IBF王座を獲得し、WBSS決勝進出を決めた井上尚弥【写真:Getty Images】

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世界ボクシング殿堂入りのマクギガン氏が英紙で井上に言及

 ボクシングのワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝でWBA王者・井上尚弥(大橋)はIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を259秒TKOで下した。グラスゴーの地元ファンからも大歓声を受けるなど、英国のボクシングファンの心を鷲掴みにしたモンスターの“あるギャップ”に、同国の名王者が「私好みなんだ」と告白。すっかり魅了されている様子だ。

 英地元紙「デイリー・ミラー」で、「リング上の戦慄と、リング外の魅力 ナオヤ・イノウエは私好みのファイターだ」というタイトルでコラムを執筆したのは元WBA世界フェザー級王者で、2005年に世界ボクシング殿堂入りを果たしているバリー・マクギガン氏だった。

「私はまだナオヤ・イノウエがパンチを放つ姿を実際に見たことがない。でも、心配しないでほしい。私の願いごとリストに載っている」

 同興行のメインイベントだったWBSSスーパーライト級準決勝でイバン・バランチク(ベラルーシ)を倒したジョシュ・テイラー(英国)のプロモーターを務めるレジェンドはグラスゴーの会場には足を運んでいたが、愛弟子の試合前だったため、井上の豪快なKO劇を目の当たりにすることはできなかったようだ。

 大観衆の盛り上がりで結末を悟ったマクギガン氏は「そこから何回も試合を見た」と記し、259秒を振り返っている。

「彼(ロドリゲス)はプエルトリコ史上最強のファイターではないかもしれないが、あの地域出身の無敗の世界王者は絶対に簡単な相手ではない。ロドリゲスは背が高く、手足も長い。実力者以上のものだ。彼は初回に幾つかいいパンチをイノウエに直撃させていた。イノウエも打たれることはある。しかしながら……。ワオ、なんて衝撃的なパンチャーなんだ」

 ロドリゲスの実力を高く評価しただけに、それを上回った井上のハードパンチャーぶりに感銘を受けた様子でこう綴っていた。

「あのハンマーのような強打はライトフライ級からバンタム級では絶対に存在しないものだ。マイキー・ガルシアがフェザー級、スーパーフェザー級時代に見せていた戦慄なパワーの持ち主だ。見る者を釘付けにさせてくれる」

 米国の4階級制覇王者ガルシアを彷彿とさせるパンチ力と指摘。その上で「ワシル・ロマチェンコのような万能性はなく、テレンス・クロフォードのようなテクニシャンではないが、彼は2人よりも強烈なパンチを放つ」と称賛を続けている。

マクギガン氏は井上のリング外の振る舞いにも拍手

 リング上で戦慄のKO劇を見せる井上だが、その紳士ぶりにもマクギガン氏は拍手を送っている。

「彼のファイターとしてのクオリティもさることながら、私は彼の態度を愛している。グラスゴーで会った彼はファイターはこうあるべき、という全てを備えている。ファイターには無慈悲であり、相手を大の字に倒してもらいたいものだが、ロープの外では魅力と優雅さを保たなければいけない。彼は全てを体現し、それ以上ですらある」

 グラスゴーで実際に出会った26歳の王者はどこまでも好青年だったという。そして、公開練習でロドリゲスのトレーナーが井上陣営を挑発した騒動も把握していた。

「ロドリゲスのコーチ、ウィリアム・クルーズがイノウエの父で、トレーナーのシンゴの撮影を止めようとし、公開練習では言い争いも起きた。シンゴはただ引いた。イノウエ陣営から誰もリアクションはなかった。彼らはリングの中に答えがあると知っていたのだ。イノウエは同席していなかったが、承知していた。あの夜に彼なりの返事をすることを誓っていたのだ」

 クルーズ氏の挑発に一切乗らず、リングで圧倒した井上と陣営の大人の対応にも感じるところがあったようだ。決勝では5階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)と戦うが、マクギガン氏には結末は見えているという。

「ドネアはバンタム級では依然として実力者だが、イノウエは全員吹き飛ばしてしまうだろう。私好みのファイターなんだよ。リング上でも外でも」

 リング上で見せるハードパンチと、対照的な普段の優雅な姿勢。英ボクシング界のレジェンドもすっかりモンスターのギャップに心を鷲掴みにされたようだ。(THE ANSWER編集部)