住宅ローンの返済以外に毎月47万円を使っているという浪費体質の4人家族。家計を預かる専業主婦の妻は大の「ドン・キホーテ好き」で、家計は毎月7万円の赤字だ。リボ払いで当座をしのいでいたが、ついに借金は100万円を突破。ファイナンシャルプランナーが家計改善のために命じたこととは――。
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※写真はイメージです(激安のドン・キホーテで買い物三昧だった妻) - 写真=iStock.com/TkKurikawa

■生活費40万円でも赤字で「リボ払い残高100万円」

「夫に家計管理の失敗を激しくなじられ、精神的にまいってしまいました」

やつれきった顔で相談にきた都内在住の峰岸綾さん(仮名・39歳)。毎月夫から渡された生活費で家計をやりくりしていますが、赤字続きでクレジットカードのリボ払いに手を出し、借金が膨らみました。支払いに困り夫に相談したところ、家計管理のずさんさを怒られたということでした。

峰岸家は、鉄道会社に勤務する夫の純平さん(仮名・52歳)と専業主婦の綾さん、長男(中学3年生)、長女(小学6年生)の4人家族。

純平さんは「昔気質」のところがあり、「家計管理は妻が賢くやるべきもの」と考えています。給与が入ると住宅ローンと税金関係を除いた40万円を純平さんが綾さんに生活費として渡しています。そして預かったお金は綾さんが一人でやりくりします。

子どもが小さい頃は、家計は黒字で、綾さんが「へそくり」を作れるほどでしたが、子どもたちの成長に伴い、食費、教育費、生活日用品費、洋服代、娯楽費などが増えていきました。

とりわけ長男の部活の遠征費や、きょうだいダブル受験対策の塾代などの教育費(月8.6万円)がかかるようになった2年ほど前から、家計が苦しくなりました。

■「金が足りなくなるのは、お前のやり方が悪い!」

次の給料日まであと1週間というときに、生活費が3000円しか残っていないときもありました。純平さんに報告して、追加の生活費をお願いしても、「金が足りなくなるのは、お前のやり方が悪い!」と一方的に怒られてしまいます。

そのうち綾さんは純平さんに相談するのが怖くなり、現金がなくなるとクレジットカードのリボ払いで買い物をし、当座をしのぐようになりました。そして3カ月前、リボ払いの残高が「100万円」を超えてしまったのです。

怖くなって純平さんに打ち明けたところ、「お前が責任をとって、自分で払え!」と、綾さんが結婚前に貯めていた定期預金を解約しろ、と言い出したのです。

純平さんはどうしてここまで綾さんに厳しいのでしょうか。聞けば、綾さんの家計管理に不信感があるようです。

■レシートはポイ捨て、何にいくら使ったか全然わからない

綾さんは結婚当初は詳細に家計簿をつけ、家計管理をしていたそうですが、細かくやりすぎて、1年ほどで挫折してしまったそうです。それ以降はいわゆる「袋分け」で管理しています。以前はめったに赤字にならなかったので、やりやすい管理法でしたが、いまでは例えば食費の袋のお金がなくなると、他の袋から借りてきて使います。予算を決めていてもお金が残っている袋からとるので、袋分けの意味がありません。

レシートを取っておくわけでも、使ったお金を袋に記入するわけでもないので、「何にいくら使ったのか」がわかりません。綾さんが食費や教育費などで支出が増えていることを訴えても、「明確な証拠」がないので、「結局はムダ使いじゃないのか」と強い口調で言われてしまいます。こういうことから綾さんは、お金の面でも、精神面でも追い込まれてしまったようです。

夫が妻に生活費を渡し、妻が一人でやりくりする家計管理をしているご家庭では、毎日の食材から、半年先の子どもの授業料まで、妻がひとりでやりくりを担い、「孤独」と「プレッシャー」を背負い込むケースが多いようです。特に妻が専業主婦の場合は、「自分に収入がない」ことが負い目になり、より大きなストレスにさらされることになります。

家計管理は夫婦がベクトルを合わせ、協力して取り組んでいくことが大切です。特に峰岸家のように、赤字が続いて借金まである状況では、「夫婦二人三脚」が必要です。

私は綾さんに、「支出の記録」を残すために、まずは家計簿の支出項目を書くか、家計簿のアプリを使うか、最悪でもレシートの束を残してくださいとアドバイスしました。峰岸家として「何に、いくら使っているのか」がわかるようになれば、純平さんも現実がわかり、解決の第一歩を踏み出せます。

写真=iStock.com/DNY59
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

綾さんと相談した結果、以前つけていた、手書きの家計簿を再開することになり、その家計簿の数字を純平さんに見せて、あらためて相談に来てもらうことにしました。

■赤字の原因は「妻の怠慢」ではなかったが……

1カ月ほどたった頃、綾さんが純平さんと一緒に相談にいらっしゃいました。

「家計簿をつけて、具体的な数字をみせて説明すると、わかりやすいんですね。夫も赤字の原因は私のムダ使いだけではないことをわかってくれました。でも、家計簿をつけても、どうすれば赤字が減るのかわかりません。いったい何から始めればいいんでしょうか?」

