GAFAと呼ばれる米国のIT企業4社(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、非常に安い価格でさまざまな機器を販売している。その狙いはどこにあるのか。大和総研の亀井亜希子研究員は「GAFAがおさえている個人データは全体の1割。機器販売で残りの9割を収集することで、異業種でも主導権を握ろうとしている」と指摘する――。
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■なぜGAFAはプラットフォーマーになれたか

一般にGAFAと総称される米国のIT企業4社(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が、IoT機器の投入などにより、異業種への進出を強めている。

GAFAによる産業を超えた企業連携の誕生は、全産業で第4次産業革命を見据えたデジタル化が加速化していることを示唆している。なぜGAFAはIoT機器によるデータ収集に躍起になっているのだろうか。

そもそもGAFAが世界市場で急速な成長を遂げたのは、スマートフォン・タブレットなどのモバイル機器が普及した2010年頃である。その後、GAFAは、2018年、4月〜9月の6カ月間において、時価総額の世界ランキングでマイクロソフトとともに1〜5位を占めたことで注目を集めた。

現在では、ネット市場、検索エンジン、SNS、OS、ウエアラブルデバイスの各市場で圧倒的なシェアを占めるなど、強大な存在感を示している。GAFAに次ぐ世界の巨大勢力としては、中国のBATと総称される新興IT企業3社(バイドゥ、アリババ、テンセント)が注目されている。BATは、中国市場で圧倒的なシェアを誇り、さらに東南アジアやアフリカに進出するなど、グローバルにも次第に勢力を拡大しつつあるが、依然としてGAFAの勢いには及ばない。

なぜGAFAは圧倒的な優位を築くことに成功したのか。その勝因は、時代の潮流をとらえ、いち早く経営多角化に乗り出したことにあるだろう。

創業当初の1990年代後半、グーグルはインターネット検索エンジン、アップルはパーソナルコンピューター(Macintosh、iMac)、アマゾンは書籍のネット通販サービスと、いずれも単体のサービス事業者でしかなかった。

しかし、2000年代に入り、ネットビジネスの普及、さらには、PCからモバイルへと社会ニーズが変化し始めると、この3社は、スマートフォン、アプリ配信、画像・動画配信、AI開発、クラウドサービスなどへと自らのビジネス領域を次々と拡大することで、総合的なインターネット基盤を提供するオンライン・プラットフォーマーへと進化を遂げた。2004年には、フェイスブックがSNSサービスを創業。瞬く間にユーザー数を拡大していった。

GAFAのオンライン・プラットフォーマーとしての強みは、インターネット上の仲介機能を通じて、世界中の企業および個人との接点を持つだけでなく、企業の顧客開拓における必要不可欠なパートナーとしての強固な関係を築いていることにある。

■ネット上の個人データはGAFAの寡占状態

経済産業省が2018年11月に公表したオンライン・プラットフォーム(PF)と取引のある日本企業向けに実施したアンケート調査(注1)によれば、PF経由による売り上げが総売上高の75%以上であると答えた日本企業の割合は41.6%に達し、さらには、PF利用企業の65.2%が、PFと契約していったん販売チャネルの仕組みに組み込まれると、その後異なる経路に切り替えることは困難である、と答えている。

インターネット上の個人データの保有量は、GAFAによる寡占状態である。グーグルは検索エンジン市場の世界シェア92.4%およびOS市場の世界シェア38.0%(2019年3月)(注2)、アップルはウエアラブルデバイス市場の世界シェア25.4%(2017年通年)(注3)、フェイスブックはSNS市場の世界シェア67.4%(2019年3月)(注4)、アマゾンはEC市場(BtoC)において米国で33.0%、英国で26.5%、フランスで10.7%、ドイツで40.8%、日本で20.2%(2016年通年)(注5)をそれぞれ占有し、各市場で世界トップシェアを誇っている。

GAFAは保有データ比率の急激な低下に危機感

GAFAにも経営上の課題がないわけではない。インターネットが社会に浸透して約20年経過した現在でも、人々や企業の活動は、日常生活で対面により発生するケースが多く、世界の商取引のうちEC取引が占める割合は10%弱にすぎない(注6)。つまり、商取引に係る90%強のデータは、GAFAにとって手の届かないデータということになる。

現在のインターネット上の個人データは、主に、メール送信やウェブサイト閲覧、クラウド管理の機能があるPCやスマートフォンなどの操作により生成されるデータである。そのような環境下での同データの取得においては、オンライン・プラットフォーマーが圧倒的優位な地位を持つ。

ただし、今後数年のうちに、世界各国で第4次産業革命によるデジタル社会が実現していき、技術革新により、製造機械、ロボット、自動車、住宅、家電、時計、衣服、靴など、社会のあらゆるモノがインターネットにつながるようになると(モノのインターネット、Internet of Things:IoT)、勢力図は一変する可能性が高い。

GAFAがそれまで入手できなかった90%強のローカルな取引データが、IoTデバイスを通じて新たにインターネット上に加わることになる。GAFAが同データの収集手段を持たない以上は、個人データ総量に占めるGAFAの保有データ比率が急激に低下することが想定されるからである。

GAFAが、成長分野でIoTデバイスを開発しているスタートアップ企業の買収を次々と仕掛けることで、異業種分野への新規参入を次々と進めてきたことは、IoTデータの早期獲得を実現し、第4次産業革命が実現した以降もプラットフォーマーとしての支配力を維持するための当然の行動であるといえよう。

