高回転まで回していないのは“運動不足”と同じこと

「イタリア人がきれいな女の人を見かけると声をかけるのが礼儀なように、クルマ好きならエンジンは高回転まできっちり回してやるのが礼儀なんだ」

 若いとき、某自動車専門誌の先輩に言われた言葉だ。

 実用車からレーシングカーまで、どのクルマにもレブリミット(レッドゾーン)が設けられているわけだが、逆にいえば、「その回転までは回していいんですよ」とメーカーが保証しているってこと。にもかかわらず、普段はそのレブリミットの半分以下の回転しか使っていないという人も多いのでは? そういうエンジンは、運動不足の人間と同じで、だんだん“鈍って”、回転の重たいエンジンになっていってしまう。

 エンジンの中では、ピストンとシリンダー、コンロッド、メタル、カムシャフト、クランクシャフトなど、たくさんの部品が擦れ合って動いているわけだが、低回転でダラダラ走るときと、高回転でバリバリ走るときでは、燃焼室その他の温度(膨張)も違うし、摺動部の擦れ方、擦れる面だって変ってくる。

 したがって低回転しか使っていないエンジンは、高回転を回そうと思っても高回転用のアタリがついていないので吹けが悪い! また、低回転では燃焼ガスの流速も遅いので、高回転をほとんど使わないというエンジンは、燃焼室内にカーボンデポジットという煤が溜まりやすくなる。

 カーボンが溜まったエンジンはパンチがなくなり、ご機嫌なエンジンとはいえなくなる。やはりときどきは最高出力が出る回転=とてもきれいに燃焼する回転域まで回して、溜まったカーボンごときれいに燃やして、すっきりピカピカにしてやりたい。

やはり気持ちよく走りたいと思うなら適度に高回転まで回すべし

 たとえば、夫婦で一台のクルマを使っている場合、普段は奥さんが近所の買い物や子どもの送迎だけに使っていて、エンジンを高回転まで回す機会がない。そうするとエンジンも運動不足で怠け癖がついてくる。でも、旦那が週末、海だ、山だと遊びに出かけ、高速道路も使って長距離も走り、途中のワインディングもいいペースで走ってきたりすると、リハビリ終了。月曜日に奥さんがクルマに乗ったとき、「あら? 何か調子がいいかも」って気づいたりして……。

 こうしたリハビリトレーニングは、エージング(慣らし)と同じで、適度な負荷をかけながら、丁寧なアクセルワークできれいに燃焼させ、徐々に回転数を上げていき、ときどきエンジンを冷ましてやるのがコツ。半日ぐらい鍛え直せば、回り方が重たいエンジンが、けっこう気持ちのいい吹き上がりに変わってくるのがわかるはず。

 そんなことしなくても大差ないし、燃費にもよくなさそうだし、エンジンが不調になるわけでもなければ、各部の消耗が増えるだけ……と思う人は、わざわざときどき高回転まで回さなくても問題ない。一方、たしかに大差はないかもしれないが、その差は大事。どうせなら軽く回る気持ちがいいエンジンに乗りたいという人は、ときどき再特訓して、「アタリ」のついたエンジンに鍛え直すようにしてみよう。