給料、ボーナス
年収が右肩上がりの業界、50代でどんと下がる業界

■4パターンの賃金カーブがある

「好きなことを仕事にしよう」とはよく言われることだが、これから就職する人たちには「待った」と言いたい。その選択が正しかったのは、2000年代初頭までのこと。当時はどの「規模」の会社に入るかで年収が決まっていたため、大企業に入りさえすれば、どんな業界でも800万円程度の年収が保証されていた。だから「好きなこと」を根拠に仕事を選んでもよかったのだ。しかし、この十数年で「業界」格差は広がり、今や大企業でも年収500万円に届かない業界もある。企業規模による差はせいぜい20〜40%程度だが、どの業界に就職するかで年収に2.5倍もの差が生まれるのだ。

全業種の大企業における、新卒から定年までの賃金カーブを見てみると、業界によって4つのグループに分けられる(図)。

定年まで年収が上がっていく、比較的安泰な1つ目のグループが「右肩上がり型」。電気・ガス・水道などのインフラ、メーカー、製造業、建設業、ITなどの情報通信、塾などの教育関係がこれにあたる。役職定年の制度がある会社であれば、55歳前後で部長や課長のポストを降り、給与が下がることが多い。製造業や建設業でも導入されている企業は多いが、日本の主要産業であるがゆえに労働組合が強く、役職定年後も年収が下がらない仕組みになっているのではないかと考えられる。

2つ目が50代に役職定年を迎えて年収が急激に下がる「台地型」。50代後半に年収が130万円も減る。これには、金融、保険、不動産業が含まれる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AH86)

3つ目は、役職定年はないものの、賃金の上がり幅も小さい「高地型」。これにあたるのが、医療、福祉、運輸業だ。医療、福祉業界は、皆保険の範ちゅうで売り上げが定められているし、運輸業界は価格競争が激しく、構造的に年収が上がりづらい。

4つ目は、そもそもの賃金水準が低く、高地型よりさらに上がり幅が小さい「平地型」。卸売業、小売業、宿泊、飲食など、一般に「サービス業」と呼ばれるもの全体がこのグループだ。たとえば旅行代理店業界は宿泊施設や交通機関を自前で持たず、仲介して手数料を得るビジネスモデルで、そのうえ人件費率が高く、構造的に儲からない。

このように業界格差が広がったのは、日本に明確な労働市場ができたためだ。新卒一括採用・終身雇用から、転職が当たり前の時代になり、企業側は必要なときに中途で人材を採用しやすくなった。それにより、分業化が進み、労働力に相場価格が生まれ、年功序列の賃金上昇が鈍化した。結果、高い賃金を支払える業界との間で大きな差が生まれたのだ。

■どの業界も人手不足

また、近年のもうひとつの特徴として、若手の給与は増えて、中高年層の給与は減る傾向にある。15年と17年の全業種の大企業における給与とボーナスを年代別に比較すると、業績連動によってボーナスはどの年代も伸びているが、給与は20〜30代前半が増えて、30代後半以降の年代では減っていることがわかる。どの業界も人手不足であり、この傾向は当分続く可能性がある。

このような環境下で、すでに就職している場合、年収を上げるにはどうすればいいのか。どの業界、どの年代の場合も、安易な副業に走るより、儲からない業界の構造を儲かるものへとつくり変えていくことが肝要だ。

令和元年のポイント:どの業界に就職するかで年収に2.5倍の差がつく

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平康慶浩
人事コンサルタント
1969年、大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。日本総合研究所などを経て、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。150社以上の人事評価制度改革に従事。

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(人事コンサルタント 平康 慶浩 構成=大高志帆 撮影=奥谷 仁 写真=iStock.com)