えん罪の温床などと指摘されている代用監獄であるが、ここに来て新たな動きが出てきた。容疑者や被告ら判決の確定していない「未決者」の処遇改善を目的とし、政府が国会に提出した「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案」がそれだ。4月18日に衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決され、現在は参院で審議されている。

──今回の法案を、どう評価されていますか。

 代用監獄は廃止にはなりませんでしたが、いくつかの点で進歩がありました。代用監獄を代用でなくし、いわゆる“警察監獄”のようにすることを警察はもくろんでいましたが、そういった野望は打ち砕かれ、今まで通り代用監獄になりました。代用である以上、いつかは廃止されるべきものだというニュアンスがそこには含まれています。もう一つは、留置施設の視察委員会をつくり、一般の市民が弁護士などを含めて、人権侵害がないかどうか検分できる仕組みができます。日本弁護士連合会としては、近い将来、代用監獄の廃止を政府に約束させたいと思っています。

 今回は監獄法の改正になりますが、刑事訴訟法の改正に手をつけないといけないでしょう。たとえば、弁護人がついて、取り調べの録音などができるようになれば、代用監獄の中で目に見えた人権侵害は起きにくくなっていきます。そうなると、警察にとって代用監獄制度が意味がなくなっていくかもしれません。現在の代用監獄は、自白を取るための装置です。弁護士会としては、制度そのものを廃止に追い込むことが困難な中で、代用監獄の自白を強要する機能そのものを弱めて「安楽死」させることも考えています。警察がいらないといったら、代用監獄はなくなるでしょうから。

──代用監獄の問題は、裁判で自白に証拠の比重が置かれていることが背景にあるのですか。

 そう思います。欧米では自白する人は珍しいようです。訴追する側が証拠を集めてこないといけないわけで、被疑者は協力する必要がないという考え方です。これは、日本人の罪の考え方と違いますね。日本人の罪に対する感覚を変えていないといけないと思います。

 一番のポイントとなるのは、犯罪を犯したとして逮捕された人の中には、誤認逮捕の人もいるということです。その人たちに対して、全員頭を下げろという圧力がかかっている状態では、間違いが正されない可能性があります。確かに捕まった人の9割ぐらいは本当に犯罪を行った人かもしれませんが、それは検事側が立証すればいいことです。そこが日本人の感覚だと、捕まった人間は99.99%以上有罪の人間だから、自白していないことは許されないことだとなってしまっています。

──報道にも問題がありますか。

 よく、誰それが逮捕され、厳しく追及しているところだとか、容疑者はまだ自白していませんとか伝えていますが、それは変です。その人は、もしかしたらやっていないかもしれません。報道では、逮捕された容疑と、捜査側、容疑者側の主張を伝えればいいだけだけだと思いますが、日本の場合は、一人の被疑者の捕まえたら血祭りに挙げないといけないという感じがあります。

 スウェーデンでは、だれが捕まったかもわからない匿名報道です。それは、被疑者への偏見を煽(あお)らないためなのですが、日本のマスコミもこのように伝えるようになったら、刑事司法も変わると思います。【了】

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