海から富士山頂へ。百年前の古登山道が復活!(中)
2006年08月16日21時28分 / 提供:PJ
(上)からのつづき。畠堀さんの着想はユニークだ。富士山本宮浅間大社と掛け合い、海抜0メートルから踏破できた登山者にかぎって、『富士山村山口登山道完登証明書』を発行してもらっている。山頂に着けば、奥宮の朱印が捺されるのだ。他方で、一気に全行程を登れないひとには、3回に分割した登山をも勧めている。
田子の浦からの初日だけの案内人として、吉原の日吉浅間神社の関係者がいた。ここは明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)までは、真言宗の修験道寺院・東泉院(とうせんいん)であった。静岡県天然記念物の千年杉がある村山浅間神社(無住)に到着すると、境内の大日堂で登山の安全祈願をしてくれた。祝詞(のりと)でなく、経が詠まれた。それにはいささか驚かされた。村山には神仏混淆(しんぶつこんこう)が残っていると、畠堀さんが説明してくれた。
村山口登山の宿坊は、100年前の廃道とともに消えていった。いまは村山古道が拓かれたばかりで、民宿すらない。10人以上の団体のみ受け入れる、スポーツ合宿施設『村山ジャンボ』が一晩のねぐらとなった。個人登山者による村山口登山には、宿泊面から難がある。今年中には民宿が生まれるらしい。
夕食のとき、畠堀さんが古道発見への体験談を語ってくれた。村山口登山道は十数年前に一度『発見』されている。その後、96年の台風17号の襲来で、広範囲に風損が発生して道が寸断され、通行が不能となった。ふたたび草むらや熊笹の下に隠れてしまった。厳密にいえば、畠堀さんたち4人の仕事は『再発見』なのだ。
「富士山麓の植林されたスギ・ヒノキは根が浅いから、バタバタ倒されていました。最悪でした」。溶岩流は固く、樹木にとって根が張りにくい場所。人工林がいかに大自然になじまないか、畠堀さんは肌で感じたという。
古道発見者のひとり松浦伸夫さんが宿泊所に訪ねてきて、体験談に加わってくれた。「地図や磁石を使っても、熊笹で隠れた道はなかなか発見できなかった」。手分けしてルートを探しているうち、ひとり迷子になってしまった。「笛代わりに、チェーンソーのエンジンをかけ、こちらを探してもらいました」と話す。
2年間の戦いともいえる、苦労の末に新六合目の山小屋が見えたときは実にうれしかった、と松浦さんは感動を語ってくれた。
2日目はいよいよ村山(標高500メートル)から新六合目(2500メートル)まで、古道の登山だ。2000メートルの標高差は北アルプスでもほとんど例がない。地元の大手畜産業者(約1000頭の食肉牛飼育)の筒井一元さん(男性、60代)が、2日目の登山にぜひ参加したい、と申し出てきた。今年6月には田子の浦から村山まで歩いたという。「その続きが登りたくなった」と話す。そこからも村山口登山道への地元の関心度の高さが伝わってきた。
出発時にはまだ台風の影響力の下で、大雨だった。富士山の地層は火砕流と溶岩流の積み重ねで強固だ。風台風ならば、根の弱い樹木が倒れてきて危険。台風7号は風のない雨台風だった。富士山の雨水はすべて地下に吸い込まれる。沢には水がまったく流れていない。大雨でも土砂崩れの心配がないから、安心だった。
人工林の林道を抜け出ると、やがて自然林になった。台風は気まぐれで、時おり木漏れ日が射す。緑の苔が古木の根元や溶岩に一面に張りつく光景となった。苔の模様が美しい。木漏れ日が射すと、緑玉ガラスを砕いたかのように、水滴が光る。幻想的な風景だった。
「こんな素敵な苔がいっぱいあるなんて。ことばで上手に表現できないわ」。佐藤まりさん(公務員、50代)が感動を語る。「青木ケ原の樹海よりも、数段に良い景色だ」と、小林秀樹さん(立川市、44)は奥行きのある苔の画布を観賞するような口調だった。
大粒の雨がふたたび頭上の枝葉をたたく。快い打楽器の音楽を聞かせてくれていた。【つづく】
■関連情報
畠堀操八著 『富士山・村山古道を歩く』 風濤社・8月15日発売
問い合わせ先
畠堀操八
〒252-0813 藤沢市亀井野4-12-44
ashulla@jcom.home.ne.jp
富士市立博物館
静岡県富士市伝法66-2
