昔は手頃なスポーツモデルが多数存在した

 平成〜令和での30年間で、スポーツカーは100kg重く、100万円高くなったといわれている。

 平成初期の代表的なスポーツカーの新車価格は、NAロードスターが170万円、シルビアK’s(S13)が188万円、スターレットターボ(EP82)が105万円、シビックSiR(EF)が167万円、RX-7(FC3S)が209万円、カローラレビンのスーパーチャージャー(AE92)が168万円で、AE86の中古車などは50万円ぐらいでゴロゴロしていた。

 令和の現在は、スイフトスポーツで190万円、軽自動車のS660でも198万円、NDロードスターも250万円〜で、86/BRZのGTだと300万円……。

 物価の上昇なども考慮しなければならないので、一概に比較するのは難しいが、たしかに昨今のスポーツカーは高額だ。

 もともと、スポーツカーには2種類あって、イギリス流のライトウエイトスポーツは、乗用車のエンジン、サスペンション、ブレーキなどを使って、シャシーもショートホイールベース化したものを流用して作っていたので、安価に作れていた。軽量化優先なので、快適装備はほとんどないが、運動性は高く、誰でも手が出しやすい価格が魅力だった。

 もうひとつは、エレガントでハイパフォーマンスなスーパーカーたち。こちらはエクステリアも凝っているし、インテリアも豪華なので、いまもむかしも高嶺の花。

 問題はなぜ、ライトウエイト系のリーズナブルなスポーツカーが激減してしまったのか?

パーツの流用ができなくなったのが理由のひとつ

 ひとつには、スポーツカーに流用できる乗用車が減ったから。例えば、かつてのトヨタのカローラレビン/スプリンタートレノは、大衆車のカローラにパワフルなDOHCエンジンを載せて、ちょこちょこいじれば出来上がり! 大量生産ができれば、価格は抑えられるし、もともと車重が軽いから、スポーツカーらしい走りが楽しめた。

 昭和末期までは、大衆車でもFR車がたくさんあったし、兄弟車も多かったので、いろいろなクルマのパーツが流用できたのも大きい。

 それに対し、いまのクルマは衝突安全その他の規制が厳しく、そのために車体が重たくなっている。さらに30年前は5ナンバーサイズが主流だったのに、いまは3ナンバーが当たり前。車体が大きいのでクルマが重い。

 そのうえボディ剛性もスポーツカーに求められる大事なファクターになってきているので、ハードルはどんどん高くなる。まさか売れ筋のミニバンベースで、スポーツカーともいかないし……。

 ともかく、大きく重たいクルマをスポーティに走らせるには、パワフルなエンジン、太いタイヤ、大きなブレーキなどが必要になるので、専用パーツが用意される。

 また軽量化のために、アルミやカーボンなどの高価なパーツも投入されるので、これらがすべて価格に跳ね返り、コストアップにつながっているというわけだ。

 おまけに、快適装備は一通り欲しい。燃費も大事。質感も欲しいとなると、安いクルマなんて作れるわけがない!

 とどめに、スポーツカー冬の時代、若者のクルマ離れ、ときた日には、大量生産でコストダウンという手も使えず、もはやスポーツカーを作り続けてくれているだけで恩の字といえるぐらい状況は厳しい。

 一方、高級スポーツカー、スーパーカーは、メーカーのブランド価値の象徴なので、車体もエンジンもプレミアム。アルミもカーボンも本革も、高価な材料を惜しみなく使って、セレブなオーナーを満足させるべく腐心しているので、価格はどんどん上昇気味。販売台数も限定したりして、さらに強気のプライスに。

 スポーツカーの高価格化が続いているのはこのような理由と考えられる。けっきょくは、スポーツカーだけでなくクルマそのものが売れないから、価格を下げられないというのが一番の原因。根本的には大企業を中心に正規雇用を増やし、給料を上げて終身雇用を守らないと、クルマも住宅も、洋服だって売れないだろうし、結婚して子供を産もうという人も増えないわけで、この格差社会を何とかしないと、楽しくスポーツカーに乗ることもできなくなってしまうのでは?