家計簿を拝見すると、買ったもの、買ったお店、金額が、日付ごとに詳細に書かれていました。それをみると、夫婦それぞれの支出の「癖」がわかってきました。

■食材は何でも高級品志向の夫、ドンキに週3で通う妻

純平さんは「安かろう、悪かろう」という思い込みが強く、家族が日常よく口にする「お米」「パン」「肉」「刺し身」「ケーキ」などの食材については、いわゆる「高級店」で買ったり、取り寄せたりするように指示していました。その結果、食費は月12.4万円と膨れあがっていました。

その他の食材も、「ビール」は○で「発泡酒」は×、「牛乳」は○で「低脂肪乳」は×、「バター」は○で「マーガリン」は×など、強いこだわりがありました。食材以外にも、スマホは「NTT」、塾は「有名塾」、洋服は「定価」、メガネや時計は「老舗」といった“しばり”がありました。さらに保険は「掛け捨ては損」という思い込みがあり、満期金や返戻金があるタイプにしか入っていません。

一方、綾さんは「ドン・キホーテ」などの「激安店」での大きな買い物が目立ちます。「安いからどんどん買ってしまいがちなんです」。買い物自体が好きなので、週に2〜3回、通っているそうです。バーゲンやポイントが貯まるキャンペーンも大好きで、「いま必要のないもの」まで買ってしまうこともたびたびです。

こうした夫婦の買い物の「癖」がわかれば、支出をどう変えるべきかわかります。「良いもの、ブランドであることにこだわる意味が本当にあるのか」「安物でもいらないものを買っていないか」。ある程度のこだわりを残しつつ、妥協できる部分を見つけていくのです。

■大好きな「ドンキ」通いの頻度を減らした

家計の改善は「ゼロか100か」ではなく、「大切にしたいもの」には優先的にお金を使いながら、「さほど必要でない」と感じるものから、順番に減らしていくことが大事です。

「何でも節約」「何でも我慢」では長続きしませんし、「自分の軸」を持って、買う、買わないを判断することが大切なのです。

私は峰岸さん夫婦と、ひとつひとつの支出の必要性について話し合いました。

まず、食費については、「ケーキ」以外は近所のスーパーで、「ビール」は本数を減らす、牛乳は「低脂肪乳」に切り替えるなどの見直しで、月約3万円分を減らせました(月12.4万円→9.5万円)。

また生活日用品は、綾さんが大好きな「ドン・キホーテ」に通う頻度を減らし、目的のもの以外は安くても購入しないことをルールとしました。この結果、月約1.6万円分を減らしました(月2.8万円→1.6万円)。

こうして支出を削減していくと、スマートフォンも大手キャリアにこだわる必要はないと思えるようになり、格安SIMに変更して通信費を月約1.5万円減らし(約3.3万円→1.8万円)、被服費もバーゲンやフリマアプリを活用することで約1.3万円(2.6万円→1.3万円)少なくしました。

保険は、掛け捨てでも保障内容が峰岸家の現状に即したものに変更し(生命保険料3.8万→2.8万円)、満期金や返戻金に期待していた貯蓄面は、「iDeCo」や「つみたてNISA」などの税制優遇のある制度を使って、効率的に貯めていくようにしました。

長男の塾は受験まであと半年余りなので、そのまま継続しました。

■支出を月約7万円も削減することができたワケ

支出は合計で月約7万円も削減することができ、月3万円のリボ払いの返済をしながらも、毎月1万円ほど貯金のできるめどがたちました。また綾さんはリボ払いの返済で自分の貯金を取り崩していましたが、月1万円ずつ貯め直せるようになり、少しずつリカバリーできそうです。

家庭や夫婦はいわば運命共同体です。お金の使い方は、家庭の方針や共有する価値観が反映されていたほうが、みんなの満足する暮らしにつながります。「家族の価値観」が明確になると支出に優先順位も付けやすくなり、不要な支出カットも一致団結でできます。

写真=iStock.com/katleho Seisa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/katleho Seisa

やりくりやお金の使い方にこだわりや思い込みもあるでしょうが、そこにしばられず、時代に合った買い物の仕方ができると、自然と「貯金のできる家計」になるはずです。

■【メタボ家計 BEFORE→AFTER コストカット額ランキング】

1位 −2.9万円 食費
毎日の食材はスーパーで購入。予算は1週間1.5万円とし、外食も月2万円以内に
2位 −1.6万円 生活日用品
激安店には「なくなったものだけ」買いに行くようにした
3位 −1.47万円 通信費
スマホ3台をそろって格安SIMに変更
4位 ―1.3万円 被服費
定価購入をやめ、バーゲンや「メルカリ」で購入
5位 −1万円 生命保険料
掛け捨てタイプに切り替え、月々の保険料をダウン

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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の問題の抜本的解決、確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万3000件を突破。各種メディアへの執筆・講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』や『年収200万円からの貯金生活宣言』を代表作とし、著作は110冊、累計330万部となる。個人のお金の悩みを解決したいと奔走するファイナンシャルプランナー。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)