スマートウォッチの現状の課題とその未来について考えてみた!

先月、数年ぶりに腕時計を買いました。昨年春頃に10年以上愛用していた腕時計が壊れて以来、1年ほど手持ちのコレクションから使い回して誤魔化していたものの、やはり仕事で長く使える物が欲しいと一念発起して購入に至ったものが、トップ画像のものです。とは言え、今日は腕時計自慢をしたいわけではありません。

当然、この1年の間にスマートウォッチも検討しました。筋トレやストレッチを趣味の1つにしている身だけに、ヘルスケアデバイスとしてのスマートウォッチもアリなのではないかと。しかしどうしても食指が動きません。スクワットやダンベルトレーニングは好きでも、別に脈拍を計測したり歩数を見て安心したいわけではないからです。

モバイルデバイスやウェアラブルデバイスには常に強い関心を持って取材を行っている筆者が、なぜスマートウォッチにはあまり興味を持てないのか……そんな自問を、この1年間繰り返してきた気がします。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はスマートウォッチの現状と課題、そして未来のスマートウォッチの在るべき姿について考察します。


スマートウォッチに足りないものとは、一体何なのか


■市場規模と人々の意識に温度差を感じるスマートウォッチ
はじめに現在のスマートウォッチ市場の規模や変遷を見てみましょう。

米国ストラテジーアナリティクスが今年2月に公表した市場調査データによれば、2018年10〜12月期に世界で出荷されたスマートウォッチは約1820万台で、前年同期比156%と非常に堅調な伸びを示しています。通年でも2018年は約5400万台で前年比154%と同様に堅調で、いずれも過去最高の出荷台数となっています。

市場シェアではAppleが圧倒的首位をキープしているものの、Fitbitやサムスン電子の激しい追い上げによりそのシェア率を急速に落としていることが分かります。Appleの「Apple Watch」が売れなくなったというよりは、その他のスマートウォッチが広く売れ始めたのです。

ヘルスケアやフィットネスに特化したスマートウォッチやスマートバンドを展開するFitbitがシェアを大きく拡大している点から、人々がスマートウォッチに求めているものが健康管理であることが読み取れます。


Fitbitは堅調だったサムスン電子すら追い抜いた



Fitbitのスマートウォッチ「Fitbit ionic」。トレーニング&フィットネス用途に特化した性能が人気を博した


過去記事:第4回ウェアラブルEXPO:フィットネススマートウォッチのハイエンドモデル「Fitbit Ionic」が展示!1月18日発売で、水泳時着用可能な防水性能やGPS内蔵で機能性を向上【レポート】


これだけ堅調な数字が並ぶスマートウォッチですが、日本の市場を見てみるとその数字が示すような盛り上がりや話題をあまり聞きません。もちろん、広く普及し始め当たり前の存在となったから、とも考えられますが、それにしても「静か」過ぎます。

ちなみにスマートフォン(スマホ)の2018年の世界出荷台数は、IDCの調査データによれば約14億2000万台となっており、その数字の差を見れば、いくら市場が拡大しているとは言えスマートウォッチ市場がまだまだ小規模であることが理解できます。


スマホの出荷台数は、2022年には15億7400万台に達すると予測されている


■スマートウォッチが超えるべき課題
なぜ、スマートウォッチは大きな話題とならないのでしょうか。そこにはいくつかの理由があると筆者は考えます。

真っ先に考えられることは「既存製品の代替品として十分な魅力を獲得していない」という点です。例えばスマホは携帯電話(フィーチャーフォン)を代替する製品として世に登場しましたが、その性能と機能は完全にフィーチャーフォンを置き換え、さらに新しい世界を切り開く存在として人々に認知されました。

ではスマートウォッチはどうでしょうか。スマートウォッチが代替する既存製品は腕時計ということになりますが、機能面だけで言えば間違いなくスマートウォッチに軍配が上がります。しかしその他の部分で「圧倒的に」劣る面が多いのです。


