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絵本で見るイランの一側面

絵本で見るイランの一側面
イランの絵本、手前2冊が日本で出版されたもの(撮影:吉川忠行) 写真一覧(2件)

ペルシャ語翻訳家、愛甲恵子さんインタビュー

【ライブドア・ニュース 2006年04月22日】− イランの絵本が3月から7月まで月に1冊ずつ、5カ月連続で出版されている。イランは、自国の核問題や日本での不法滞在などネガティブなニュースで注目される一方、ペルシャ遺跡や絨毯(じゅうたん)など、文化レベルの高さでも有名。最近では、国際的な評価が高いとされる同国の映画が、日本で上映される機会も増えている。

 2002年11月に『イラン映画をみに行こう』を出版したブルース・インターアクションズが、同国の芸術性の高さに注目し、絵本の出版を決めた。シリーズ5冊の翻訳を担当している愛甲恵子さん(29)に、イランの絵本を通じて主張したいことなどについて聞いた。

 愛甲さんは、02年3月に東京外国語大学大学院を修了。専門はペルシャ語で、現在はイランの絵本を紹介、販売するため、不定期に原画展などを開いている。

―― 出版に関わったきっかけは?

 偶然が重なった。長野県松本市で主催した展覧会で一度会ったことのあるイラン映画コーディネーターのショーレ・ゴルパリアンさんが、出版社に紹介してくれたことがきっかけ。イランの絵本に注目した出版社から頼まれ、“たまたま”私を思い出したらしい。

 以前からイランの絵本を紹介する活動をしていて、出版社の人に初めて会ったときは自分が好きな本を推薦した。それから1カ月ぐらいして「企画を会議に通したい。通ったら、翻訳をお願いしたい」と言われた。

―― “たまたま”ですか。

 松本で展覧会を開いたのも“たまたま”。大学時代に松本出身のクラスメートから、松本のNGO「シャマーレ・アフガニスタン」の仕事を依頼された縁があった。NGOの人に、イランの絵本を紹介したい旨を伝えておいたところ、「イラン映画祭2004」に合わせて展覧会を開くことを勧められた。

 こうして運良く絵本原画展を開いたところ、映画祭にゲストとして呼ばれていたショーレさんが原画展に寄ってくれ、会場で初めて彼女と話をした。このことが、イランの絵本を出版する“夢”を実現するきっかけになった。

―― どのような絵本?

 5冊のうち3冊は、リズムのいい絵本。詩の国イランのイメージに合致していると思う。他の2冊は物語調。イランの絵本はストーリーの長いものが多い。例えば、3月に発売した『フルーツちゃん!』は、詩ではないが、詩的なリズムが心地よく、フルーツや野菜を使って動物を表現している、かわいらしい作品。

―― 翻訳で苦労したことは?

 日本語はすべてに母音がついているので、ペルシャ語の子音による軽やかなリズムを表現するのに苦労した。(4月21日に発売された)『ごきぶりねえさんどこいくの?』などは、単純で長いストーリー。ペルシャ語だと子音だけで軽く読めるものが、日本語にすると冗長で重くなる。イランの絵本は全般的に長く、英語などと同じで「誰が」「いつ」「何を」「どうした」と、日本語なら言わなくていいと思えることも全部書いてある。

―― イランの絵本を紹介したいと思ったきっかけは?

 絵本への興味は、イランとは関係がなかった。“たまたま”イランの絵本の素晴らしさに気づくきっかけがあった。

 絵本に興味を持ったのは、学生時代に、論文という表現行為に行き詰まり、イランやペルシャ語から離れようと思っていた時期。そのとき、“たまたま”『絵本をよんでみる』(五味太郎・小野明著)という本に出合った。当時は自分の言いたいことを言葉で表現できず、追い詰められていた感があった。絵と言葉を一緒に表すことで、それぞれの枠を超えていける絵本は、表現の方法として可能性があると思い、興味を持った。

 というわけで、当初は日本の絵本しか見ていなかった。しかし、(途上国の作家支援のため、ユネスコ・アジア文化センターが隔年で主催する)「野間国際絵本原画コンクール」の展覧会に“たまたま”行った時、イラン人の作品が数多く入選していると知り、驚くとともに縁を感じた。

 一方で、大学院卒業後はイランと無関係なことをしようと思っていたにもかかわらず、自分の考えや興味が、長く関わったイランやペルシャ語を通じて決まっているとも感じた。ほかのことに取り組むときよりも、居心地がいいと感じることにも気づいた。そして、イランへの気持ちが「現地に行ってみて、面白くなければそのときにやめればいい。とにかく、行ってみよう」というぐらいになり、イランで10カ月生活することを決断した。

 自分が将来、イランの絵本の翻訳に携わるとは予想もしていなかったので、イラン渡航後すぐに絵本を探したわけではなかった。“たまたま”子どもの本の専門店に入ったとき、自分が考えていたよりも、イメージが膨らむ作品があると知って驚いた。それからたくさん読むようになった。「イランだから」ではなく、絵本としての作品価値の高さに魅力を感じた。

―― そもそも、ペルシャ語を選んだ理由は?

 言葉を勉強したいとは考えていた。ずいぶん昔に、アラビア語で書かれたスノーマンを見て、美しい文字だと思った。そういう印象があり、さらにアラブやペルシャは、自分が最も遠いと感じていた、知らなかった地域のことを勉強したいと思い、受験でペルシャ語を選択したのが始まり(ペルシャ語はアラビア語と共通の文字を使っている)。

―― ペルシャ語はどんな言語?

 文字だけでなく、音が美しい。イラン人はおしゃべりが大好きで、よどみなく朗々と語る。立て続けに話す姿は魅力的。翻訳を始めてからは、ペルシャ語を日本語に置き換える作業が楽しい。ぴったり当てはまる言葉を見つけたとき、快感を感じる。

―― イランの印象は?

 イランについて話せと言われると、すごく難しい。論じることは無理。自分が仲良くしている人のこと、乾燥していることなど、自分の体験について思い浮かぶが、国や文化は、一括りにはできない。具体的に聞かれれば答えられるけど、まとめて論じることはできないし、すべきでないと思う。

 イランに触れる機会のない人は、少ない情報で判断をしてしまうと思う。何かを論じようとするならば、まだまだ分からないことがあると気づき、話をする際に葛藤するところまで、情報量を増やしてほしい。

―― 絵本をどう捉えてほしい?

 絵本が、数ある情報のうちの1つのアイテムになるのではないか。核とか、ペルシャ絨毯とか、いろいろあるけれども、「こんなものがあるんだ」と絵本の存在を知ってもらえれば嬉しい。絵本を読んでみて、もっとイランのことが分からなくなり、固まったイメージを持たなくなればいいと思います。【了】

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