「ジュリアン・アサンジの追起訴は、「報道の自由」への挑戦にほかならない」の写真・リンク付きの記事はこちら

内部告発サイト「WikiLeaks」の創設者であるジュリアン・アサンジを、5月23日(米国時間)に米司法省が追起訴した。これまでの起訴は、アサンジがパスワードの解読をほう助しようとしたことに焦点が置かれていた。これに対して新たな17の罪状は、スパイ活動法に違反した容疑が主眼になっている。アサンジがジャーナリストかどうかはともかく、今回の司法省の決定は報道の自由を著しく侵害しうる行為だと言っていい。

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起訴状の全文はここから読むことができる。起訴状の主張によれば、アサンジが何度も機密情報を公開したことは、1917年に成立したスパイ活動法によって明白に禁止されている行為だという。だが、機密情報を受け取った者に対してスパイ活動法が適用されることは極めてまれなことであり、適用されたとしても実効性のあるものには決してならないのが常だった。

「この国の歴史で初めて政府は、本当の情報を公開した者を公訴したのです」と、アメリカ自由人権協会で言論とプライヴァシー、テクノロジーに関するプロジェクトのディレクターを務めるベン・ウィズナーは言う。「これはトランプ政権によるジャーナリズムと憲法第1条への極めて深刻な攻撃なのです」

もはや政府は「誰でも」有罪にできる?

今回の起訴でスパイ活動法が適用されうるというトランプ政権の考えは、WikiLeaksの件にとどまらず、ごく近い将来にさまざまな局面で影響を及ぼすことになるだろう。

アサンジの職業が何であろうと、今回訴えられている情報公開という行為は、ジャーナリストにとっては仕事の一部にほかならない。ジャーナリストがこうした活動をするからこそ、米国民は政府の情報収集プログラム「PRISM」や国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」などの存在、そして権力の乱用や政府による不適切な行為について知ることができるのだ。

「情報を漏えいすることは、明らかに秘密保持契約や法律に違反しています。しかし、安全保障に関して取材するジャーナリストたちにとって、“情報漏えい”とは日常的な仕事の一部なのです。もちろん、情報漏えい者に金銭を支払ったり、パスワードをハッキングする手伝いをしたりといったことは例外ですが」と、法律事務所マーク・ザイドP.C.で安全保障やインテリジェンスを専門とする弁護士のブラッドリー・モスは言う。「もしこの訴訟でアサンジを有罪にするなら、政府は誰でも有罪にできるということなのです」

「ジャーナリスト」ではないから問題ないのか

その理由のひとつが、スパイ活動法はジャーナリストを例外としていないことだ。ジャーナリストの自由が守られているのは憲法第1条のおかげであり、機密情報を漏えいしたものを訴えることは危険な前例をつくることになると、これまでの政府が認識していたからでもある。

実際に今回の起訴は、オバマ政権時に起きた2009年と2010年の事件を具体的には対象としている。当時司法長官だったエリック・ホルダーがアサンジを実質的に見逃したのは、こうした背景があるからだった。

「その件については慎重に議論し、当時の司法省は機密情報を公開したことでアサンジを起訴するのは適切ではないと、最終的に決定したのです」と、オバマ政権時の司法省報道官だったマシュー・ミラーは言う。「アサンジがジャーナリストだったから、というわけではありません。わたしたちは彼がジャーナリストだとは考えませんでした。もし彼を法的に裁けば、その前例が大手メディアの記者の告訴や起訴にも利用されると考えたからです。それがいちばんの要因でした」

司法省の国家安全保障課を管轄するジョン・デマーズは記者会見で、アサンジと伝統的なメディアとの違いについて説明しようと試みている。「アサンジはジャーナリストであり、機密情報の公開で起訴されるべきではないと考える方もおられます。司法省は民主主義におけるジャーナリストの役割は重要であると理解しています」と、デマーズは語った。「これまでと同様に、司法省は情報を公開するジャーナリストを訴えようとしているわけではありません。アサンジはジャーナリストではない、というだけのことです」

司法省は絶大な力を得ることになる

残念ながら、スパイ活動法にとってこうした違いは意味をもたない。アサンジが有罪になれば、国家の安全保障に関わる機密情報の公開をもれなく犯罪にする前例をつくってしまうことになる。

そうなれば、トランプ政権やその後に続く政権は、躊躇なく情報公開するジャーナリストたちを訴えることだろう。それだけではなく、そもそもジャーナリストとは誰なのかという定義を、政府自身が決めてしまうことになりかねない。

「憲法第1条を拠り所にする人々にすらスパイ活動法が適用されうると司法が決定した場合、これから司法省は絶大な影響力を得ることになるでしょうね」と、弁護士のモスは指摘する。「そして刑事責任を問うために、誰がジャーナリストで誰がそうではないのかを決める前例をつくることにもなるのです」

最高裁まで持ち込む準備があるからこそ、司法省は今回の動きに打って出たのだろうと、元司法省報道官のミラーは言う。「このようなかたちで法が利用されることは前代未聞です」とミラーは語ったうえで、保守派が優位な現在の最高裁が司法省を大胆にしたのだろう、とも指摘している。

「憲法第1条」の存続の危機

トランプ大統領はメディアを「国民の敵」としてこれまでも頻繁に批判しており、機密情報の漏えいに関してもはっきりと不快感を示してきた。アサンジの起訴は、憲法第1条を“無効”にする試みなのか。それとも司法省のデマーズの言うように、長年にわたって国民を扇動してきた人物を狙い撃ちにしたものに過ぎないのか。議論の余地はあるだろう。

どちらの立場をとるにしても、アサンジが有罪になれば結果は同じだ。ジャーナリストは投獄されるリスクを負って、敵対的な司法省の気まぐれで、その命運を決められることになる。

「簡単に言えば、ジュリアン・アサンジとWikiLeaksに対する前例のない起訴は、第1条に対する最も重要で恐ろしい脅威なのです」と、報道の自由財団の共同創設者であるトレヴァー・ティムは声明を発表している。

「政府が隠そうとする事実をメディアが公開できるとことは、国民が政府の行いを知るためには欠かせないことで、基本的な権利なのです。司法省による今回の決定は、トランプによるジャーナリズムへの攻撃がこれまでになく深刻なものになったことを意味しています。第1条が存続の危機にあると言っても過言ではありません」

ハッキングという罪状でアサンジを起訴すること自体は、筋が通っている。ジャーナリストもまた似たような罪状で訴えられうるし、実際にそうしたケースも過去にある。

だが、スパイ活動法によってアサンジを有罪にすれば、安全保障に関して取材するジャーナリスト全員が、いずれは同法の対象になりかねない。法務省はそうした可能性があることに当然ながら気付いている。それでも起訴を強行することがが、ますます恐ろしいのだ。