学歴社会にとらわれず、成功にはいろいろな形があることを証明しているのが、ハリウッドの魅力かもしれない(写真:Gabe Ginsberg/gettyimages)

ここのところ日本のニュースサイトをのぞくと、「早稲田vs慶応」をテーマにした記事を、よく目にする。一方、アメリカでは、スタンフォード大やハーバード大も巻き込んだハリウッドセレブたちの裏口入学事件が、相変わらず炎上している。そんな中、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が世界興収で2位にあった『タイタニック』を抜いたというニュースが話題を集めた。

これらのニュースにとくに相関性はない。しかし、筆者がなぜ面白いと思ったかというと、『アベンジャーズ』シリーズで長年アイアンマンを演じたロバート・ダウニー・Jr.も、『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督も、高校中退者だからだ。

もっともキャメロンはその後、別の高校に入り直すのだが、こうした成功者の姿は一般人が思うものとほど遠いだろう。ちなみにキャメロンの総資産は推定7億ドル(約770億円)、ダウニー・Jr.は推定3億ドル(約330億円)だ。

「高校中退者」が多くいるハリウッド

実のところ、誰もが知るハリウッドの大物には、高校中退者がたくさんいる。ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、トム・クルーズ、ライアン・ゴズリング、キャメロン・ディアス、キアヌ・リーヴス、ニコール・キッドマンは、みんなそう。

『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー主演女優賞をつかんだジェニファー・ローレンスは、ハイスクールに行き着く前、ミドルスクール(日本の中学に当たる)の段階で中退している。

彼ら彼女らはその若さと美しさで成功したから、中退していいやと思ったわけではない。例えば、ジム・キャリーは、高校を辞めたというより、辞めざるをえなかった。父が失業し、家計を助けるべく自分も夜間清掃員として働いた結果、昼間、学校に行くことができなくなったのである。しかし彼は90年代、ハリウッドで史上初めて1,000万ドルの出演料をもらうスターとなった。

親日家としても知られるクエンティン・タランティーノも15歳で高校に行くのを辞めたが、すぐに映画の世界に入ったわけではなく、ポルノ劇場やレンタルビデオ屋のバイトなど職を転々とした揚げ句、後に彼の映画をプロデュースすることになるローレンス・ベンダーに出会っている。

映画業界を変えたという意味で、おそらく右に出る者はいないウォルト・ディズニーも、高校を卒業しなかった。1901年生まれの彼の場合は、第1次世界大戦でアメリカ軍に志願し、終戦後も高校には戻らず、漫画家を目指している。もちろん、今とは時代が違うが、現役でも、ユニバーサル・ピクチャーズの親会社NBCユニバーサルの副会長ロン・マイヤーは、高卒である。

「ゴールデン・ステート」と呼ばれるとおり、カリフォルニア州は、一攫千金を狙ってあちこちから人が集まってきた歴史と文化がある場所だ。ハリウッドもその典型で、実力、努力と運の勝負。今でこそ大手タレントエージェンシーはアイビーリーグ(アメリカの名門8大学の総称)卒業者だらけだが、基本的にこの業界で学歴に意味がないことは、わかりきったことである。

超高学歴スターも多くいる

だからこそ、超一流大学を出たのに、それを使えないこの世界に入ってきたセレブもいるのは、興味深いことである。例えば、日本だと缶コーヒー「BOSS」のCMでもおなじみのトミー・リー・ジョーンズがそうだ。


サントリーCM 「クラフトボス『新しい風・こたつ』篇」に登場しているトミー・リー・ジョーンズ(YouTube:https://www.youtube.com/watch?time_continue=26&v=FVDuFuro2to

彼はハーバード大でアル・ゴア元副大統領とルームメートだった。一方、エミー受賞者でオスカー候補入り歴もあるポール・ジアマッティは、エール大卒。2歳年下のエドワード・ノートンも、同じ頃エール大に通っており、当時から知り合いだ。

また昨年、監督、脚本、出演を兼任した『クワイエット・プレイス』をスマッシュヒットさせたジョン・クラシンスキーは、ブラウン大を出ている。せっかくアイビーリーグを出たのに、何の保証もない俳優を目指すうえで、両親とは期限を約束したとのこと。その締め切り直前、彼はコメディー番組「ザ・オフィス」の役を得て、今につながっている。

ジョーンズとジアマッティは英文学、ノートンは歴史、クラシンスキーは舞台芸術の専攻だった。ジョーンズは大学時代に歌舞伎の魅力に目覚めてもいる。さまざまな時代のさまざまな役柄に挑戦し、脚本家、プロデューサーとしても活躍する彼らにとって、優れた教授のもとで学んだことは、直接的ではなくても、どこかできっと生かされているのではと想像される。

子役スターになった後、キャリアをやや犠牲にしてまで大学に入ったジョディ・フォスター、ダコタ・ファニング、エマ・ワトソンらにも、それは言えるのではないだろうか。 フォスターはエール大で英文学、ファニングはニューヨーク大で映画における女性学、ワトソンはブラウン大で英文学を専攻している。

彼女らの場合は、私学の高額な学費を自分で払うこともできた。普通ならば、高い年収をもらえるようになるためによい大学に入ろうとするもの。なのに、同世代の子たちが友達の家でゲームをやっている頃から大人以上の年収を稼いできた彼女らは、それが直接年収アップにつながらないとわかっていて、わざわざ名門大学に入る苦労を選んだのである。

わが子のために「学歴」を得たスター

2017年、「世界で最も稼いだ男性俳優」としても名をはせたマーク・ウォルバーグについても述べておくべきだろう。

若い頃は問題児で、少年院入りも経験した彼は、キリスト教の助けもあって改心。今では、レストラン、サプリメント、車のディーラーなど、映画業界を超えて多角的にビジネスを展開している。そんな中で、通信制で高校の勉強をし、2013年、40代にして見事、高卒の肩書を得たのだ。

4人の子の父親である彼は、その動機について、「わが子に勉強しろと言い、『でもパパは高校を出なかったのよね? どうして私はしなきゃいけないの?』と言われると、何も言えないからさ」と語っている。

今さら学歴をもらう必要もないのに大学で学ぼうとする人もすごいし、高校を出ていないのにミリオネアになってみせた人もすごい。ハリウッドには、いろんなモチベーションがあり、いろんな成功の形があるということ。

そんな人たちが集まっているからこそ、すばらしいエネルギーが生まれるのかもしれない。もちろん、それはハリウッドに限らずどこででもあることだろう。そういうことがもっと増えていったら、すてきではないか。