筋力トレーニングの後はどんな食事がいいか。専門知識がないなら、「蒸し鶏」より「鶏の照り焼き」がおすすめだ。管理栄養士の川端理香氏は「筋肉づくりにはたんぱく質だけでなく、糖質も必要。鶏肉なら『照り焼き』で食べれば、砂糖やみりんから糖質がとれて効率的だ」と解説する――。

※本稿は、川端理香『筋肉の栄養学 強いからだを作る食事術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/runin)

■炭水化物ダイエットと糖質制限の根本的な違い

みなさんは炭水化物と糖質の違い、炭水化物ダイエットと糖質制限の違いがわかりますか?

それぞれの言葉は同じように使われていますが、この2つ、実は意味が違います。炭水化物とは、糖質と食物繊維のことなのです。人が消化吸収できるのが糖質、できないのが食物繊維です。そのため吸収できる糖質は1グラム4キロカロリーですが、食物繊維はエネルギーがほぼ0キロカロリーです。食物繊維については吸収されないから必要ないのではなく、むしろトレーニング時には多く必要になります。

ちなみに、食品の栄養素がどのくらい含まれているか示した食品成分表では、糖質の記載がありません。しかし、炭水化物と食物繊維の表示はあるので、炭水化物から食物繊維を引いたものが糖質量なのです。

エネルギーになるのは糖質だけではなく、脂質とたんぱく質もエネルギーになります。糖質は、単糖類、二糖類、少糖類、多糖類に分けられます。この種類によって摂取したときに血糖値を上げやすいものと、そうでないものに分かれます。

■効率よく筋肉をつけるためには「米」も必要

血糖値を上げやすいブドウ糖や砂糖などの単糖や二単糖は避けて、ゆっくりと血糖値を上げる米などのでんぷん(多糖類)としてとることで、血糖値の急激な上昇と下降をおこす血糖値スパイクを予防できます。血糖値スパイクは血管を傷つけ動脈硬化などのリスクを高めるため、健康のためには避けたいのです。

効率よく筋肉をつけるためには、糖質をとることで分泌されるインシュリンが原因となって、筋肉の合成が進みやすくなることがわかっています。ですから、食事では血糖値スパイクをおこさないようにするなど、糖質はタイミングを考慮しましょう。

マラソンやサッカーなど長い時間試合をおこなう競技の場合、グリコーゲンローディングという食事方法をとりいれます。これは食事を糖質中心にすることで、からだにグリコーゲン(糖質)をため込み、スタミナをアップさせる食事方法です。

食事の糖質はグルコースとなって吸収されて、血液を通して肝臓と筋肉にグリコーゲンとして蓄えられます。つまり、肝臓と筋肉がグリコーゲンの貯金箱のようになっていて、エネルギーをためておくことができるのです。

■筋肉をつければ食べ方次第でスタミナを増やせる

肝臓の大きさはだいたい1〜1.5キログラム程度です。トレーニングや食事によってかえることはできません。また食事で蓄えられるのは1回の食事で約50グラム程度です。筋肉の場合は1日に約200〜300グラムが蓄えられます。しかも筋肉量を増やせば蓄える量はさらに増えます。

つまり、筋肉をつけることで糖質のエネルギーをからだにため込む量を増やすことができ、食べ方次第でスタミナをアップさせることもできるのです。

先ほど、血糖値スパイクや、グリコーゲンとして肝臓と筋肉に蓄える話をしました。食事をするとこれらの組織にグルコースが運ばれますが、そのときに変化するのが血糖値です。

血糖値は80〜100mg/dlに調整されています。この血糖値を調整しているのが肝臓のグリコーゲンで、筋肉のグリコーゲンは血糖値の調整には使えません。筋肉のグリコーゲンは運動時の筋肉のエネルギーになるものです。

食事をしてグルコースがとりこまれると血糖値は急激に上昇し約30〜60分で最大値になります。血糖値が上がるとすい臓から分泌されるインシュリンによって、グルコースが細胞内にとりこまれます。それによって2時間程度で食後の血糖値は元に戻るのです。

