6月下旬、ピークを迎えた3月決算企業の株主総会(資料写真)

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「基本的に、株主総会はできる限り出るのが自分の責務だと思っています」─。スーツ姿の「男」は、会場から出てくるなり、待ち構えた報道陣に囲まれ、目をギョロッとさせながら口角泡を飛ばす。即席の“記者会見”を終えると、タクシーや電車など公共交通機関で消えていく。西武鉄道、ニッポン放送、三共、大阪証券取引所・・・。「男」は、保有する銘柄の株主総会に次々と姿を現し、注目を独り占めにしていった。あれから1年、今年も株主総会ラッシュがやってきた。

 「会社は株主のもの」と断言しては企業価値の向上を訴え、株の買い占めを仕掛けてきたライブドア元社長の堀江貴文被告、投資ファンド元代表の村上世彰被告が、証取法違反の罪で起訴され、市場から「レッドカード」を受けた。関連銘柄の株価急落で、投機的な取引も横行。ライブドア株をめぐっては、損失を被った一般株主が旧経営陣らと争う姿勢を表明した。

 年明けから類を見ない混乱に見舞われた企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。5月の会社法施行を受け、上場各社では、定款の変更や買収防衛策の導入など取締役会の権限を強める動きを本格化。一方、政府などが進める「貯蓄から投資へ」の流れに乗り、増殖した“個人投資家”のあり方も問われている。「モノ言う株主」が退場した今なお、株主と企業の関係をめぐる論議が残されたままだ。

やや分散化、週末開催ではイベントも

 東京証券取引所によると、3月決算企業のうち28日開催が12.4%、集中日の29日は55.5%にのぼるが、11年連続で分散化の傾向が見られるという。最も早かったのは8日で、ドリームインキュベータなど3社。早期開催の動きも盛んだが、ソニー、シャープ、NECが22日、トヨタ自動車、ホンダ、三菱自動車が23日、全日本空輸と日本航空が28日と同業で開催日が重なるなど、複数の銘柄を保有する投資家にとってはどの社を優先するか、悩みは尽きない。

 個人投資家が参加しやすい土日開催の企業は、昨年より0.4ポイントと微増したものの、わずか2.5%にとどまっている。「『お客様が株主』というケースが多いので、皆さまに参加して頂いて、忌憚のない意見を経営に取り入れたい」と話すのは、金融機関として先駆けて日曜開催を上場以来続けてきた松井証券。大和証券グループ本社も今年は初めて土曜日に開催し、来場者数は昨年の4倍超という盛況ぶりだった。

 週末開催の総会では、家族連れを意識したイベント型も顕著に見られる。ワタミは、両国国技館を会場に屋台を設置し、有機野菜や人気メニューの販売を行った。エイベックス・グループ・ホールディングスは、総会後に8年連続で「株主限定ライヴ」を開き、浜崎あゆみさんや倖田來未さんら所属歌手が約3時間にわたってヒット曲を披露した。平日開催の企業でも、ソニーは、過去最多の7000人以上を集めた総会後に新商品の展示会を実施。日産自動車ではゴーン社長と意見交換や記念撮影ができる立食形式の懇親会を開くなど、“開かれた会社”の演出に躍起だ。

“変化”に備え 顕著に

 企業側の提案が相次いだ会社法施行による定款変更の中で、目立つのはインターネット時代への対応。多くの企業が、電子メールでの取締役会決議を可能にするほか、株主への事業報告や総会議案をネット開示で代用できるように改める。経営の自由度や機動性を高め、郵送費などのコスト削減をもたらす点は企業側にメリットはあるが、ネットを使い慣れていない個人投資家にとっては障壁となることも考えられる。

 また、外国企業が日本の子会社を通じて日本企業を買収する「三角合併」が会社法施行を受けて2007年5月から解禁されることから、株主総会での買収防衛策を表明する企業も多い。特に、村上ファンドによる阪神電鉄買収騒動の影響から、大手私鉄各社では表明が相次いでいる。

 経営の抜本的改革や企業文化の継承のために安住の地を求め、ついには生き馬の目を抜く証券市場から脱出する企業も現れた。総会ラッシュ直前の8日、すかいらーくは創業家と経営陣が約2700億円で自社買収(MBO)し、株式を非公開化すると電撃的に発表した。

 同社の主要株主である創業家4兄弟は、全体の18%の株式を保有。創業家のひとりである横川竟会長(68)は、約1時間の緊急記者会見で、列席した他の経営陣や支援を取り付けた投資ファンド代表に脇目もふらず、非公開化の理由ついて「赤字覚悟の改革を5万人の株主に理解してもらうのは難しい」と熱弁を振るった。その一方で、「もう先がない。株がばらけては、株主の核がなくなる」ともらし、齢を重ねた創業家が抱える将来への危機感をにじませた。