■データを生成する機器の価値に着目しハード事業にも進出

GAFAのビジネスモデルが画期的であったのは、データビジネスおいてデータを生成する機器の価値に着目し、本業と対極に位置付けられるハード事業も、大胆に手掛け始めたことにある。例えば、自動車、家電、時計、衣服、AR・VRゴーグル、製造機械、ロボット、店舗、人工衛星などである。各産業の企業にとって、GAFAのこうした行動は脅威であり、双方の関係性は、従来の協調相手から競合相手へと変わった。

昨年、GAFAは保有する顧客データを個人から同意を得ることなく他社に販売していたことが発覚し、世界的な批判を浴びた。やり方に問題があったとはいえ、第4次産業革命への対応の必要性やビッグデータ活用が注目される数年前から、すでにGAFAは顧客企業の間でデータ販売ニーズがあることを熟知し、個人データの利活用による収益を得ていたことになる。

リアル社会のデジタル化が進み、デジタルとリアルの境界が曖昧になっていく時代に、ネットとリアルがつながった顧客データを保有するGAFAのコンテンツホルダーとしての優位性は確かに高い。しかし、第4次産業革命以降、企業間でのデータ流通が一般化する時代においては、個人データを大量に収集するだけでは、企業にとっての価値は薄れる。GAFAが保有する顧客データも、個人の意向によっては他社に提供されるケースも出てくるため、排他的な保有が不可能になるからである。

GAFAの異業種進出は、既存のプラットフォームにIoTデータを追加するという、単に従来のプラットフォーマーとしてのビジネスの延長線上のようにも考えられるが、その先の、企業間のデータ販売仲介、各産業界の主要プレーヤーとしての新たなビジネス創造が視野にあるだろう。

その契機となるのは、ビッグデータを大容量かつ高精度に、高速に送受信することが可能となる第5世代移動通信規格「5G」の普及である。IoT機器の稼働により生成される大量のIoTデータを、瞬時に収集・解析し、その結果をまた瞬時に返すことが可能となるため、ビジネスの主流は、データを解析しながら次の事業アクションを創造する科学的な意思決定(データドリブン経営)、短期間に機能のバージョンアップを繰り返すサービス開発(アジャイル開発)へと変わる。GAFAの事業は、データを起点として、データがまた新たなデータを生むという好循環のビジネスサイクル全体を席捲しようとしている。

GAFAが狙う日本の主要産業はどこか

日本政府がデータの収集・利活用の重点産業に位置付けている主要産業20分野について、各社Webサイトなどの各種公表資料を基に、筆者にてGAFAの進出状況を図表に整理した。図表を見る限り、GAFAはすでに多くの異業種に進出を果たしているが、産業ごとに、GAFAの進出数に濃淡がある。

異業種進出数でみると、グーグルとアマゾンが先行しており、アップルが猛追する構図である。巻末の参考図表2〜4によると、グーグル、アップル、アマゾンの3社は同事業で競争しているケースが多いのに対し、フェイスブックは現段階で進出分野こそ少ないが、画像や動画データ収集に特化する傾向がみられる。

現時点でGAFAの全4社が進出し、GAFA間競争も激戦となっているレッドオーシャンの産業は、図表の上段の5分野(全20分野の25%)であり、さらに3社が進出しレッドオーシャンになりつつある中段の7つの産業分野も含めると計12分野(同60%)に達しており、競争環境は厳しい。しかし、それらの産業の全てのデータをGAFAが収集できているわけではない。進出が少ないブルーオーシャンの産業も8分野あり、必ずしもGAFAの独壇場ではない。

さらに、GAFA各社は、早くも今後参入を強化していく産業分野およびIoT機器を限定し始めているようにも見える。グーグルは自動運転分野、会話型AI技術(Google Assistant)、アップルは医療・健康分野、ウエアラブル機器(Apple Watch)、フェイスブックはコミュニティー分野、画像・動画配信、VR機器(Oculus)、アマゾンは小売り分野、クラウド事業(AWS)、である。

■日本企業巻き返しのチャンス

IoTデータ活用に重要な役割を果たす、第5世代移動通信規格「5G」の商用サービスは、すでに昨年、米国と韓国を含む8カ国が開始し、今年は中国・英国を含む11カ国が開始する見通しである。日本は来年の開始を目指している。

日本のスタートは少し後れを取る一方で、各産業分野でGAFAがカバーできていない領域を中心に、GAFAより先にビッグデータを利活用し事業創出できる余地があると考えられよう。巻き返しのチャンスでもある。

(注1)経済産業省委託調査事業 調査受託者:株式会社NTTデータ経営研究所「オンライン・プラットフォームと事業者の間の取引関係に関する事業者向けアンケート調査 結果速報」(2018年11月5日)
(注2)Statcounter GlobalStatsウェブサイト
(注3)IDC Japan株式会社 2018年3月15日プレスリリース「2017年第4四半期および2017年 世界および国内ウエアラブルデバイス市場規模を発表」
(注4)注2と同じ
(注5)日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部「『ジェトロ世界貿易投資報告』2017年版〜転換期を迎えるグローバル経済〜総論編 概要」(2017年7月31日)(原出所)“Passport”(Euromonitor International)、UNCTAD、国際電気通信連合(ITU)、世界銀行から作成
(注6)総務省「平成28年版 情報通信白書」

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亀井 亜希子(かめい・あきこ)
大和総研 政策調査部研究員
慶應義塾大学経済学部卒業、京都大学大学院公共政策教育部修了(MPP)、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修了(MMA)。大手情報通信企業の新規事業企画開発職を経て、大和総研 政策調査部研究員として勤務。調査研究の専門分野は、ヘルスケア・医療・介護、地域経済・産業、データ利活用の経営戦略・産業動向等。

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(大和総研 政策調査部研究員 亀井 亜希子 写真=iStock.com)