KFCレストランがあるフードコート入り口前には、朝の9時台から列が並ぶ。整理券は10時から配布され、午前中のうちに1日の分がはけてしまうという(編集部撮影)

11月13日にオープンした東急電鉄の大型商業施設、町田市のグランベリーパークが連日の大にぎわいだ。

「オープン13日目の11月25日に来場者が100万人を超えた。予想を大きく上回る速さだった」(グランベリーパーク広報担当)と、グランベリーパーク担当者も驚いている状況のようだ。

グランベリーパークは、その前身であるグランベリーモールの約100店舗から241店舗と、店舗数面積ともに大幅に拡大している。

ビュッフェ形式店舗「KFCレストラン」の魅力

テナント中、グランベリーモール時に好評だったアウトレット業態が4割、飲食、飲食物販店舗は3割という構成。飲食については、集約せずあえて点在させるなど、パーク内の回遊性を高める工夫をほどこした。

多くの店にテイクアウトの商品を開発してもらい、来場者が館内の椅子や芝生の広場、公園で食べられるようにし、飲食店の席数以上の客数の受け入れを可能にしている。


オリジナルチキンのほかビスケットやサラダ、スープカレー、パスタなどを自由に食べられる(編集部撮影)

「体験、経験」を強調した店舗構成を特徴としており、とくに飲食店はできたて点心、自分で作るタピオカといった、エンターテインメント性の高い飲食店を誘致。狙いどおり人気を集め、開店前から行列ができることも多いという。

ひときわ耳目を集めているのが、KFCのビュッフェ形式店舗「KFCレストラン」だ。

KFCのメイン商品である「オリジナルチキン」をはじめとした店舗でおなじみのメニューや、ここだけでしか食べられない限定メニュー約50種類が食べ放題ということで、平日・休日に関わりなく、オープン前早くから長蛇の列ができている。


パスタやサラダ、スイーツなどの限定メニューも含め、約50種類が並ぶ。平日ランチ税抜き1980円、平日/土日ディナー2580円と、価格も手頃だ(土日ランチは2180円)。ホットケースに並ぶ大量のオリジナルチキンは壮観(編集部撮影)

食べ放題の制限時間(ランチ80分、ディナー90分)からすると、午前11時から午後10時までの営業時間で6〜7回転。席数は100席なので、すべての席に詰めて座ったという前提で単純に計算すれば、日に600〜700人が訪れることになる。

レストランで過ごす“時間”と“体験”そのものが価値

ビュッフェ形式の店舗やランチバイキングは珍しくないが、なぜKFCレストランの人気がここまで高まっているのだろうか。


日本ケンタッキー・フライド・チキン広報の新井晶子氏(編集部撮影)

日本ケンタッキー・フライド・チキン広報部の新井晶子氏によれば、「SNSなどの反響を見ると『オリジナルチキンなどの定番メニューをお腹いっぱい食べたい』ということが動機となっている」のだそうだ。

希少性の高い限定メニューよりも、最寄りの店舗でも食べられるオリジナルチキンが人気の理由、というのは意外かもしれない。

しかし、実際にオリジナルチキンの食べ放題を経験してみると、十分に納得できる理由に思える。つまりは、KFCレストランで過ごす“時間”であり、“体験”そのものが価値となっているのだ。

まず、入店するとすぐ目に入るのが、ホットケース内にギッシリ並ぶ揚げたてのオリジナルチキン。KFCファンでなくとも、撮影してSNSにアップしたくなるだろう。大きな魅力となっているのが、さまざまな種類を味わい分けながら楽しめることだ。


右上からキール(胸)、サイ(腰)、ドラム(脚)、ウイング(手羽)、リブ(あばら)。部位の違いを味わい分けてみるのもおすすめ(編集部撮影)

フライドチキンは鶏丸ごと1羽を、キール、ウイング、リブ、サイ、ドラムという5種類9ピースの部位にカットしてつくる。それぞれ脂肪の量であったり、肉の味わいが異なる。

しかし一般の店舗では、1ピース単位で購入する場合、部位を指定するのは原則NG。偏った部位にだけ注文が集中すると、部位ごとに余剰、不足が出てしまい、フードロスにつながるためだ。

しかしKFCレストランでは、好きな部位だけを選んで食べてもよいし、さまざまな部位を食べて味の違いを実感することもできる。

例えば、子どもに人気があるのは、骨の部分をつかんで食べやすいドラム。調理スタッフの推奨はウイングだという。手羽先、手羽元の2つの味を感じられるからだそうだ。また、希少性ということでいえば、キールに軍配が上がる。ほかは1羽の鶏から、左右それぞれ、2ピースずつとれるが、胸の部分であるキールは中心から1つしかとれないためだ。脂身が少なくサッパリしているのが特徴だ。

創始者オリジナルの復刻メニューも味わえる

ほかにチキンナゲットやビスケット、コールスローといった、KFCならではのメニューも並ぶ。いつもは一口ひとくち惜しみながら食べるコールスローを、ここでは大さじですくって豪快に食べられる。

