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深田久弥の遺業は? 日本百名山のみにあらず (下)

2006年07月13日09時57分 / 提供:PJ

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深田久弥の遺業は? 日本百名山のみにあらず (下)
石碑建立の山村正光さん(2005年没)は『車窓の山旅-中央線から見える山』の著者。深田さんが倒れたときに救援依頼に山を駆け下った。(撮影:穂高健一)
つづき
 深田久弥はみずからジュガール・ヒマラヤ、ランタン・ヒマール探査にも出かけている。翻訳家でもあった深田久弥は、次々とヒマラヤに関係する外国登山隊などによる資料や文献を日本に紹介したのだ。

ある時期は、日本が最もヒマラヤ遠征隊をくり出していた。「それは深田久弥のヒマラヤの資料提供があればこそでした」と上村さんは語る。世界の屋根・ヒマラヤのあらかた未踏峰が各国の遠征隊によって初登頂された。処女峰がなくなると、難易度の高い大岩壁とか、エベレストの冬季初登頂とかに、登山家たちの目がむけられた。他方で、植村直己のように未知の世界に魅力を感じ、冒険家として偉業を成すひとも現れてきたのだ。

 登山の場合は初登頂と二番手との間に天と地の差がある。ヒラリー、テンジンは知っているが、2番目の国は知らない。登山の2着、3着はゼロに等しいといわれている。

 上村信太郎さんは、78年にはカナダ・ロッキーのエデェス・キャベル北壁初登頂、79年にはノルウェーのロムスダール渓谷スモールポッティン北壁初登頂、82年には日仏合同隊のガルワール・ヒマラヤのメルー峰の遠征隊長。85年にはギアナ高地のロライマ山南西壁初登頂として遠征の実績がある。

 初登頂と二番手の差は実質的にどこにあるのかと、上村さんに聞いてみた。
 「初登頂の登山には探検、冒険の要素があるんです」。地図すらどうやって探すか。大使館に登山許可を申請しても、現地の政府からは前例がないと断ってくる。国境に近く、双方の国が領土を主張している山岳まず許可が下りない。

 「ギアナ高地の初登頂の場合は一週間ほど毎日、大使館に通いました。許可が下りない段階で、現地に入ってから、日本公使を通じ、環境庁長官にも直接お願いした。こうした苦労があるのです」と語る。ヒマラヤが未知の世界だった時代には想像を超える苦労があったようだ。それだけに、上村さんには深田久弥のヒマラヤ研究の偉大な功績が身をもってわかるようだ。

 昭和46(1971)年、深田久弥は茅ヶ岳に登山中の脳卒中で倒れて逝った。ヒマラヤ研究の日本の第一人者という遺業が、深田久弥の死とともに片隅に押しやられた。

 「最近のヒマラヤは変わりました。本は読まなくなった。深田久弥の『ヒマラヤの高峰』をむさぼり読まなくても、ビデオや映像で見て確認することができますから」と、上村さんは古今の推移を語る。
 過去はエベレスト登山の許可は一年に一隊だった。最近は外貨獲得のために、無制限になってきた。そのうえ、トレッキング許可書だけで登れる山もできた。ヒマラヤ入山許可が大きな壁ではなくなってきたのだ。観光会社が目をつけた。数百万円の費用でも応募者が現れる。  

 「ヒマラヤ登山はいまや自己満足をくすぐる、ツアー時代なんです。ヒマラヤは気分よく登れる山なんです」と上村さんは語る。
 シェルパーやポーターを雇えば、安い金で荷を担いでくれる。食事も作ってくれる。帰国してきて、ヒマラヤに登ったといえば、周囲もすごいな、といってくれる。
 ある意味で、百名山を登り尽くした、その先にある山岳かもしれない。

 日曜日の茅ヶ岳だったが、登山口から下山まで、誰一人も出会わず、知名度の高い山にしては実にめずらしかった。帰路につきながら、ヒマラヤがいまやトレッキング時代。となると、深田久弥の『日本百名山は』残っても、『ヒマラヤの高峰』の再評価はまずないだろうな、と思った。【了】


■関連情報
「エベレストでなにが起きているか」上村信太郎著(山と渓谷社)
「ヒマラヤ冒険物語」クリス・ボニントン著/田口二郎訳(岩波書店)

記者HP:穂高健一ワールド

※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 穂高 健一

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