世界最高齢プログラマー、若宮正子さんの視点とは?(写真提供:中央公論新社)

英語がどうしても苦手、だから英語絡みの仕事など一生無理、という人。そんな人に重要な視点を教えてくれるのが、84歳の現役プログラマーとして知られる若宮正子さんだ。

若宮さんは81歳のときにスマートフォン向けゲームアプリ「hinadan」を開発。アメリカ・アップル本社の世界開発者会議に招待され、ティム・クックCEOに絶賛されたことで一躍脚光を浴びた。さぞ英語が得意なのかと思いきや、実は今でも英語は大の苦手という。苦手といいながら、なぜこれだけの活躍ができているのでしょうか。

(本記事は若宮さんの著書『独学のススメ』から一部を抜粋し、加筆修正したものです)

Nobodyは、「あかんで」

英語は、学生の頃から学んでいることの1つです。出会いがよかったのかもしれません。英語を初めて習ったのは、中学1年のとき。学校の英語の先生が教えてくださったのが最初です。

私が通っていたのは、兵庫県の田舎の中学校。英語のネイティブスピーカー、英語という言語の根底にある「考え方」を教えてくださったのです。

例えば、住所。日本語で住所を書くときは、◯◯県◯◯市◯◯町◯丁目◯番地、そして氏名という順番です。でも、先生は「アメリカやったら、まず氏名を書く。それから、◯丁目◯番地、◯町、〇市、◯県、最後に国名や。個人名が一番上にどんときて、しかも名字やなくて、ファーストネームが先にくる。とにかく個人が基本になっているのが、西洋人のものの考え方なんや」とおっしゃいました。これは確かに、日本とは全然違います。

だからこそ、英語はまず主語が最初にくる。“I am” “I have” と、「私は〜」「私が〜」と誰が主体なのかいってしまう。主語から始めないと、文章が成り立たないのです。「ぼんやりとした想いを伝えようとする、源氏物語の世界とはちゃうんや」と先生は教えてくださったのです。曖昧な日本語とは違うんですね。

“Nobody” から始まる文、なんていうのも西洋的だとおっしゃっていました。いきなり頭で「あかんで」といってしまう。「誰も◯◯でない」「◯◯なひとは誰もいない」と否定の文だということをガツンといって、そこから「何が」なのかを説明していく。

日本語は、文の最後にきてから「ございます」なのか「ございません」なのかがわかるようになっていますよね。これも英語と日本語における、考え方の明確な違いが表れています。

この先生は、英語をスラスラ話せる人ではなかったけれど、「外国語を教える」ということの本質がわかっておられたのだと思います。授業はとってもおもしろかった。だから私は今でも外国語を学ぶのが好きですし、そのときに習ったことを今でもよく覚えています。

英語、実は得意じゃありません!

英語は長年独学で学んでいるものの、正直なところまったく上達していません。

勉強としての英語はまあまあ得意で、英検で準1級をとったりもしました。それでも、ある時期、月1回のペースで英語を習っていた先生からは、「なぜ若宮さんに英検準1級がとれたのかは謎です。おそらく試験官が、下手なのにまったく臆することがない若宮さんの姿にショックを受け、採点するのを忘れたのではないでしょうか」というメールをいただきました。それくらい、その教室では「英語ができない人」と見なされていたのです。

私は、海外のカンファレンス(大きな会議)に登壇して英語で講演したり、海外旅行によく行ったりしていることから、英語がペラペラだと思われていることがあります。でも、全然ダメなんです。日常会話もできるかどうか、あやしいくらい。実際に私が英語でやりとりするところを聞いたらびっくりすると思います。

それでもいいんです。不完全でも人前でやってみる。それが、上達への道だと信じているからです。まさに、「英語は度胸」です。

グーグル翻訳でいいじゃないですか

さらに、最近は便利なサービスがあるんですよ。それは、グーグル翻訳などコンピューターの翻訳。例えばグーグル翻訳のサイトの入力欄に日本語を入れると、隣に英語の翻訳文を表示してくれるんです。「ドラえもん」の「ひみつ道具」が現実化したようで、本当に便利です。英語だけでなく、ドイツ語、フランス語、イタリア語、中国語、韓国語など、100以上もの言語に対応しています。

私はアメリカのテレビ局から「高齢のアプリ開発者を取材したい」と問い合わせがきたときも、グーグル翻訳で乗り切りました。送られてきた質問表の文章を全部コピーして、グーグル翻訳の入力欄に貼り付けたんです。それを読んで日本語で回答文を書き、またグーグル翻訳にコピーして貼り付ける。

今度は、「日本語から英語へ」という翻訳をするのです。翻訳された英語をそのままメールで送りました。それが、30分後には世界中に配信されていたというのだから、驚きです。このニュースがきっかけとなり、私はアップル社の世界的な会議に招待されました。本当にグーグル翻訳さまさまです。

グーグル翻訳を使ったことがある人は、このエピソードを聞いてