一線ジャーナリストに聞く、ライブドア事件(5)
2006年03月02日13時38分 / 提供:PJ
今回は情報通信技術(IT)産業や事件捜査に詳しいジャーナリスト、佐々木俊尚氏に話しを聞いた。
−ライブドア事件の社会的な背景とは。
「個人的に、ライブドア事件が生み出された社会的構図に興味がある。日本は90年代までモラル中心社会だった。規範がまずあり、人々はそれに従って行動しなければならない社会だ。それは上からの押しつけ社会でもあった。その社会的な構造をもって、日本は高度成長期を生き抜いてきた。その後、日本は90年代の金融ビッグバンを経験する中で、その社会構造では結果的に行き詰まってしまうことに気付いた。つまり、日本におけるモラルと、グローバリゼーションにおけるそれは別物であることが判明したのだった」
−ルール社会への移行時に、ライブドア堀江(貴文)氏や、側近の宮内(亮治)氏が起こした行動とは。
「橋本内閣から小泉内閣にかけての一連の構造改革の核心部は、日本型モラル社会から、グローバリゼーションの中で、アメリカ型ルール社会への転換への対応にある。ルール社会では、ルールを事細かに決めなければならない。日本はそのルールの整備が追いついていない。ライブドアはルール至上主義の申し子。堀江氏と宮内氏のモラルはゼロに近い。一方で、彼らはルールについて熟知し、その活用法や抜け穴も知り尽くしていた。ライブドア事件はいわば、日本がルール至上主義社会に移行している最中の制度不備で起こった社会のきしみでは」
−東京地検特捜部などのモラルを重視する考え方については。
「モラルの無いライブドアへの批判や、社会が悪いので昔のモラルを取り戻せという意見がまかり通っているが、いまさら昔のモラル社会に後戻りできない。そもそも、日本のモラルといわれたものが、本当にモラルだったかも疑問だ。モラルという名のもとに、独自の論理で利益誘導し、人にろくでもない道徳観を押しつけることがまかり通る日本社会が、批判にさらされてきたのではなかったのか。だからこそ、えたいの知れないモラル中心社会から脱却して、ルールに基づいてみんなが納得できる社会を目指すことを政策課題としてきた。だが、いざルール社会へ移行しようとすると、モラルが大事だという批判が出てくる。鎖国でもしない限り、モラル社会には戻れない。例えば、ニッポン放送株取得で行った時間外取引で、ライブドアにモラルが無かったことを批判するのではなく、ルールが整備されなかったことを反省すべき」
−ライブドアが虚業との批判については。
「ライブドアは90年代後半に法人相手の事業で成長した。優秀な技術者を多数抱えたからこそ、データセンター設置、ウェブ制作、システム構築などは、すばらしい技術ビジネスを展開できた。今でもポータル事業を支える技術は高い。これらを無視して、まったくの虚業だと批判するのはおかしい。04年を境に法人相手の事業が踊り場を迎え、ブロードバンドが普及していく状況下で、ライブドアがポータル事業といった消費者相手の事業に移行する戦略は全く自然な成り行きだった」
「これからはポータル事業だとネットビジネス全般で言われたことであり、堀江氏の戦略は間違っていなかった。実際、ライブドアのポータル事業は今でも順調に成長している。実態が無いということは全くない。ただ、ポータル事業の問題点は、ページビュー(閲覧数)が売り上げに直結しないこと。売り上げが付いてくるには1−2年待たねばならない。ライブドアではファイナンス事業が急成長する中で、メディア事業は赤字体質であった。そこに『何とかしなければならない』という焦りがあったのではないか」
−ファイナンス部門を強化して総合金融業に移行する戦略は。
「ネットビジネスの進化の必然。全然間違いではない。そもそも、企業買収を繰り返して事業規模を拡大し、多面的に事業展開するのは当然であり、それを進めていけばライブドア本体は持ち株会社化するのは避けられない。それを否定してはいけない。子会社が実ビジネスをやっていればいいのではないか。金融部門は大事。ポータル事業を拡大していくと、多くの人々がライブドアのサービス・コンテンツを利用することになる。するとボトルネックはカネをどう集めるかに結論する。決済能力を自ら持つ金融業に手を出すのは必然。ヤフーや楽天も金融に手を出している。ライブドアがメディア事業とファイナンス事業を進めていったことは、戦略上の問題はなかった」
−ライブドアのいわゆる「時価総額経営」については。
