JALのイメージキャラクターを務める嵐のメンバーがプリントされた飛行機。イベントにはメンバーの大野智さんと松本潤さんが駆けつけた(撮影:尾形文繁)

常夏の楽園・ハワイと日本を結ぶ路線は航空会社にとって収益性の高い“ドル箱”だ。そこで圧倒的な存在感を示してきた日本航空(JAL)がいま、大きな戦略転換を迫られている。

JALは5月22日、イメージキャラクターを務める人気アイドルグループ・嵐とコラボレーションした特別塗装機のお披露目イベントを開催した。嵐メンバーの大野智さんと松本潤さんらも同席。当日夜の成田=ホノルル便には早速この機材が使用された。

ハワイ路線の情報発信を強化

JALは今年に入り、ハワイ路線の情報発信を急加速している。

4月21日には東京ミッドタウン日比谷で、JTBやエイチ・アイ・エスなど多くの旅行会社と共同でイベント「JAL HAWAII フェス」を開催。5月14日には、初日の出を飛行機に乗って上空から鑑賞する「初日の出フライト」を、2020年の元旦にハワイ諸島上空で初めて実施すると発表した。

中でも注目を集めたのは、3月29日に開かれた新たなハワイ旅行コンセプトの発表である。大自然の中で夕陽や星空を堪能するキャンプ型宿泊サービス「グランピング」、高級別荘をレンタルして自分の家のように過ごす「バケーションレンタル」などを動画で紹介した。


JALが3月29日に開いたハワイ旅行コンセプト発表会では、ハワイ在住の女優・長谷川潤さん(中央)も登壇した(撮影:尾形文繁)

ただ、この動画の主な舞台となったのはワイキキビーチや人気商業施設「アラモアナ・センター」のあるオアフ島ではなく、ハワイ諸島主要8島のうち最大の島であり「ビッグ・アイランド」の愛称で親しまれるハワイ島だった。4月のイベントもハワイ島の紹介ブースが設けられており、5月発表の初日の出フライトもハワイ島上空を旋回する内容となっていた。

なぜいまJALはハワイの情報発信を強化し、中でもハワイ観光の王道であるオアフ島ではなく、ハワイ島を重視するのか。その背景には、ライバル・全日本空輸(ANA)の急拡大がある。

JALが日本からホノルル(オアフ島)への定期直行便を就航したのは1959年、つまり今から60年も前のことだ。日本の航空行政が主要な国際線を長くJALに限定していたこともあり、ライバル・全日本空輸(ANA)のハワイ線就航(1991年)より32年も先行している。

2010年の経営破綻でJALは国際線縮小を余儀なくされたが、ハワイ路線は例外で、現在でもJALはホノルルへ、成田から1日4便、ANAにはない関西国際空港と中部国際空港からも1日1便運航している。


2019年3月時点の日本―ハワイ間の供給座席数シェアはJALが31%で首位。2位はハワイアン航空の22%。ハワイアン航空とJALは2017年から共同運航(コードシェア)を行っており、両社を合わせたシェアは過半を超え、同13%のANAを圧倒している。

「ハワイと言えばJAL」イメージが奏功

これだけの強さを発揮できている理由について、JALの内藤建一郎・国際路線事業部長は「ハワイと言えばJAL、というイメージを形成できたからだろう」と分析する。圧倒的な座席数を供給し、1990年代に専用の特別内装ジャンボ機を投入するなど、「日本人のハワイ渡航需要を創出してきた自負がある」(同)。

また、長い歴史で培ったハワイのホテルとの関係性も奏功している。JALは1984年から「ホノルルマラソン」のスポンサーを務め、客足が途絶える12月初旬の送客に貢献してきた。