まさに「次世代腕時計」のスマートウォッチだが、解決すべき課題は多い


例えばバッテリー寿命です。最近の製品はスマートウォッチ専用のOSやカスタムチップを搭載することで長時間駆動を実現し、通常利用でも1週間や2週間といった長時間駆動を実現していますが、一般的な腕時計は電池式で数年単位、ソーラー駆動ならほぼメンテナンスフリーで端末寿命が来るまで半永久的に動きます。

最もシェアの大きなApple Watchの場合、最大でも18時間駆動です。使わないときは充電しておけば良いだけじゃないか、と言われそうですが、既に1〜2日は電池が持つようになった現在のスマホでさえ充電を忘れがちな人々が多い中、スマートウォッチまで毎日の充電を欠かせないというのは、小さな負担が日々重なり煩わしさの原因となります。


置くだけで充電できるとは言え、毎日充電器がある場所に戻れるとも限らない。しかしモバイルバッテリーからの充電が困難な製品も多い


もう1つは端末寿命です。例えば筆者は腕時計を購入する際、10年単位で利用することを前提に購入します。しかしスマートウォッチは10年使えるように設計されているでしょうか。

そもそもスマートウォッチは製品としての機能や性能が過渡期の真っ只中にあります。毎年のように性能が向上し、新機能が搭載され、ほんの1〜2年前の機種すら古臭さを感じるほどです。

上記のようにバッテリーの充放電が多いことや、そもそものバッテリー容量が小さいことから劣化も激しく、2年も使えばバッテリー性能はかなり落ちてしまいます。

提供されるサービスも永く保全されるとは限りません。スマホや外部機器と連動することで真価を発揮するスマートウォッチはサービス寿命とも密接な関係があるため、単体のハードウェアとしての寿命に加え、スマホ側のアプリも含めたソフトウェア寿命まで考えなくてはいけません。

例えば先日もAppleがWWDCを開催し、新OSとなる「iOS 13」の発表などを行いましたが、iOS 13では「iPhone 5s」、「iPhone 6」、「iPhone 6 Plus」、「iPod touch(第6世代)」の4機種がサポート対象外となりました。


モバイルデバイスは日々進化する。その設計思想は腕時計とは大きく異なる


わずか5年前の機種すらサポート対象外となるのがモバイルデバイスの宿命なのです。短命なデバイスとなれば高額を支払う人は少なくなり、普及を図って安価に作れば後述するファッション性やアクセサリーとしての品質が蔑ろにされます。

少なくとも、ビジネスの場に付けていくことを避けられるような見た目や品質であっては常用するのは難しくなります。ヘルスケア用品やフィットネスアイテムだと割り切る必要が出てくるでしょう。


2〜3年で買い換えるものに高額は払えない。かといって安価なものはチープで腕時計の代替品として常用に堪えない。もはやジレンマである


そして端末寿命とも関連する重要な要素が、ファッションアイテムとしての腕時計の存在です。腕時計は男性でも公私問わず身につけられる数少ないファッションアイテムでもあります。仕事であればステータス(身分証明証)的な意味合いすらあります。

だからこそ10年単位での利用を想定するのであり、装飾品としての美しさを求めるのです。今のスマートウォッチに装飾品や宝飾品としての価値はあるでしょうか。少なくとも、現在の腕時計を置き換えられるだけのファッション性があるでしょうか。

Appleがその点を理解していたかどうかは定かではありませんが、敢えて腕時計とは違ったデザインとアプローチをしてきました。しかし他社はひたすらに「腕時計のような見た目」にこだわりました。既存の腕時計に似せれば似せるほど、それは腕時計とファッション性で勝負しなければいけなくなります。

10年や20年といった年月で飽きることなく使い続けることを前提として、200年の時間を費やして獲得した機能美を持つ腕時計に、発展途上の只中にあるスマートウォッチはどこまで近づけたのでしょうか。もしくは、敢えて腕時計に近づける必要はあったのでしょうか。


スマートウォッチが目指すべきは、「腕時計ではない何か」だったのかもしれない


■「ポスト腕時計」ではなく「脱腕時計」を
これらの課題の答えになりそうな技術は、実はすでに登場しつつあります。1つはソニーの「wena wrist」のような、バンド部分をデジタルデバイス化する技術です。