「ファイナンス部門だけが過剰に肥大してしまったところにライブドアの問題があった。先を急ぎすぎたのではないか。それが、時価総額経営の落とし穴。光通信やソフトバンクも90年代同じ轍(てつ)を踏んだ。株式交換を利用した企業買収で事業を拡大して行こうとすると、どうしても時価総額を上げなければならなくなる。見た目上、とにかく利益を出さなければならないという考えが横行すると、粉飾決算に手を染めかねない」
−時価総額経営の落とし穴への歯止め策は。
「社外取締役などで経営の透明化を図ること。監査法人も、資産査定人も身内ではだめだ。とはいえ、これらのことが、日本ではそのルールがありながら、なし崩し的にあまり守られていないのが実情ではないか」
−平松新社長体制については。
「堀江氏はマスコミで思われているほど、ワンマンでも、カリスマでもない。堀江氏の能力は、仕組み作りのうまさだ。人事政策や意志決定システムを作り、虎視眈々と集まった野武士的な人材が好き勝手に仕事ができるよう、うまく組織を作った。だからこそ、極めて優秀な人材が集まってきた。彼らは堀江氏に心酔して集まってきたわけではなく、ライブドアに来ればおもしろいことができる仕組みがあったからだ。平松氏のように、日本のオールド・エスタブリッシュメントの感覚に近い人物が社長になるとコーポレートガバナンスを盛んに言い出すのではないか。すると、ライブドアが持っていた野生集団的な臭いが薄れ、虎視眈々としている優秀な人材が離散してしまうおそれがある。しかも、それを受け入れるベンチャー企業が育ってきている」【了】
佐々木俊尚(ささき・としなお)。ジャーナリスト。1961年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退後、毎日新聞社で警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、1999年10月、アスキーに移籍。月刊アスキー編集部などを経て2003年2月に退社。現在フリージャーナリストとして、週刊誌や月刊誌などで活動中。
■関連記事:一線ジャーナリストに聞く、ライブドア事件
・第一回 「週刊現代」編集長の出樋一親さん
・第二回 大手新聞社社会部の司法担当記者
・第三回 経済ジャーナリストの岩槻礼次郎さん
・第四回 経済ジャーナリストの岩槻礼次郎さん(2)
−ライブドア事件の社会的な背景とは。
「個人的に、ライブドア事件が生み出された社会的構図に興味がある。日本は90年代までモラル中心社会だった。規範がまずあり、人々はそれに従って行動しなければならない社会だ。それは上からの押しつけ社会でもあった。その社会的な構造をもって、日本は高度成長期を生き抜いてきた。その後、日本は90年代の金融ビッグバンを経験する中で、その社会構造では結果的に行き詰まってしまうことに気付いた。つまり、日本におけるモラルと、グローバリゼーションにおけるそれは別物であることが判明したのだった」
−ルール社会への移行時に、ライブドア堀江(貴文)氏や、側近の宮内(亮治)氏が起こした行動とは。
「橋本内閣から小泉内閣にかけての一連の構造改革の核心部は、日本型モラル社会から、グローバリゼーションの中で、アメリカ型ルール社会への転換への対応にある。ルール社会では、ルールを事細かに決めなければならない。日本はそのルールの整備が追いついていない。ライブドアはルール至上主義の申し子。堀江氏と宮内氏のモラルはゼロに近い。一方で、彼らはルールについて熟知し、その活用法や抜け穴も知り尽くしていた。ライブドア事件はいわば、日本がルール至上主義社会に移行している最中の制度不備で起こった社会のきしみでは」
−東京地検特捜部などのモラルを重視する考え方については。
「モラルの無いライブドアへの批判や、社会が悪いので昔のモラルを取り戻せという意見がまかり通っているが、いまさら昔のモラル社会に後戻りできない。そもそも、日本のモラルといわれたものが、本当にモラルだったかも疑問だ。モラルという名のもとに、独自の論理で利益誘導し、人にろくでもない道徳観を押しつけることがまかり通る日本社会が、批判にさらされてきたのではなかったのか。だからこそ、えたいの知れないモラル中心社会から脱却して、ルールに基づいてみんなが納得できる社会を目指すことを政策課題としてきた。だが、いざルール社会へ移行しようとすると、モラルが大事だという批判が出てくる。鎖国でもしない限り、モラル社会には戻れない。例えば、ニッポン放送株取得で行った時間外取引で、ライブドアにモラルが無かったことを批判するのではなく、ルールが整備されなかったことを反省すべき」
