景気回復の足音が大きくなるにつれて、メガバンクや大手の地方銀行などが、低金利で無担保・無保証型の、いわゆる「クイックローン」を武器に、中小企業に融資攻勢をかけている。

   この商品は、貸付案件ごとにリスクを管理するのではなく、倒産確率をもとに融資審査を行う。このため、審査コストを抑えられるのも特徴だ。貸出限度額があるが、企業に対してはスピード審査を売りモノにする。1998年に東京都民銀行が「スモールビジネスローン」と銘打って発売したのを皮切りに、いまや銀行の融資商品の主流になっている。
   メガバンクでは三井住友銀行が熱心で、年商10億円以下を対象とした「ビジネスセレクトローン」は05年9月末までの累計で、取り扱い件数14万1,000件、約3兆4,000億円を融資したという。
   中小企業庁がまとめた06年版の中小企業白書は、中小企業の資金調達をめぐる環境は、「全体的には明るい兆しにある」と報告している。97年以降の金融危機で銀行は、「貸し渋り」や「貸し剥がし」という言葉通りに、中小企業に対して厳しく当たった。しかし最近は「金融機関の貸出姿勢も好転している」(東京の工作機械メーカー)という。

法人取引の新規開拓を狙った専門店舗が出現
東京・内幸町のみずほ銀行本店。同行をはじめとするメガバンクは中小企業に融資攻勢をかける
東京・内幸町のみずほ銀行本店。同行をはじめとするメガバンクは中小企業に融資攻勢をかける

   メガバンクのクイックローンの好調さを支えているのが、「法人営業所(部)」である。この法人営業所は、支店のように勘定をもたない、法人営業の担当者が詰める事務所であり、そこに課せられているのは新規開拓の目標件数というノルマである。
   こうした営業所は店舗規制の緩和により、ほぼ自由に設置できる。当初は、メガバンクが支店のない地方都市などに設置したが、最近は東京や大阪などの大都市部でも支店と支店の隙間を埋めたり、戦略的な重点地域に出店したりと、あの手この手で設置場所を増やしている。
   陣容は、営業所長ら3〜5人程度。事務所なので目立つ必要もないので、賃貸ビルの中層階に入居し、ちょうど生命保険の営業所のイメージである。
   ここ数年、店舗の統廃合や効率運用から銀行の支店も様変わりしていて、1階にATMをずらりと並べた店舗や、赤い絨毯を敷いたVIP用の資産運用コンサルティング専門の店舗など、従来の銀行らしからぬ店舗がお目見えしている。法人営業所は、その名のとおり法人取引の新規開拓を狙った専門店舗といえる。
   現在、金融庁の店舗行政は、かつての認可制から届け出制になっているので、「(法人営業所は)場所さえ見つかれば、明日にも出店できる」(メガバンクの関係者)という。
   メガバンクでは、三井住友銀行が東京都や大阪府、兵庫県、愛知県などに29カ所の「ビジネスサポートプラザ」と全国に240カ所を超える法人営業部を抱えている。三菱UFJみずほもこれに追随、巻き返しに転じている。

メガバンクは地元の地銀や信金から人材引き抜き

   「クイックローン」は定型的な商品なので、条件さえ合えば融資実行までスピーディーに進む。低金利なので、地方銀行や信用金庫、信用組合の取引先、しかも優良な取引先は狙われやすいし、実際に肩代わりの例も少なくない。メガバンクは地の利を生かした営業を展開しようと、地元の地銀や信金などから人材を引き抜いくほどの力の入れようだ。
   JINビジネスニュースの取材に対し、東京都内の、ある信用金庫の営業マンは「そういった融資商品に中小企業がいとも簡単に飛びつく」といってため息をついた。一旦メガバンクになびいた企業が出戻ると、低金利のサービスをするしかなくなる。地域金融機関の貸出金利ザヤはますます縮んでいき、体力を削がれることになる。
   多くの中小企業は、いまだに金融機関からの借り入れで経営を支えているといっても過言ではない。中小企業白書によれば、いわゆるクイックローンの利用は従業員規模の小さな中小企業ほど多い。業種別では、財務体質の改善が遅れているといわれる建設業の利用が多いのも特徴だ。もちろん、地域金融機関もメガバンクへの対抗上、品揃えとしてクイックローンを用意して、活発なセールスを展開しているが、メガバンクが大きな網で魚を獲って、その網から漏れた、経営内容の思わしくない中小企業ばかりを拾う結果になる心配がある。