ハワイ戦略を担当するJAL国際路線事業部の阿部元久・アシスタントマネジャーは「ハワイはホテル需要が逼迫しており、ホテルとの関係が強いかどうかが(JALの座席利用率にとって)重要になる」と語る。というのも、今のハワイ旅行は航空運賃以上に、ホテルの仕入れ値が旅行パック料金に影響しており、「(ホテルと目に見える)提携をしていなくても、長い間送客してきた付き合いから、(JALの航空券を用いた旅行パックを、ホテルから)優遇してもらえている」(阿部氏)からだ。

毎年12月初旬に開催されるホノルルマラソンだけでなく、年度明けで客足が遠退く4月初旬のハーフマラソン大会や、夏休み明けとなる9月下旬のロードレース大会など、複数の閑散期イベントをスポンサーとして支えている。

しかし、長年続いてきたJALの天下が覆ろうとしている。

5月24日、ANAが世界最大のエアバス製旅客機「A380」を、成田―ホノルル線に導入したのだ。総座席数は520席と、ANAがこれまでハワイ路線で使用してきたB787-9(246席)の2倍超という驚異の送客力を誇る。就航時は週3便、7月1日からは週10便と徐々にB787-9からの置き換えを進めていく。


ビジネスクラスにはカップルやハネムーンを意識した横並びのペアシートを用意。エコノミークラスには席をベッドにできる仕掛けもある(撮影:梅谷秀司)

これによりJALは首都圏(羽田・成田)発のホノルル路線の供給座席数で、ANAに逆転される。4月26日の決算会見で、JALの菊山英樹財務・経理本部長は「(ANAの座席数大量供給で)需給バランスが崩れるのは明々白々。(供給座席数を前年比で)10%以上落とす」という計画を明かした。

ハワイ島で「JALの牙城」を築く

劣勢に立たされたJALがひねり出した戦略が「ハワイ島」の活性化だ。ハワイ島のコナ空港に日本から直行便を運航するのは、JALとハワイアン航空のみ。しかも、ハワイアン航空はホノルル―コナ間の乗り継ぎ便を多数持つ。ANA不在のハワイ島は、JALが新たな「牙城」を築くのにうってつけなのだ。

前出の阿部氏は「JALにはANAのA380のような目新しい機材がなく、今までどおりにやっていたらダメになる。どうやってJALのハワイ路線を愛し続けてもらうか考えたとき、ハワイ島を生かした新しい旅の提案にたどり着いた」と語る。

JALの調査によると、今の日本人がハワイ旅行に求めるものの1位は、ホノルルでビーチと買い物を楽しむことではなく、ゆっくり過ごしたいニーズが大きくなっているという。JALとしては、ハワイ島でしかできない楽しみ方を創り出し、定着させていく考えだ。


JALと2017年に提携したハワイアン航空。ハワイ州最大の航空会社でハワイ諸島間のフライトが充実している(写真:ハワイアン航空)

日本とハワイ島コナ空港を結ぶ路線の座席利用率は、年間通して90%程度のホノルル線を大きく下回る。昨年5月にハワイ島のキラウエア火山が噴火したこともマイナスとなった。前出の国際路線事業部長・内藤氏も「(高需要の)ホノルル線よりも、コナ線の需要をしっかり盛り上げていくことを優先する」と意気込む。

西武、ヒルトン系と相次ぎ提携

カギはハワイ島が注目されるようなアクティビティーをJALが用意できるかだ。今年2月にはハワイ島にリゾートホテルを構える西武ホールディングスと、3月にはコンドミニアムを多く抱えるヒルトン系の業者と、商品開発で相次ぎ提携した。

それらの提携を生かしたハワイ旅行コンセプトを前述したような形で3月に発表したが、定まっているサービスはわずかで、中身が煮詰まっていないものがまだ多い。ハワイ戦略担当の阿部氏は「これから深めていく。世界中からアイデアを集めている」と今後の深化に自信を見せる。

新天地・ハワイ島でANA追い落としを図るJAL。ハワイ路線盟主の座を死守するために、かつての開拓者としての手腕が再び試されている。