例えるなら江戸前寿司? マツダの新車「MAZDA3」は奥深いクルマだった
●チーフデザイナーが語る「MAZDA3」の美学
ついに発売となったマツダの新型コンパクトハッチ&セダン「MAZDA3」。2012年発売のSUV「CX-5」から始まった“魂動”デザインを深化させる新世代商品群の第1弾として期待がかかる。今回は、マツダが所有するちょっと古い欧州車との関係性なども含め、新型車に込められた思いや技術などについて考察してみた。
○チーフデザイナーが思いを馳せたメルセデス・ベンツ
MAZDA3の美しいフォルムを担当したのは、マツダ・デザイン本部の土田康剛チーフデザイナーだ。日本の美意識に基づいた「引き算の美学」でクルマから不要な要素をそぎ落とし、滑らかなボディの面を走る繊細な光の移ろいによって豊かな生命感を表現することで、独自の造形を創出した。デザインの秘密について細かく説明してくれた同氏だが、筆者がある質問をすると、表情が一気に和らいだ。
その質問とは、「マツダが今も研究用としてお持ちのメルセデス・ベンツ『W124』。現在、私もそのクルマに乗っているのですが、そこから何か、ヒントを得たのですか?」というもの。W124とは、1985年にデビューしたメルセデスのミディアムクラスセダン&ステーションワゴンで、「最善か無か」という当時のメルセデスの哲学を突き詰めた、最後のモデルとされている。
W124を話題にすると、即座に「あっ、カッコいいなー!」と応じ、眼鏡の奥の表情を緩ませた土田氏。「さすがに、デザイン面での親和性はありませんが」と前置きした上で、「ああいった“タイムレス”なもの、長い時間を経ても残るものは、素晴らしいと思っています。MAZDA3はボディーのリフレクションで勝負していて、持っていく場所や時間によって表情が絶えず変わります。長い時間をかけて味わえる“タイムレス”がキーワードです」とMAZDA3とW124の共通点について語ってくれた。
では、MAZDA3を何かに例えるとしたら? 土田氏によれば「和食」、中でも「江戸前寿司」がピッタリだという。江戸前寿司は見た目こそシンプルであるものの、ネタを寝かせて熟成させたり、食べてみると出汁が効いていたりと、職人が裏で手間暇をかけているところが身上だ。そのあたりを気にせず食べれば、ともすると、「醤油をつけて食うな!」と怒られてしまう。そういったこだわりがありながら、江戸前寿司を構成するのは、ご飯とネタだけと至ってシンプル。MAZDA3をデザインする上でも、そうしたプロダクトを心がけたそうだ。
「ナショナリティーとかバックボーンがないと、商品は必ず淘汰されます。家電がいい例で、日本製品は価格が安く、壊れない。だけどデザインがない。だから残らない。禅の精神までいってしまうほどの無味無臭は行き過ぎで、そこにエモーショナルなものをきちんと表現するところにチャレンジがあるんです」。シンプルでありながら奥深いMAZDA3の造形の秘密が、土田氏の言葉から透けて見えてくるようだ。
●開発主査に聞く「MAZDA3」の最新技術
○名車「W124」と共通する? 「MAZDA3」の乗り味
MAZDA3とW124には、技術面でも関連性がある。それを教えてくれたのは、開発主査の別府耕太氏だ。「W124のようなオールドスタイルの欧州車の挙動は、人間にとって自然で、楽な動きが実現できていました。MAZDA3は、最新技術でそうした性能を実現しています」というのが別府氏の解説である。最新技術の一例として別府氏が挙げたのは、MAZDA3で初めて採用した樹脂だった。
MAZDA3では、路面からのショックをサスペンションだけでなくボディでも減衰するため、鉄と鉄を溶接する面に、振動を熱に変換する樹脂を採用している。この樹脂の働きは、例えば汗を熱に変換するユニクロの「ヒートテック」のようなものといえば分かりやすいだろうか。振動エネルギーが樹脂を通過するとマイルドになって乗員に伝わり、結果的に人間がバランスを取りやすくなる、というものだ。
他社が鉄と鉄との接着面に樹脂を使うのは、主にボディ剛性を高めるためであり、マツダとは異なる考え方であるという。別府氏によれば、「完全にリニアな状態は人間にとって不自然です。脳からの信号は神経を伝わり、コンマ何秒かの後に、操作する手や足に伝わるというズレがあります。そういった最新の研究結果を反映させました」とのこと。こうした考え方は、パワーステアリングやアクセルペダルの操作感にもいかされているそうだ。
考えてみれば、過去のマツダ車は新車販売で値引き額を大きくした結果、下取り価格が下がり、査定額の低い他社ディーラーには売れないという状況を生み出し、それを揶揄する「マツダ地獄」なる言葉が一人歩きしたことがあった。また、1980年代後半のマツダは、高級車メーカーへの転換を果たすことを目標に掲げ、マツダ店、オートラマ店、アンフィニ店、ユーノス店、オートザム店と販売チャンネルを5つに増やすとともに、工場を増設するという方針をとったが、バブル崩壊で一気に赤字に陥るという危機も味わった。
