シーズンを終えて帰国後、インタビューに応じた伊東。優勝の喜びを語ってくれた。写真:岡村智明

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 今年2月、柏レイソルからベルギーのゲンクに移籍した伊東純也が5月22日、ベルギー・チャンピオンになって日本に凱旋した。
 
 サッカー選手にとってタイトルは大切な勲章。とりわけ海外では、選手の価値は獲得したタイトルによって決まると考えられている。
 
 このことで思い出す選手がいる。
 川崎時代のヴェルディと鹿島アントラーズで優勝請負人となったビスマルクだ。ゴール後の十字ポーズで人気になったブラジル人は、試合後に話を聞きに行くと、いつも日本語で自分が獲得したタイトルを挙げていた。
「これだけタイトルを持っているのだから、自分はとても価値のある選手だ」と言いたいのだ。
 
 さて、移籍1年目でのリーグ優勝を、伊東は心から喜んでいた。
「8年ぶりの優勝が決まって、街の人たちはちょっとヤバいくらい騒いでいました。2日間、シャンパンとビールを飲みまくりですもん。びっくりしました」
 
 狂喜乱舞する街の人々、それだけがうれしかった理由ではない。伊東にとっては、これがプロ初のタイトルだったからだ。
 
「ぼくが加入したとき、すでにチームは首位だったので、これで優勝できなかったら……という重圧はちょっとあったかな。だから安心したところもあるんですけど、なにより優勝できたというのがうれしくて。だってぼく、プロはもちろん、子どものころからほとんど優勝したことがないですから」
 
「優勝……いつ以来かなあ」と言って、伊東は遠い目をして考え込む。
 
「レイソルでもヴァンフォーレでも優勝したことはないし、大学もいいところまで行ったことはあっても、結局勝てなかった。高校も中学も弱かったなあ。小学校のころは……。あれ? あったかも。それでも地元横須賀の、三浦半島大会みたいなものですよ。でも、一度勝ったくらいかな。いずれにしろ、学生時代はずっと弱いチームにいたから、優勝経験がほとんどない。だから、やっぱり優勝っていいなあと思ったんです」
 
 移籍1年目で優勝した伊東には、来季大きな楽しみが待っている。チャンピオンズ・リーグだ。
「強いチームがいっぱい出てるイメージですね。対戦できるなら全部対戦したいくらいですけど、ひとつ挙げるならバルサですね。ぼくは相手を見て緊張したりしませんが、メッシだけは特別。だれが見たってすごいじゃないですか。一度、一緒のピッチに立ちたいですね」
 日本を飛び出してヨーロッパへ、そしてチャンピオンズ・リーグへ。活躍の場は大きく広がる。
 これこそが、伊東が待ち望んでいたものだ。
 
「26歳のヨーロッパ移籍って、正直遅いじゃないですか。ゲンクでもぼくは年齢的に上の方で、若手が次々出てくる。サッカー選手は現役の時間が短いから、一年も無駄にできないんですよ。ですからやれる間に、どんどん大きい舞台に出て行って活躍しなきゃと思うんです」
 
 キャリアは有限。そのことを知る伊東は、目の前の一戦、この瞬間のプレーに全力を傾ける。その果敢な姿勢と爆発的なスピードは、地元ファンを魅了。伊東が仕掛けるたびに、ゲンクの本拠地クリスタル・アレナは「イトー」の大合唱に包まれるようになった。
 世界最高峰の舞台チャンピオンズ・リーグに挑む来季は、勝負のシーズン。遅咲きのスピードスター、伊東から目が離せない。
 
取材・文●熊崎 敬(スポーツライター)

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