不祥事で迫られる対応

 カネボウやライブドア、村上ファンドによる証取法違反事件など相次ぐ不祥事も、今回の株主総会に大きな影を落としている。カネボウ事件で金融庁から2カ月間の業務停止処分を受けた中央青山監査法人と契約する会社では、臨時的な一時監査人や新たな監査法人の選任が焦点となる。トヨタとソフトバンクは総会で、処分解除後の9月以降も一時監査人と契約を継続する考えを表明。ソニーは選任議案の提出を見送り、9月以降の方針も示さなかった。資生堂は29日の総会で、あずさ監査法人に変更する議案を諮る。

 不祥事が発覚した企業では、株主から厳しい声があがり、経営陣が頭を下げる場面も多く見られた。米法人トップによるセクハラ問題が起きたトヨタの渡辺捷昭社長、強引な取り立てなど違法行為の多発で業務停止命令を受けたアイフルの福田吉孝社長、堀江貴文元社長ら旧経営陣が逮捕・起訴されたライブドアの山崎徳之代表取締役(当時)は、いずれも冒頭で陳謝し、そろって再発防止を訴える姿は、トラブル対応の定型化を浮き彫りにした。

 経営を監視する社外監査役との責任限定契約が会社法で認められたことから、コンプライアンス(法令順守)やコーポレートガバナンス(企業統治)への関心の高まりを背景に、新たに選任する例も目立つ。リコール隠し問題があった三菱自動車が元首相補佐官の岡本行夫氏、運行トラブルが続く日本航空がJR東日本相談役の松田昌士氏をそれぞれ監査役に迎えるなど、各社で“お目付け役”に大物を据える人事案の承認が相次いでいる。

「村上銘柄」残る課題に株主の反応は?

 6月26日夕、株主総会ラッシュに誘われたかのように、ファンドマネージャーの職を返上した「モノ言う株主」が保釈された。保釈条件からして「株主としての責務」とする株主総会に彼本人が出席することはないだろうが、29日には村上ファンドが関連した銘柄の総会が集中し、株主の動向に注目が集まる。

 村上ファンドのTOB(株式公開買い付け)賛同で、10月の「阪急阪神ホールディングス」発足に向けて本格的に動き出した阪急ホールディングスと阪神電鉄は29日午前、それぞれ別の会場で最後の株主総会を行い、統合を正式に決議する。阪急はTOBが当初見込みより600億円の上回る総額2498億円となったため、財務体質の改善策が焦点となる。一方、阪神側は、多数の参加者を予想して、昨年の倍近い2000人収容のホールを用意。統合が決まれば、TOBに応じなかった株主に阪神株1株につき阪急株1.4株を割り当てることになるが、阪神を支え続けていた株主がどう反応するか。村上被告から「IRを全くしていない」と再三指摘されていた経営陣の対応が注目される。

 フジテレビジョンは06年3月期の連結決算で、過去最高の売上高を出しながらも、ライブドアとのニッポン放送株争奪戦の末、ソフトバンク・インベストメント(現SBIホールディングス)と共同設立したベンチャー投資会社の投資損失として9億円を営業外費用に計上。ライブドア株の売却損は345億円に上り、保有する銀行株の売却で“お化粧”して何とか赤字転落を避け、純利益は前年比50%減の113億円だった。

 ニッポン放送を吸収合併して初となる総会は同本社に隣接するホテルで開催される。ライブドアとの和解で440億円の出資を受諾した日枝久会長ら経営陣の責任と、約345億円の株売却損に対する役員の対応に、株主がどのような審判を下すことになるのか。

 統合提案を持ち掛けてきた楽天と“休戦”に持ち込み、1月から業務提携協議を続けている東京放送(TBS)も29日開催。昨年の6月と8月に導入した買収防衛策で万全を期したはずのTBSに同10月、楽天が防衛策発動ぎりぎりの19%を保有する筆頭株主として現れた。当初3月末までとしていた協議も具体案が固めきれず、総会後にも再延長を決めるとしていることから、株主からの反発も必至だ。

 「村上銘柄」とされていたTBS株を、「ヒルズ族」の三木谷浩史社長が密かに大量取得し、「放送と通信の融合」を錦の御旗に統合を持ち掛ける。ライブドアの手法とも酷似した状況の中、村上ファンドがTBS株の保有比率を上げ下げしては、TBSへの提案、接触を繰り返した。先行き不透明な提携協議に、大株主の村上被告の逮捕が大きな影を落としている。協議入りから3000円台で推移していた株価も、村上事件の発覚で急落し、9日には2560円で年初来安値を更新するなど、株主にとっても予断を許さない中での総会開催となる。【了】