魂動デザインやスカイアクティブ技術により、マツダのブランド価値が向上した今日から考えると、遠い昔のお話のようだ。MAZDA3の登場から始まるマツダの新世代商品群は、同社のブランド価値をさらに高めそうな気配である。
ついに発売となったマツダの新型コンパクトハッチ&セダン「MAZDA3」。2012年発売のSUV「CX-5」から始まった“魂動”デザインを深化させる新世代商品群の第1弾として期待がかかる。今回は、マツダが所有するちょっと古い欧州車との関係性なども含め、新型車に込められた思いや技術などについて考察してみた。
○チーフデザイナーが思いを馳せたメルセデス・ベンツ
その質問とは、「マツダが今も研究用としてお持ちのメルセデス・ベンツ『W124』。現在、私もそのクルマに乗っているのですが、そこから何か、ヒントを得たのですか?」というもの。W124とは、1985年にデビューしたメルセデスのミディアムクラスセダン&ステーションワゴンで、「最善か無か」という当時のメルセデスの哲学を突き詰めた、最後のモデルとされている。
W124を話題にすると、即座に「あっ、カッコいいなー!」と応じ、眼鏡の奥の表情を緩ませた土田氏。「さすがに、デザイン面での親和性はありませんが」と前置きした上で、「ああいった“タイムレス”なもの、長い時間を経ても残るものは、素晴らしいと思っています。MAZDA3はボディーのリフレクションで勝負していて、持っていく場所や時間によって表情が絶えず変わります。長い時間をかけて味わえる“タイムレス”がキーワードです」とMAZDA3とW124の共通点について語ってくれた。
では、MAZDA3を何かに例えるとしたら? 土田氏によれば「和食」、中でも「江戸前寿司」がピッタリだという。江戸前寿司は見た目こそシンプルであるものの、ネタを寝かせて熟成させたり、食べてみると出汁が効いていたりと、職人が裏で手間暇をかけているところが身上だ。そのあたりを気にせず食べれば、ともすると、「醤油をつけて食うな!」と怒られてしまう。そういったこだわりがありながら、江戸前寿司を構成するのは、ご飯とネタだけと至ってシンプル。MAZDA3をデザインする上でも、そうしたプロダクトを心がけたそうだ。
「ナショナリティーとかバックボーンがないと、商品は必ず淘汰されます。家電がいい例で、日本製品は価格が安く、壊れない。だけどデザインがない。だから残らない。禅の精神までいってしまうほどの無味無臭は行き過ぎで、そこにエモーショナルなものをきちんと表現するところにチャレンジがあるんです」。シンプルでありながら奥深いMAZDA3の造形の秘密が、土田氏の言葉から透けて見えてくるようだ。
●開発主査に聞く「MAZDA3」の最新技術
○名車「W124」と共通する? 「MAZDA3」の乗り味
MAZDA3とW124には、技術面でも関連性がある。それを教えてくれたのは、開発主査の別府耕太氏だ。「W124のようなオールドスタイルの欧州車の挙動は、人間にとって自然で、楽な動きが実現できていました。MAZDA3は、最新技術でそうした性能を実現しています」というのが別府氏の解説である。最新技術の一例として別府氏が挙げたのは、MAZDA3で初めて採用した樹脂だった。
MAZDA3では、路面からのショックをサスペンションだけでなくボディでも減衰するため、鉄と鉄を溶接する面に、振動を熱に変換する樹脂を採用している。この樹脂の働きは、例えば汗を熱に変換するユニクロの「ヒートテック」のようなものといえば分かりやすいだろうか。振動エネルギーが樹脂を通過するとマイルドになって乗員に伝わり、結果的に人間がバランスを取りやすくなる、というものだ。
他社が鉄と鉄との接着面に樹脂を使うのは、主にボディ剛性を高めるためであり、マツダとは異なる考え方であるという。別府氏によれば、「完全にリニアな状態は人間にとって不自然です。脳からの信号は神経を伝わり、コンマ何秒かの後に、操作する手や足に伝わるというズレがあります。そういった最新の研究結果を反映させました」とのこと。こうした考え方は、パワーステアリングやアクセルペダルの操作感にもいかされているそうだ。
考えてみれば、過去のマツダ車は新車販売で値引き額を大きくした結果、下取り価格が下がり、査定額の低い他社ディーラーには売れないという状況を生み出し、それを揶揄する「マツダ地獄」なる言葉が一人歩きしたことがあった。また、1980年代後半のマツダは、高級車メーカーへの転換を果たすことを目標に掲げ、マツダ店、オートラマ店、アンフィニ店、ユーノス店、オートザム店と販売チャンネルを5つに増やすとともに、工場を増設するという方針をとったが、バブル崩壊で一気に赤字に陥るという危機も味わった。
魂動デザインやスカイアクティブ技術により、マツダのブランド価値が向上した今日から考えると、遠い昔のお話のようだ。MAZDA3の登場から始まるマツダの新世代商品群は、同社のブランド価値をさらに高めそうな気配である。