オリジナルメニューで注目されるのが、まずポテトの蒸し焼きだ。KFCの創始者カーネル・サンダースの手記に残されていたオリジナルレシピを復刻したメニューで、シンプルな調理法ながら、素材そのものの味と食感が豊かに感じられる。

オリジナルチキンのための特製スープカリーは、その名称とおり、オリジナルチキンと共に食べることを想定して調味されている。スパイシーなしっかりした味わいで、チキンを浸しながら食べたり、ほぐしたチキンをスープカリーの中に混ぜて食べると、相乗効果で旨みがより高まる。


(左)オリジナルメニューのポテトの蒸し焼き。カーネル・サンダースの手記に残されていたオリジナルレシピを復刻したメニュー。(右)オリジナルチキンをより多彩に楽しめる、特製スープカリー(編集部撮影)

このように、一般店舗では味わえない特別な体験ができるのが、KFCの大きな魅力だ。「ハレの日体験」による付加価値アップは、近年流行の戦略だ。しかし同社の真の狙いは別のところにある。

「2020年までの中期経営計画では、KFCの店舗をより日常的な存在にしていきたいと考えています。KFCレストランは、当社のこだわり商品、おもてなしをいろいろな形で体験していただき、お近くの店舗に足を運んでもらうきっかけづくりの場として位置づけています」(新井氏)


カーネル・サンダースの家でホームパーティーをしているイメージという店内(編集部撮影)

全国1130店舗を展開するKFCは、身近な存在であることと、その手軽さによって、もともと日常的な店舗のイメージがある。しかし実情は異なっていて、クリスマスを始めとしたハレの日需要が多いのだという。

「どうしても、ファミリーなど大勢で食べるイメージが強く、年に1〜2回という利用頻度の方が非常に多いんです。メイン層も40〜50代。日本に上陸して間もない頃、初めて食べたときの味が忘れられないということで、年配のお客様も多くいらっしゃいます」(新井氏)

KFCレストラン以外にも、若年層の開拓や個食需要喚起のため、ランチのワンコインボックスを2018年7月より始めている。

「オリジナルチキン推し」の戦略

もう1つ、KFCレストランに見て取れるのが、2018年より強化している「オリジナルチキン推し」の戦略だ。

身近に店舗があって、手軽に食べられるKFCを、「ファストフード」と認識している人がほとんどだろう。しかし少なくともオリジナルチキンに関してはファストフードとは反対で、店舗の厨房で、生の状態から粉づけ、フライまでを手作りしている。

素材にもKFCならではのこだわりが込められている。オリジナルチキンに使用されているチキンは、「中びな」と呼ばれる生後38日前後の若鶏。肉がやわらかく、臭みが少ないのが特徴だ。

中びなの採用は日本独自の工夫で、KFC登録飼育農場から特別に仕入れているもの。生後38日前後の若鶏の仕入れは、日本にKFCが上陸以来、長年の関係を築いているからこそ可能とのことで、ほかではなかなか食べることができない。3度来日しているカーネル・サンダースが「日本の味が1番、自分がつくったチキンに近い」と評したとも言われている。

同社ではこうしたオリジナルチキンのこだわりをより広く伝えていこうと、さまざまな取り組みを行っている。

KFCレストランで提供しているメニューもその1つ。オリジナルチキンをスープカリーと組み合わせたり、コールスローをチキンの上にソースのようにかけて食べるなど、家庭でもできる、多様な楽しみ方を提案している。

また、同店内には、このたび初めてオープンキッチン式の「KFCキッズスクール」スペースを常設した。キッズスクールは2013年から展開している取り組みで、肉の衣つけ、揚げなど、店舗で日頃行われているのと同じオリジナルチキンの調理を子どもたちに体験してもらうもの。

こだわりを伝えるブランド戦略がカギ

KFC本社や一部店舗で夏休みの時期などに開催しており、これまでに3500組が参加してきた。食育や、食の安全・安心を消費者に伝える目的があるが、同時に、オリジナルチキンのこだわりを訴求する機会にもなっている。また、こうした食育活動はスタッフ自身の学びにつながり、愛社精神を育てるのにも役立っているという。

このたび南町田グランベリーパーク店(KFCレストラン)では、月に1〜2回の頻度で定期開催。また、50周年を迎える2020年夏には、開催店舗を現在の20店舗から50店舗へと拡大する予定だ。

全国の店舗においてもオリジナルチキン推しを強化。キャンペーン計画でも、新商品や期間限定商品の展開とともに、オリジナルチキンのフェアなどをあわせて行い、オリジナルチキンの訴求を常態化しているという。

同社ではこれから「原点回帰」をうたい、経営層がオリジナルチキンを調理することから始まり、スタッフのブランド教育などを通じ、各店舗でも「おいしく作る活動」の強化を行っていくという。

確かに、オリジナルチキンは同社の最大の強み。そのこだわりを伝えるブランド戦略で同社がどう変わっていくのか。2020年に向けて真価が試される。