■「鶏肉の照り焼き」は筋肉作りに向いている

逆に、血糖値が低くなるとグルカゴンというホルモンが分泌され、肝臓からグリコーゲンが使われ血糖値を一定に戻します。

インシュリンとグルカゴンというホルモンによって血糖値は一定に保たれていますが、インシュリンが分泌されることで、からだへのたんぱく質の合成が高まるとともに、分解も抑えることができるのです。つまり筋肉を作るにはこのインシュリンをうまく使うことが大事です。

なお、よく間違えやすいのは、血糖値を上げるのは糖質だということです。脂質は血糖値を上げないことを覚えておきましょう。

インシュリンが分泌されることで、からだへのたんぱく質の合成が高まり、分解が抑えられることは前述した通りです。

ということは、たんぱく質だけとってトレーニングをおこなうよりも、インシュリンをだすような食事をすることが筋肉作りには有効なことがわかります。

ただし、たんぱく質の多い肉類、魚介類、卵、乳製品、豆製品などにも糖質は若干含まれます。さらにたんぱく質の多い鶏肉でも鶏肉の照り焼きや、甘辛ソースなどをかければ、調味料として使用している砂糖やみりんによって血糖値が上がりインシュリンが分泌されます。

■「そばは太りにくい」と言われる理由

ちなみに、ブドウ糖がからだに吸収されるスピードをGI値(グリセミックインデックス)であらわすことができます。GI値の数値が高いほど吸収のスピードが速いということで、血糖値を上げやすいのです。

GI値が高いものは、砂糖や三温糖などです。うどんよりはそばの方が太りにくいというのを聞いたことがあるかもしれませんが、これはGI値がうどんの方が高いためです。白米よりは雑穀米の方がGI値は低いなど、似たような食材でもちょっとした違いでGI値がかわります。

体脂肪を落としながら筋肉をつけたい場合は、このGI値も考慮した食事をすることが大切です。

■「主食をとらないこと=糖質制限」ではない

「筋肉をつけたい、でも体脂肪は落としたい」と、糖質制限をおこなっている場合があります。それは前述したように効率が悪い食事法です。ただし先ほど鶏肉の照り焼きで調味料からも糖質がとれている話をしましたが、実際に糖質制限をしている人にカウンセリングすると、主食をとらないこと=糖質制限だと思っていたりします。

川端理香『筋肉の栄養学 強いからだを作る食事術』(朝日新聞出版)

トップアスリートの中にも、果物に糖質が多く含まれることを知らない人がいます。果物はビタミンしか含まれないと思っていたりするのです。口当たりが甘いにんじんやかぼちゃ、とうもろこし、さつまいもは糖質が多いのはわかると思いますが、実はトマトやたまねぎにも糖質は含まれます。

このように糖質制限をしているといっても食事内容を詳しくみると、意外に糖質をしっかりとっていたりもします。まずは自分が本当に糖質をとっているのかいないのかどうか、食事を振り返ってみましょう。

また、この糖質など食事からのエネルギーが不足すると、筋肉を燃やしてエネルギーにすることがあります。筋肉をつけたいと糖質制限をしてトレーニングをすると体重が落ちますが、そのときに注意したいのは、体脂肪ではなく筋肉がエネルギーとなって燃えたことが理由で、体重が落ちていないかどうかです。

筋肉をつけたい場合、糖質は全く避けるのではなく、筋肉が燃えない程度は最低限とる必要はあるのです。

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川端理香(かわばた・りか)
管理栄養士
昭和女子大学非常勤講師。2004年アテネオリンピック「VICTORY PROJECT」チーフ管理栄養士、08年北京オリンピック委員会強化スタッフ。JリーグやVリーグ、プロ野球、プロゴルフ、ラグビーなど多くのトップアスリートをサポート。著書多数。一般を対象にした講演などの食育活動や執筆、レシピ開発、企業の栄養アドバイザーも務める。

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(管理栄養士 川端 理香 写真=iStock.com)