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マスコミの戦争責任を考える(7)

2006年08月22日15時36分 / 提供:PJ

pj
(6)からのつづき。

(7)戦前から戦後へ「言論統制」と「マスコミ」の連続
戦前は内閣情報局、戦後はGHQと、時代が変わっても言論統制は連続しました。その中で、日本のマスコミも戦争責任を負うことなく連続しました。戦後、日本を支配したGHQが情報統制を目的にマスコミを利用したからです。GHQの民主化政策では、マスメディア政策と労働組合の育成を非常に重視していました。そして、戦時中には政府の言いなりになっていた、あるいは迎合していた日本のマスコミを、進駐してきたGHQは簡単にコントロールできると見透かしていたのです。

 日本の同盟国であったドイツでは、戦時中の新聞社が戦後に引き継がれた例は、ほとんどありませんでした。欧州旧連合国とドイツでは毎年5月8日を、それぞれ「ヨーロッパ戦勝記念日」と「解放の日」として祝います。当然、ドイツのジャーナリズムには戦前と戦後の断絶が存在します。だからこそ、ドイツの新聞は今でも敗戦の年を、戦後ジャーナリズムの「零年」として毎年振り返るのです。この様子はマスコミの報道でもたびたび紹介されています。

GHQの労働組合育成策に後押しされた新聞の民主化運動
 GHQの民主化政策の一環として労働組合の育成がありました。敗戦翌年の46年から47年にかけて労働組合が相次いで結成され、46年の組織率は約40%、組合員数も約400万人にもふくれあがりました。労働組合の育成は新聞社では特に強調されました。

 GHQの占領が始まると、新聞各社では次々に労働組合が結成され、戦時中の経営・編集幹部らへの追及が始まりました。今現在、労働組合でもっとも強い組織力を誇っているのが新聞社や通信社のそれであることからも当時が忍ばれます。

 このころのGHQは「経営・編集幹部=抑圧するファシスト」対「記者=抑圧された労働者」という構図で新聞社内の力関係をうかがっていたようで、過激な労働運動や共産主義化にはあまり注意を払っていないかのようでした。47年から48年にかけて実施された公職追放では「言論著作もしくは行動により好戦的国家主義および侵略の活発なる主唱者たることを明らかにしたる一切の者」に当たるとして、戦時中の新聞社の経営・編集幹部であった351人がその地位を追われました。

 とはいえ、新聞社の持ち分を処分などは行われなかったため、院政を敷くように彼らは新聞社を支配しつづけたのです。GHQはなぜ、それを許したのでしょうか。これは将来的な新聞社の左傾化への懸念があったのかもしれません。

豹変したGHQ。実は「コントロールしやすい側の味方」
 朝日新聞がこの頃のGHQの優等生だったのに対し、GHQの意向に沿わなかったのが読売新聞でした。警察官僚出身の正力松太郎社長が労働組合側の辞任要求を突っぱねたことで45年の年末、「読売報知新聞」では第一次読売争議が起こりました。結局は、GHQは正力社長をA級戦犯に指名するとともに組合側に荷担し、組合の委員長だった鈴木東民氏を編集局長に据えることで決着を促しました。

 ちなみに正力氏はその後、不起訴となり、清濁併せ呑んだ手法で読売新聞の販拡に大きく寄与し、またプロ野球創設にも貢献しました。この手法は現在の読売新聞グループの渡辺恒雄会長にも引き継がれています。

 しかし、その後GHQは次第に新聞の左傾化を警戒する一方、コントロールが容易である新聞経営者寄りの態度を取り始めました。その後、国内言論界のレッドパージにつながっていきました。1950年、朝鮮半島情勢の悪化をきっかけに、GHQは「アカハタ」に対する編集委員ら17人の公職追放や30日間の発行停止を指示、最終的には「アカハタ」やその関連紙一切を無期限に発行停止処分にしました。NHKで119人、朝日新聞で104人など全国50社、計704人が解雇処分を受けるなどのレッドパージにあいました。

GHQに与えられた「言論の自由」
 GHQは日本に「言論の自由」を約束する一方で、連合国側に不利になるような情報を差し止める検閲などの「言論統制」も同時に行いました。進駐軍は占領開始直後から言論に関するアメとムチの政策を始めたのです。敗戦後1カ月にも満たない1945年9月11日、連合国軍総司令部(GHQ)は「言論及新聞の自由に関する覚書」を発行しました。これは「言論の自由に関する制限は絶対的必要最小限に止むる」一方、「公式に発表されない部隊の動静、又は連合国に関する虚偽若しくは破壊的な批判並びに流言等の論議は許されない」と定められていました。