腕時計の本体には手を加えず、そのバンド部分をデバイス化するという発想は、既存の腕時計が持つファッション性や機能性を残す面白い試みです。

そもそも腕時計のバンドは、長寿命と高耐久が求められる本体(ヘッド部)に対し、常に交換して使うことを前提とした「消耗品」として設計されており、バンドをデバイス化してシステムのアップデートや技術革新のたびに適宜交換する、という考え方は理に適っています。


腕時計が消耗品として扱っていたバンド部分に着目した画期的な製品だ


もう1つはまだ技術の実証段階ですが、フィルムディスプレイを用いたバングル型デバイスなどの可能性です。

近年ハイエンドスマホだけではなくミッドレンジスマホにも採用が見られるようになってきた有機EL(OLED)ディスプレイは、フォルダブルスマホ(折りたたみスマホ)に代表されるように、自由に折り曲げたり変形させることができるほどに薄いフィルムディスプレイが製造可能です。


折り曲げられるディスプレイが真価を発揮すべきはスマホやタブレットではない


腕時計の代替品を目指すからデメリットが際立つのであり、敢えて腕時計とは全く違うデバイスとして進化させてはどうでしょうか。通常時は腕に巻くバングル型デバイスとして、時には腕から外し拡げてスマホやタブレットのように使える端末にするのも面白いかも知れません。

そこまで突飛ではなくとも、現在のスマートバンドのように就寝時も常に身につけられる軽快なヘルスケア&フィットネスデバイスであるほうが、「腕時計みたいな何か」を目指すよりも明確に使い分けができるように思われます。フィルムディスプレイは、そういった常時身に着けるべきウェアラブル製品に非常に適した技術なのです。


安価で用途を限定したスマートバンドは目的が明確である分購入もしやすく、消耗品として短期での買い替えも気軽だ


■腕時計とは違うアイデンティティが欲しい
スマホが万能のモバイルデバイスとなって早数年。さまざまなデバイスや電子機器がスマホに取って代わられ人々の生活から消えていく中で、腕時計は未だに残り続けている数少ないレガシーデバイスです。

スマホを見ればロック画面を解除する必要すらなく時刻が大きく表示され、どんなスマホでもほぼ誤差なく正確な時間を知ることができる時代にあって、基本的には「時間を表示する」だけの機能しかない腕時計がなぜ残り続けられるのか。そこにこそスマートウォッチが進化すべき方向性の答えがあるように思えます。

iPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズ氏はかつて、1本の腕時計を愛用していました。セイコーのシャリオという腕時計です。当時わずか2万円程度の腕時計をいつまでも愛し、ボロボロになるまで身に着けていたと言います。

Apple Watchやその他のスマートウォッチは、果たしてそこまで愛される存在になり得るでしょうか。「次世代の腕時計を目指す」というのは、つまりそういうことです。


スティーブ・ジョブズ氏が愛用したシャリオの復刻モデル「Seiko nano universe Limited Edition Vol.4」


Apple Watchが登場したのは、すでにこの世界からスティーブ・ジョブズ氏が旅立って4年ほど経ってからです。彼はその設計に携わっていません。Apple Watchを生み出したのはジョナサン・アイヴ氏であり、アラン・ダイ氏であり、そしてスティーブ・ジョブズ氏を生前に公然と批判したケヴィン・リンチ氏でした。

iPhoneがそうであったように、Apple Watchもデバイスジャンルとしては始祖ではなくとも、エポックメイキングな存在として間違いなく成功したデバイスであり、現在のスマートウォッチ市場の隆盛を生み出しました。

スティーブ・ジョブズ氏なら、彼らと同じように腕時計の再発明を目指したのか、それとも全く新しいデバイスを生み出したのか、はたまた「スマートウォッチなんてバカバカしい」とゴミ箱へ投げ捨てたのか。スマートウォッチを発表会や店頭で手に取るたびに、そんなことを考えてしまいます。


世界を変えた鬼才はスマートウォッチをどう見つめるのだろうか


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
・エスマックス(S-MAX)
・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
・S-MAX - Facebookページ
・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX