NTTドコモと横浜市らの「IoTスマートホーム」が住人の健康意識を変えた! 「健康になる住宅」の実現は意外に近い

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●家が巨大なAIアシスタントになる
横浜市とNTTドコモおよびand factoryは5月23日、神奈川県内にて「未来の家プロジェクト」第3回実証実験の報道関係者向け内覧会を開催しました。

未来の家プロジェクトとは、横浜市が推進するIoTイノベーションパートナーズ「I・TOP横浜」の一環で、IoT技術を駆使した家「IoTスマートホーム」の実現に向けた取り組みです。


「未来の家プロジェクト」は2017年6月にスタートし、実証実験は今回で3回目となります。
当初は横浜市とNTTドコモ、and factoryの3社のみでスタートしましたが、実証実験を重ねる中で参画企業も増え、現在は15社が加盟しています。

現在の日本は、深刻な少子高齢化社会を迎えています。
一人暮らしが増えている時代に、
・高齢者の一人暮らしの安全確保や健康の維持
・女性の一人暮らしの安全確保
・共働き世帯の子どもの見守り
・忙しい社会人の健康および生活のサポート
これらの課題に対し、住宅の視点から解決を模索しようというのが、本プロジェクトの大きな目的です。


現在も参画企業は募集中


IoTスマートホームの大きな特徴は、家自体が巨大なAIアシスタントとなることです。
そして住む人々の健康管理や生活サポートなどを行います。

・睡眠センサーが起床を感知し室内照明や雨戸を自動制御
・食事のメニューから摂取カロリーや健康へのアドバイスを行う
・洗面所の体重計やミラーディスプレイで健康状態やその日の天候情報をお知らせ
・外出先から施錠状態や室内の家電品の稼働状況を一括管理・制御
こういったことが、すべて手元のスマートフォンで行えるようになります。


テレビや照明だけでなく、ブラインドや空気清浄機、掃除機、アロマディフューザーまで、全てが自動制御される



家の施錠と施錠状態の確認はスマートフォンでどこからでも行なえる



●住む人に寄り添うIoTへ
今回の実証実験でテーマとなったのは「ホームオートメーション」です。

室内に設置されたIoT機器は、自動制御されるだけでなく、住む人の好みや使い方に合わせてカスタマイズすることも可能です。
例えば、起床時に照明の色を青みがかった色にして、アロマディフューザーとテレビを自動起動する、といったことも設定次第で可能です。

これらのIoT機器の制御を担当しているのが、NTTドコモとand factoryです。
NTTドコモは通信ネットワークの整備とデバイスWebAPIを活用した「IoTアクセス制御エンジン」の開発を担当しています。

and factoryはスマートフォンのユーザーインターフェイス(UI)を開発し、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上を担当しています。


制御用のスマートフォンアプリは、できるだけ簡単に一括操作が行えるよう工夫されている



各一括制御ボタンは、設定で細かくカスタマイズすることも可能


今回の実証実験で使用されたIoT機器は、20種類以上にのぼります。
ソファーや床面に組み込まれた感圧センサーにより、室内の人の位置や移動状況を感知するものもあります。
この感圧センサーの用途としては、
・1人暮らしの年配者の見守り
・子どもの留守番の見守り
・侵入者の監視
といった使い方が想定されています。

また、戸棚やクローゼットなどに開閉センサーを設置することで、出かける際の忘れ物への注意喚起を行うことなども想定されています。


鍵や財布をしまっている戸棚のセンサーが反応しないまま家を出ようとすると注意を促してくれる



注意喚起は煩わしくならないよう、照明の色を変化させるなどの方法が取られている



●IoTスマートホームは、健康への意識をも変革する
これまでの実証実験では約20名の被験者が1週間IoTスマートホームへ滞在し、
・暮らしやすさ
・生活習慣の変化
・健康への意識の変化
これらをモニターしてきました。

今年4月に被験者となった60代の男性はインタビューに対し、
「普段は健康について意識していなかったが、数字が否応にも見えるので意識するようになった

健康に興味を持てるようになった

無知な自分たちには情報はとてもありがたい

(健康状態を)知っているのと知らないのとでは心構えが変わってくる」

このように答え、IoTスマートホームが住人に対して健康管理への「気づき」を与えるきっかけになったと語っています。


家には血圧計が設置され、スマートスピーカーと連動して音声で計測結果などをお知らせしてくれる



血圧や体重などの情報はスマートフォンアプリに送られ、一覧性良くチェックできる



料理を撮影するとAIが自動認識してカロリーなどを計算し、健康管理に役立つアドバイスをしてくれる


一方で、「積極的に住みたいと思うか?」という質問に対しては、「難しい」とも語っています。
「良い数字であれば健康意識も高まるが、悪い数字なら毎日それを見せられるのは嫌かもしれない

(数値を知ることで)治るならいいが、奥さんの小言みたいで……」

と、常に健康管理に関連する数値や情報を見せられることへ苦笑する場面もありました。


健康情報などを表示するミラーディスプレイ



便利である一方、細かな数値を常に見せられることに抵抗感を示す人もいるようだ



●「居住者の要望を叶える家」を目指す
約20名の被験者に行ったアンケート調査では、約75%の人がIoTスマートホームによって健康への意識が向上したと回答しており、「積極的に階段を利用するようになった」といった、行動変容に至ったケースも見られたということです。

本プロジェクトは2020年3月まで行われます。
実施予定の第4回および第5回の実証実験では、被験者の一般公募も行う予定です。
これまでは居住者の健康にスポットを当てた実験が中心でした。
今後は、
「居住者の要望を叶える家」
これをコンセプトに、より「個人」に適応した家を目指すとしています。

人々の生活に寄り添い、人に健康や生活への「気づき」を与えてくれるIoTスマートホームは、21世紀の日本が目指すべき住宅の姿であると感じました。


執筆 秋吉 健