TEL(0545)21-3380 FAX(0545)21-3398
記者HP:穂高健一ワールド
田子の浦からの初日だけの案内人として、吉原の日吉浅間神社の関係者がいた。ここは明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)までは、真言宗の修験道寺院・東泉院(とうせんいん)であった。静岡県天然記念物の千年杉がある村山浅間神社(無住)に到着すると、境内の大日堂で登山の安全祈願をしてくれた。祝詞(のりと)でなく、経が詠まれた。それにはいささか驚かされた。村山には神仏混淆(しんぶつこんこう)が残っていると、畠堀さんが説明してくれた。
村山口登山の宿坊は、100年前の廃道とともに消えていった。いまは村山古道が拓かれたばかりで、民宿すらない。10人以上の団体のみ受け入れる、スポーツ合宿施設『村山ジャンボ』が一晩のねぐらとなった。個人登山者による村山口登山には、宿泊面から難がある。今年中には民宿が生まれるらしい。
夕食のとき、畠堀さんが古道発見への体験談を語ってくれた。村山口登山道は十数年前に一度『発見』されている。その後、96年の台風17号の襲来で、広範囲に風損が発生して道が寸断され、通行が不能となった。ふたたび草むらや熊笹の下に隠れてしまった。厳密にいえば、畠堀さんたち4人の仕事は『再発見』なのだ。
「富士山麓の植林されたスギ・ヒノキは根が浅いから、バタバタ倒されていました。最悪でした」。溶岩流は固く、樹木にとって根が張りにくい場所。人工林がいかに大自然になじまないか、畠堀さんは肌で感じたという。
古道発見者のひとり松浦伸夫さんが宿泊所に訪ねてきて、体験談に加わってくれた。「地図や磁石を使っても、熊笹で隠れた道はなかなか発見できなかった」。手分けしてルートを探しているうち、ひとり迷子になってしまった。「笛代わりに、チェーンソーのエンジンをかけ、こちらを探してもらいました」と話す。
2年間の戦いともいえる、苦労の末に新六合目の山小屋が見えたときは実にうれしかった、と松浦さんは感動を語ってくれた。
2日目はいよいよ村山(標高500メートル)から新六合目(2500メートル)まで、古道の登山だ。2000メートルの標高差は北アルプスでもほとんど例がない。地元の大手畜産業者(約1000頭の食肉牛飼育)の筒井一元さん(男性、60代)が、2日目の登山にぜひ参加したい、と申し出てきた。今年6月には田子の浦から村山まで歩いたという。「その続きが登りたくなった」と話す。そこからも村山口登山道への地元の関心度の高さが伝わってきた。
出発時にはまだ台風の影響力の下で、大雨だった。富士山の地層は火砕流と溶岩流の積み重ねで強固だ。風台風ならば、根の弱い樹木が倒れてきて危険。台風7号は風のない雨台風だった。富士山の雨水はすべて地下に吸い込まれる。沢には水がまったく流れていない。大雨でも土砂崩れの心配がないから、安心だった。
人工林の林道を抜け出ると、やがて自然林になった。台風は気まぐれで、時おり木漏れ日が射す。緑の苔が古木の根元や溶岩に一面に張りつく光景となった。苔の模様が美しい。木漏れ日が射すと、緑玉ガラスを砕いたかのように、水滴が光る。幻想的な風景だった。
「こんな素敵な苔がいっぱいあるなんて。ことばで上手に表現できないわ」。佐藤まりさん(公務員、50代)が感動を語る。「青木ケ原の樹海よりも、数段に良い景色だ」と、小林秀樹さん(立川市、44)は奥行きのある苔の画布を観賞するような口調だった。
大粒の雨がふたたび頭上の枝葉をたたく。快い打楽器の音楽を聞かせてくれていた。【つづく】
■関連情報
畠堀操八著 『富士山・村山古道を歩く』 風濤社・8月15日発売
問い合わせ先
畠堀操八
〒252-0813 藤沢市亀井野4-12-44
ashulla@jcom.home.ne.jp
富士市立博物館
静岡県富士市伝法66-2
TEL(0545)21-3380 FAX(0545)21-3398
記者HP:穂高健一ワールド
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一
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