−ライブドアが虚業との批判については。
「ライブドアは90年代後半に法人相手の事業で成長した。優秀な技術者を多数抱えたからこそ、データセンター設置、ウェブ制作、システム構築などは、すばらしい技術ビジネスを展開できた。今でもポータル事業を支える技術は高い。これらを無視して、まったくの虚業だと批判するのはおかしい。04年を境に法人相手の事業が踊り場を迎え、ブロードバンドが普及していく状況下で、ライブドアがポータル事業といった消費者相手の事業に移行する戦略は全く自然な成り行きだった」
「これからはポータル事業だとネットビジネス全般で言われたことであり、堀江氏の戦略は間違っていなかった。実際、ライブドアのポータル事業は今でも順調に成長している。実態が無いということは全くない。ただ、ポータル事業の問題点は、ページビュー(閲覧数)が売り上げに直結しないこと。売り上げが付いてくるには1−2年待たねばならない。ライブドアではファイナンス事業が急成長する中で、メディア事業は赤字体質であった。そこに『何とかしなければならない』という焦りがあったのではないか」
−ファイナンス部門を強化して総合金融業に移行する戦略は。
「ネットビジネスの進化の必然。全然間違いではない。そもそも、企業買収を繰り返して事業規模を拡大し、多面的に事業展開するのは当然であり、それを進めていけばライブドア本体は持ち株会社化するのは避けられない。それを否定してはいけない。子会社が実ビジネスをやっていればいいのではないか。金融部門は大事。ポータル事業を拡大していくと、多くの人々がライブドアのサービス・コンテンツを利用することになる。するとボトルネックはカネをどう集めるかに結論する。決済能力を自ら持つ金融業に手を出すのは必然。ヤフーや楽天も金融に手を出している。ライブドアがメディア事業とファイナンス事業を進めていったことは、戦略上の問題はなかった」
−ライブドアのいわゆる「時価総額経営」については。
「ファイナンス部門だけが過剰に肥大してしまったところにライブドアの問題があった。先を急ぎすぎたのではないか。それが、時価総額経営の落とし穴。光通信やソフトバンクも90年代同じ轍(てつ)を踏んだ。株式交換を利用した企業買収で事業を拡大して行こうとすると、どうしても時価総額を上げなければならなくなる。見た目上、とにかく利益を出さなければならないという考えが横行すると、粉飾決算に手を染めかねない」
−時価総額経営の落とし穴への歯止め策は。
「社外取締役などで経営の透明化を図ること。監査法人も、資産査定人も身内ではだめだ。とはいえ、これらのことが、日本ではそのルールがありながら、なし崩し的にあまり守られていないのが実情ではないか」
−平松新社長体制については。
「堀江氏はマスコミで思われているほど、ワンマンでも、カリスマでもない。堀江氏の能力は、仕組み作りのうまさだ。人事政策や意志決定システムを作り、虎視眈々と集まった野武士的な人材が好き勝手に仕事ができるよう、うまく組織を作った。だからこそ、極めて優秀な人材が集まってきた。彼らは堀江氏に心酔して集まってきたわけではなく、ライブドアに来ればおもしろいことができる仕組みがあったからだ。平松氏のように、日本のオールド・エスタブリッシュメントの感覚に近い人物が社長になるとコーポレートガバナンスを盛んに言い出すのではないか。すると、ライブドアが持っていた野生集団的な臭いが薄れ、虎視眈々としている優秀な人材が離散してしまうおそれがある。しかも、それを受け入れるベンチャー企業が育ってきている」【了】
佐々木俊尚(ささき・としなお)。ジャーナリスト。1961年生まれ。早稲田大学政治経済学部中退後、毎日新聞社で警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材する。その後、1999年10月、アスキーに移籍。月刊アスキー編集部などを経て2003年2月に退社。現在フリージャーナリストとして、週刊誌や月刊誌などで活動中。
■関連記事:一線ジャーナリストに聞く、ライブドア事件
・第一回 「週刊現代」編集長の出樋一親さん
・第二回 大手新聞社社会部の司法担当記者
・第三回 経済ジャーナリストの岩槻礼次郎さん
・第四回 経済ジャーナリストの岩槻礼次郎さん(2)
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。
パブリック・ジャーナリスト 小田 光康
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