いま、東京の丸の内と八重洲は熱いラーメン激戦区となっている。(写真左)「中華そば 福味」、(写真右)「松戸富田麺絆」(筆者撮影)

超高層ビルがいくつも建ち並び、一流企業のオフィスが集積する東京・丸の内。JR東京駅にも直結し、旧東京中央郵便局の局舎を一部残しながらも近代的なビルと複合させた商業施設「KITTE丸の内」の地下1階にいま、1日3000人以上がラーメンを食べに訪れている。「ラーメン激戦区 東京・丸の内」がお目当てだ。


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ラーメン激戦区 東京・丸の内は、「中華そば 福味」「松戸富田麺絆」「東京スタイルみそらーめん ど・みそ」「四川担担麺 阿吽」「博多屋台ラーメン 一幸舎」という、ラーメン好きの間で知られた5店を集めたグルメゾーンだ。

今年3月5日にオープンし、まもなく開業3カ月を迎える。ランチやディナーのピークタイムをはじめとして、各店が行列をつくることも珍しくない。

東京駅周辺は注目のラーメン激戦区に

運営会社の鉄道会館によれば、平日のほうが来客数は多いという。丸の内は飲食やショッピングのお店も多いエリアながら、どちらかと言えばビジネス街の色が濃いためだろう。


「KITTE丸の内」の地下1階の「ラーメン激戦区 東京・丸の内」(筆者撮影)

お客の男女比率はほぼ半々。清潔感やオシャレ感のある雰囲気を持ったお店もあり、もともとターゲットの1つに据えていた「丸の内OL」をはじめとする女性客をうまく取り込めているようだ。

東京駅を挟んで丸の内側と反対に位置する八重洲側の地下街には、「六厘舎」や「つじ田 味噌の章」など、8つの有名ラーメン店を集めた「東京ラーメンストリート」がある。ラーメン激戦区 東京・丸の内のオープンによって、東京駅近辺には複数のラーメン店が集積するグルメゾーンが2つ整った格好となる。

東京都内にはこれら以外にも、複数のラーメン店を一定の場所に集め、グルメゾーンとして名前を付けて展開しているケースがある。ざっと挙げてみよう。

品達品川(品川)
品達羽田(羽田空港)
東京ラーメン国技館 舞(お台場)
秋葉原拉麺劇場(秋葉原)
御徒町ラーメン横丁(御徒町)
ラーメンスクエア(立川)
らーめんたま館(立川)

お手本にしているのは、1994年に世界初のラーメンテーマパークとしてオープンした「新横浜ラーメン博物館」だろう。新横浜ラーメン博物館には現在、全国から8つの有名ラーメン店が出店している。東京以外の地域でも同じように複数のラーメン店が一定の場所に集まっているケースは、全国でみると約30カ所にも上っている。

ラーメンに限らないが、1つの料理ジャンルのお店を一定のエリアにまとめることは、特定ファンはもちろん、観光客をはじめとして一般的なお客への訴求力を高められる。お目当てのお店がなくても、「あの料理を食べたいので、この辺りのエリアへ行けば何かいいお店があるだろう」というわかりやすさがある。

例えば東京の月島近辺に「もんじゃ焼き」、栃木・宇都宮の中心市街に「ギョーザ」のお店が集積しているのは、同じ理屈だろう。複数店の中から選ぶ宝探し的な楽しさもあるし、場合によっては2店以上をハシゴできる。

人気店が行列で入れなくても、お目当ての料理を出しているお店はほかにもある。これも含めて、一見のお客の中には「次は別のお店で食べてみたい」と考える人もいるだろうし、そうした動機がリピーター獲得にもつながる。

1つのエリアに複数店舗を誘致するメリットとは

ラーメンの場合は、その多様性が複数の専門店を1カ所にそろえるメリットになるだろう。一口にラーメンといってもスープ、麺、具材それぞれのバリエーションが多く、各店ごとに一目でその違いがわかりやすい。「札幌味噌ラーメン」「博多豚骨ラーメン」といった各地で特徴のあるご当地ラーメンも合わせて、さまざまなラーメン店をひとまとめに誘致でき、わかりやすさや集客力、話題性などを高められる。

ラーメン、とくにその専門店はさまざまなジャンルの飲食業態の中で、相対的にお客の回転率が高いのも、複数店を集める特徴の1つになる。1杯のラーメンを頼んでそれを食べ終えたら、すぐに出て行くお客が多く、レストランや居酒屋などのように複数の料理やドリンクを頼んで長居しない。

その分、客数が多く稼げるのでSNSなどでの口コミ効果も高くなる。1つのエリアにラーメンの名店を誘致することでその知名度や人気で集客し、その周辺の経済効果を高めている例もある。

ただし、うまくいっているケースばかりではない。ラーメン評論家・山本剛志氏の調査によれば、こうしたラーメン専門店を一定エリアに集めた取り組みのうち、これまで全国52カ所でそれをやめたという歴史がある。

かつては渋谷や池袋などで有名ラーメン店が点在するエリアもつくってみた例があったが今はなくなっている。今、残っているのが全国で30カ所程度とすれば、むしろ成功が難しい取り組みとも言えるかもしれない。

複数のラーメン店を1カ所に集めても、各店ごとの人気にはバラツキが出る。客数が多く儲かるお店と相対的に客数が少なく、それほどは儲からないお店に分かれるだろう。全体で見て、最も儲からないお店の損益分岐点を超えるほどの集客ができないと赤字の店が出る。

お客の回転率が高いことを裏返せば、客単価では勝負できないので客数をたくさん稼がなければならない。だからこそ東京駅近辺や羽田空港、お台場など人がたくさん集まる地域でないと成り立たないということだろう。

人気店が出店しても失敗する難しさ

有名店の人気や集客力に頼るだけだと、近隣のラーメン店と明確な差別化にならず、個性を出せずに失敗するケースもある。要因として、個人経営のラーメン店がこうした取り組みに関わりにくいという事情もある。

要因は2つ挙げられる。1つは家賃の高い1等地に出さなければならないこと。もう1つは料理上の制約だ。

基本的には厨房が狭い場所が多いことから、お店の中で一からスープや具材を仕込むのではなく、セントラルキッチンでスープや具材を仕込めるようなお店を想定した、出店になっているケースが多いという。以上の理由で、出店しているのは複数店をチェーンで経営しているようなラーメン店に偏りがちだ。


千葉・松戸の「中華蕎麦 とみ田」を東京都内に初進出させ話題になっている(筆者撮影)

ラーメン激戦区 東京・丸の内の場合は千葉・松戸の「中華蕎麦 とみ田」を東京都内に初進出(店名は「松戸富田麺絆」)させたという話題性がある。こういったフックになるお店をしっかりラインナップできるかというのは勝負の分かれ目になるといってもいい。

ラーメンという料理の特性上、今後も複数店をひとまとめにした打ち出し方をする商業施設は出てくるだろう。ただし、それを成功させるハードルは決して低くない。