2月28日、千葉・一宮町の海岸で座礁した大量のイルカ。(提供:Village)

写真拡大 (全3枚)

「正しい対処方法を知っていたら、もっと多くのイルカを助けられたかもしれない」――。2006年2月28日、千葉県一宮町で起きた約70頭ものイルカの大量座礁。当日、イルカの救助にあたったサーファーたちは、その日を振り返り悔しさをにじませる。

 この出来事を受けて、イルカの大量座礁に関する調査結果が7月21日から9月3日まで、東京都台東区の国立科学博物館で展示された。座礁事故が起きた原因は特定できていないが、可能性の高い10説が紹介され、当時の様子を伝える新聞記事も展示されていた。事故の詳細やその後を探るため、座礁から半年経った8月中旬、記者は現場を訪れ、救助にあたったサーファーや現場に駆けつけた町役場職員、さらに、座礁に詳しい水産庁や海棲哺乳類の研究者に話を聞いた。

                        ◇ ◇ ◇

無我夢中で救助したサーファーたち

 事故当日、午前11時ごろ。一宮町付近の平均気温は6.3度。空は厚い雲に覆われ、荒れた海に人影はなかった。たまたま海の様子を見に行った地元のサーファーが、砂浜に数頭のイルカが打ち上がっているのを発見。知らせを受けたサーフショップ「Village」(ビレッジ)のスタッフが、一宮町役場や県内の水族館に電話で報告した。通報を受けた町役場は、状況確認ため職員を現場に向かわせた。

 午後0時10分ごろ。「打ち上がったイルカの大きさや状況を伝えて、適切な対処法を水族館に聞いた。電話で話しているものの5分位の間に、次々とイルカが上がってきて、最後は『とにかく早く来て欲しい』とお願いして電話を切った」と同サーフショップの坪井みどりさん。電話に出た水族館の職員からは、救助に関するアドバイスを受けることができなかったという。

 午後0時40分。ビレッジは、一宮町周辺のサーフショップに呼びかけたり、全国のサーファーに携帯電話で波の情報を提供するサーフレジェンド(本社・神奈川県藤沢市、加藤道夫社長)に電話をかけたりして、緊急事態を告げた。

 午後1時45分。「大量座礁で人手が必要」の情報が配信され、呼びかけに応じたサーファーがウエットスーツに身を包み、約80人が救助に集まった。イルカを海に帰すことしか頭になかったサーファーたちは、「このままでは、体が乾いたり、息ができなくなったりして、死ぬのではないか」(同サーフショップの高瀬ひろみさん)という思いで、イルカを海に押し戻し始めた。体長2.2メートルから2.4メートル、体重200キロ前後もあるイルカを動かすのは、かなり力のいる作業だ。1頭を動かすのに、男性でも3人は必要だった。

 サーファーたちの必死の救助にもかかわらず、イルカは一向に泳ごうとせず、波に押し戻されてきた。イルカの中には、消波ブロックに乗り上げたり、尾ビレや背ビレが千切れたりしている状態のものも。海岸に打ち上げられ、まだなお息があるイルカも、体が硬直しており、もう限界と訴えているようにも見えたという。絶望感を抱きながらも、暗くなって作業ができなくなる午後5時半ごろまで、サーファーたちは懸命に救助作業を続けた。

 2日目、午前7時。浜辺には依然として多くのイルカが横たわり、そのうち25頭はまだ生きていることを町役場の職員が確認した。不適切な処置はかえって危険と判断したサーフショップの坪井さんは、町役場に指示を求めた。

 午前9時。役場は「現場のサーファーに任せる。ただ危険なことはしないように」と答えるだけ。坪井さんらサーファーは、困惑の中で、救助を再開しなければならなかったという。

 しかし、現場の状況は前日とは違っていた。大量座礁のニュースを聞いて駆けつけた専門家たちが、弱っているイルカを無理に海に戻さないよう指示。さらに、皮膚が乾かないように水をかけること、体が横に倒れた状態だと平衡感覚が戻らず、内臓がつぶれる危険性があるので、穴を掘って体を起こすことを教えた。現場の指示にあたったのは、国立科学博物館動物研究部動物第一研究室の山田格(ただす)室長と研究チームのメンバー10人。一刻も早くイルカを水に浮かべる方がよいと判断し、軽トラックで2キロ離れたの太東(たいとう)漁港に臨時避難させることにした。サーファーや地元漁師の協力により、2時間半で約20頭を搬送。しばらく様子を見ることになった。

 6日目。サーファーと山田室長から依頼を受けて現場に駆けつけたシーカヤックサークルのメンバーが、漁港で泳ぐイルカを沖へ出す作業を行った。元気になって自力で沖に戻ったイルカもいたが、7頭が漁港内に残り、6頭が死んでいるのが確認された。サーファーとシーカヤックのメンバーは、残ったイルカを漁港の出入り口へ繰り返し追い出した。イルカは無事に沖へ戻っていったと思われていたが、3頭が再び海岸に座礁し、トラックで漁港に運ばれることに。 3月13日、水族館が最後まで残った1頭を保護し、事態は収拾した(つづく

■関連記事
イルカ大量座礁を振り返る(最終回)
イルカ大量座礁を振り返る(3)
イルカ大量座礁を振り返る(2)