件一周年の7月12日、大阪高裁に控訴した。
講演のあとで松岡社長と、中川編集長から、さらに話を聞くことができた。ここ一年間をふり返った松岡さんは、逮捕から3カ月間は接見禁止だった、それが最も精神的、肉体的に痛めつけられたと話す。さらに松岡さんの保釈請求は、証拠隠滅のおそれがあるという理由で却下されつづけたのだ。
「神戸地検は家宅捜索で、会社の資料を洗いざらい押収し、持ってきたダンボールでも足りず、本社の宅急便用の袋まで使った。いまさら証拠隠滅はないでしょう」という。192日間の長期拘留は、検察権力による権力の乱用、暴力そのものだと主張する。
中小出版社の代表が1年の半分以上も不在となれば、会社は壊滅的なダメージを受ける。「経理資料まで押収されたら、月末の支払いの金額すらもわからない。中小出版社にとっては倒産しろ、と要求されているのとおなじ。狙いは、接見禁止の三ヶ月で、わが社の息の根を止めたかったのだろう」と語る。
実際に、社長の逮捕後、同社は中川志大(もとひろ)編集長(26)ひとりを残して、西宮の本社事務所、東京支社の閉鎖・撤去に追い込まれているのだ。
「倒産もせず、再開できたのが奇跡です」と松岡さんは話す。そこには東京支社の編集長・中川さんの並々ならぬ奮闘があった。東京支社は閉鎖したが、中川編集長は知人の間借りの事務所を転々とし、同社の旗艦雑誌『紙の爆弾』を出し続けてきたのだ。
月刊誌は一度でも発行が止まると、休刊扱い。当然ながら、出版社としての信用を失うし、再度の月刊誌の立上げはむずかしい。
「私は三度も神戸地検・特別刑事部に呼び出されました。東京から大阪に行く費用は検察が出してくれるわけでもない。経済的な面でも堪えました。検事からは、(編集長の)おまえはいつでも逮捕できるんだぞ、といわれました」という。次の呼び出しで、松岡社長と同様に逮捕されるのか。そんな強い心理的な圧力の下でも、中川さんは気持ちを月刊誌の発刊に向けていったのだ。
「ここで『紙の爆弾』を止めたら、鹿砦社は息の根が止まると必死でした」。社長は接見禁止で、指示をあおげなかった。毎月発行するのはどうみても資金的な面、人的な面、物理的な面で難しい。ついては月刊誌を合併号にしてでも発行を続け、乗り切ることに決めたのだという。
中川さんは、経理的な面はまったくわからないまま、印刷屋に頭をさげて協力してもらった。ライターには支払う見通しもなく記事の依頼。東京事務所も好意で貸してくれる人がいた。
「多くの善意で支えられました」と謙虚に語る。
他方で、社長と接見できない三ヶ月間は、デスクで鳴る電話の応対とか、交渉事とか、毎日が解決できない問題に対する手探り状態で終始していた。他方で、ひたすら月刊誌発行の継続への強い信念を貫いたのだ。
「親や親戚は、『鹿砦社』の社長逮捕という報道で、怪しげな犯罪者の会社だと思い込んでしまった。そんな会社にいつまで勤めているの、早く辞めなさい、という。それが辛かったです」と、率直に心境を話す。
『本の会』の主幹の大出俊康さんは、出版業界の名編集長(歴史関係)のひとりだ。「中川さんはすごいね。よくやったね」と感動のことばをむけた。同時に、中川さんの前歴を聞いた。この会社に勤める前は、アルバイト的な編集サブでしたと、答えていた。「わずかのキャリアで、会社の危機の難局を乗り切れるとは、たいしたものだ」と、大出名編集長がくり返し、激流を乗り越えてきた若手編集長を賞賛していた。
「いまは社長が復帰してきたから、出版や雑誌作りがやっと地に足が着いた感じです。しかし、日々の充実感はまだ先になりそうです」。中川さんにはまだ安堵感が出ていないようだ。
松岡社長はどんな人ですか、と中川さんに単刀直入に聞いてみた。「変わった人、奇抜な人じゃない。普通の人ですよ。(社会の)みんなが義憤に感じていることを、出版活動を通して訴えていく、実行力のある人です」という。
有罪判決を受けた松岡利康さんは「判決は、『表現の自由』という言葉を使いながら、憲法判断がなされていない。一審は事実関係で争ったが、控訴審は憲法問題に持っていきたい」。できる限り名のある憲法学者、ジャーナリストたちの意見をも借りていきたい、と裁判の方向性を示す。「無罪の可能性が1%でもあるかぎり、最後まで闘います」と語ってくれた。【了】
■関連情報
記者HP:穂高健一ワールド