 その約1週間後の9月19日には、日本の新聞社に与えられた「プレスコード」が発表されました。10項目からなるこのコードは、新聞各社の編集方針に大きな影響を与えました。その中の第二項の「直接たると間接たるとを問わず、公共安寧を紊すような事項を掲載してはならぬ」という文言が非常に曖昧で、各新聞社はその解釈に苦労したといわれています。事実、これはGHQによる言論統制だったのです。戦前の軍部・内閣情報局による言論統制は戦後のGHQにそのまま引き継がれました。

GHQによる言論統制
 英字紙「ニッポンタイムス」の発行停止をきっかけに同年10月9日から、GHQによる日本の新聞の事前検閲が始まりました。しかし、これは長くは続きませんでした。国内情勢が安定化していくにつれ、言論統制は次第に緩和されていったのです。48年7月15日には、検閲は事後検閲に緩められ、49年10月には検閲自体が廃止されました。

 言論統制を解いていくと同時に、GHQは日本の政治家や軍人の戦争責任を問う記事を新聞各社に掲載させることでも、民主化を図りました。GHQは戦争責任を追及する「戦争有罪キャンペーン」記事を45年12月8日から、「連合軍司令部提供」として各紙に掲載させました。

 結局、GHQは「市民=パブリックの味方」ではなく、「コントロールしやすい側の味方」だったのです。当初、GHQはファシスト側にいた新聞経営・編集幹部を放逐し、次に抵抗する労働組合に弾圧をかけ、日本の新聞社の喧伝機関化を進めていったのでした。当たり前のことです、GHQの目的は占領国日本をコントロールすることなのですから。しかも、GHQにしてみれば、日本の新聞社の反発など、そもそも想定内のことだったようです。

なぜ、朝日新聞が「国民と共に立たん」と宣言したのか
 朝日新聞の「国民と共に立たん」という宣言を時期的に検討すれば、GHQの事前検閲を受けたと同時に、労働組合の育成というGHQの民主化政策に乗っかったものであったと見たほうが妥当なのではないでしょうか。GHQの後押しによる労働組合の発言力の亢進が、朝日新聞に「国民と共に立たん」という宣言をさせたのです。宣言の文言の中からもそれが読み取れます。これは朝日新聞に限られたことではありません。実際、他紙も朝日新聞と同じように戦争についての懺悔を繰り返す紙面展開を繰り広げました。

 そのためか、GHQに戦争責任を問われて廃刊となった新聞は一つもありませんでした。戦争賛美の先鋒の国策通信社であった同盟通信でさえ、共同通信と時事通信に分離されただけ、事なきを得ました。これはGHQが占領国日本を統治する上で、戦時に統制されかつ国民を欺くことで有効に機能していたマスコミを利用するのが得策だと判断したからだと考えられています。【つづく】

■関連情報
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回

引用・参考文献
・有山輝雄著『「民衆」の時代から「大衆」の時代へ−明治末期から大正期のメディア』(有山輝雄・竹山昭子編『メディア史を学ぶ人のために』第4章)、世界思想社、2004年
・飯田泰三著『批判精神の航跡−近代日本精神史の一稜線』筑摩書房、1997年
・有山輝雄著『総動員体制とメディア』(有山輝雄・竹山昭子編『メディア史を学ぶ人のために』第9章)、世界思想社、2004年
・内川芳美著『マス・メディア法政策史研究』有斐閣、1989年
・佐藤卓己著『現代メディア史』岩波書店、1998年
・佐藤卓己著『言論統制−情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』中公新書、2004年
・川上和久著『情報操作のトリック−その歴史と方法』講談社現代新書、1994年
・佐藤卓己著『メディア社会−現代を読み解く視点』岩波新書、2006年
・田村紀雄・林利隆編『新版ジャーナリズムを学ぶ人のために』世界思想社、1999年
・小田光康著『「スポーツジャーナリスト」という仕事』出版文化社、2005年
・美作太郎・藤田親昌・渡辺潔著『言論の敗北−横浜事件の真実』三一新書、1959年

※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 小田 光康

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