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4月下旬以降、韓国のウォンが米ドルに対して独歩安の展開だ。特に、1〜3月期のGDP成長率がマイナスに落ち込んだことのマグニチュードは大きかった。多くの市場参加者が景気の減速は避けられないにしても、成長率はプラスを維持できると予想していたからだ。中国経済の減速懸念や韓国経済を支えるサムスン電子の業績不安なども高まっている。

この状況に追い打ちをかけるようにして、韓国の政治不安が上昇し始めた。現状、韓国の世論は、与党だけでなく、野党への批判も強めている。いかにして世論の不満を抑え、経済を安定させることができるか、文在寅政権は難局を迎えた。韓国経済の成長率が一段と低下すれば、同国の政治情勢は混迷し、経済は長期停滞に向かう恐れがある。

経済に端を発する「政治の混迷」

社会心理学的に、韓国世論の特徴は“怨み”にあるといわれる。経済の側面に焦点を当ててこの問題を考えると、富が再分配されづらい状況が続いてきたことが大きい。韓国の経済はサムスン電子を筆頭とする財閥企業に牛耳られている。経済的な権力が財閥創業家に集中しているため、景気が上向いても社会全体で成長を実感することが難しい。

その状況に、有権者は怨みを募らせた。文大統領は世論に配慮し、最低賃金の引き上げを目指した。しかし、多くの企業が経済の実力を無視した賃上げに反発し、最終的に文大統領は公約を撤回せざるを得なくなった。この状況に世論は怒った。北朝鮮政策への批判も加わり、5月には大統領の弾劾を求める署名が20万件を超えた。

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政府はこの請願に対応するか答弁しなければならない。その上、韓国政府は、前政権の与党であった自由韓国党の解散を求める請願にも対応しなければならない。これは、無視できない問題だ。本来であれば“革新派”である文政権の受け皿として、保守派の政治家への支持が高まることが想定されるが、韓国ではそうならない可能性がある。

米中の摩擦は激化している。韓国経済を支えてきた輸出は一段と減少する可能性が高い。世論は、財閥依存の高い経済構造への不満をため込み、政治批判が勢いづくだろう。韓国では経済成長率の低下が世論の不満を増大させ、それが更なる政治の混乱につながる恐れがある。それが続くと、経済は長期停滞に向かうだろう。その懸念がウォンを下落させている。

財政が悪化する懸念も

経済が長期停滞に陥らないようにするためには、金融政策と財政政策で景気を支えつつ、構造改革を進めることが必要だ。ただ、韓国の世論は一時的な痛みであったとしても、自分たちが負担を強いられることを受け入れられない。韓国の労働組合はその考えを体現している。自動車業界では業績が悪化する中で労組が賃上げを求め、経営が圧迫されている。

韓国において政府が構造改革を進めることはかなり難しい。金融緩和の余地も限られている。残る手段は、財政政策だ。これまで、韓国は財政の黒字を維持し、政府の債務残高をGDPの40%以内に抑えてきた。歴代の政権は海外依存度の高い経済を安定させるために、財政の悪化は避けなければならないと考え、財政を引き締め気味に運営してきた。

しかし、文政権は、財政支出を急速に拡大させている。政府は高齢者の雇用とインフラ投資のために支出を増やし、2月、3月と財政収支は赤字だった。文氏は目先の経済を支えるために財政政策をより重視するだろう。それ以外、文氏が世論の不満をなだめ、支持率をつなぎとめる方策は見当たらない。

財政支出を増やせば、一時的に景気は上向く。ただ、財政出動が長期的な景気安定につながるとは限らない。韓国のように政治が低迷している場合、世論への配慮から政府債務が増え、急速に財政が悪化することも考えられる。景気の失速リスクが高まる中で財政の悪化が進むと、資金流出圧力はさらに高まるだろう