講演のあとで松岡社長と、中川編集長から、さらに話を聞くことができた。ここ一年間をふり返った松岡さんは、逮捕から3カ月間は接見禁止だった、それが最も精神的、肉体的に痛めつけられたと話す。さらに松岡さんの保釈請求は、証拠隠滅のおそれがあるという理由で却下されつづけたのだ。
「神戸地検は家宅捜索で、会社の資料を洗いざらい押収し、持ってきたダンボールでも足りず、本社の宅急便用の袋まで使った。いまさら証拠隠滅はないでしょう」という。192日間の長期拘留は、検察権力による権力の乱用、暴力そのものだと主張する。
中小出版社の代表が1年の半分以上も不在となれば、会社は壊滅的なダメージを受ける。「経理資料まで押収されたら、月末の支払いの金額すらもわからない。中小出版社にとっては倒産しろ、と要求されているのとおなじ。狙いは、接見禁止の三ヶ月で、わが社の息の根を止めたかったのだろう」と語る。
実際に、社長の逮捕後、同社は中川志大(もとひろ)編集長(26)ひとりを残して、西宮の本社事務所、東京支社の閉鎖・撤去に追い込まれているのだ。
「倒産もせず、再開できたのが奇跡です」と松岡さんは話す。そこには東京支社の編集長・中川さんの並々ならぬ奮闘があった。東京支社は閉鎖したが、中川編集長は知人の間借りの事務所を転々とし、同社の旗艦雑誌『紙の爆弾』を出し続けてきたのだ。
月刊誌は一度でも発行が止まると、休刊扱い。当然ながら、出版社としての信用を失うし、再度の月刊誌の立上げはむずかしい。
「私は三度も神戸地検・特別刑事部に呼び出されました。東京から大阪に行く費用は検察が出してくれるわけでもない。経済的な面でも堪えました。検事からは、(編集長の)おまえはいつでも逮捕できるんだぞ、といわれました」という。次の呼び出しで、松岡社長と同様に逮捕されるのか。そんな強い心理的な圧力の下でも、中川さんは気持ちを月刊誌の発刊に向けていったのだ。
「ここで『紙の爆弾』を止めたら、鹿砦社は息の根が止まると必死でした」。社長は接見禁止で、指示をあおげなかった。毎月発行するのはどうみても資金的な面、人的な面、物理的な面で難しい。ついては月刊誌を合併号にしてでも発行を続け、乗り切ることに決めたのだという。
中川さんは、経理的な面はまったくわからないまま、印刷屋に頭をさげて協力してもらった。ライターには支払う見通しもなく記事の依頼。東京事務所も好意で貸してくれる人がいた。
「多くの善意で支えられました」と謙虚に語る。
他方で、社長と接見できない三ヶ月間は、デスクで鳴る電話の応対とか、交渉事とか、毎日が解決できない問題に対する手探り状態で終始していた。他方で、ひたすら月刊誌発行の継続への強い信念を貫いたのだ。
「親や親戚は、『鹿砦社』の社長逮捕という報道で、怪しげな犯罪者の会社だと思い込んでしまった。そんな会社にいつまで勤めているの、早く辞めなさい、という。それが辛かったです」と、率直に心境を話す。
『本の会』の主幹の大出俊康さんは、出版業界の名編集長(歴史関係)のひとりだ。「中川さんはすごいね。よくやったね」と感動のことばをむけた。同時に、中川さんの前歴を聞いた。この会社に勤める前は、アルバイト的な編集サブでしたと、答えていた。「わずかのキャリアで、会社の危機の難局を乗り切れるとは、たいしたものだ」と、大出名編集長がくり返し、激流を乗り越えてきた若手編集長を賞賛していた。
「いまは社長が復帰してきたから、出版や雑誌作りがやっと地に足が着いた感じです。しかし、日々の充実感はまだ先になりそうです」。中川さんにはまだ安堵感が出ていないようだ。
松岡社長はどんな人ですか、と中川さんに単刀直入に聞いてみた。「変わった人、奇抜な人じゃない。普通の人ですよ。(社会の)みんなが義憤に感じていることを、出版活動を通して訴えていく、実行力のある人です」という。
有罪判決を受けた松岡利康さんは「判決は、『表現の自由』という言葉を使いながら、憲法判断がなされていない。一審は事実関係で争ったが、控訴審は憲法問題に持っていきたい」。できる限り名のある憲法学者、ジャーナリストたちの意見をも借りていきたい、と裁判の方向性を示す。「無罪の可能性が1%でもあるかぎり、最後まで闘います」と語ってくれた。【了】
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記者HP:穂高健一ワールド
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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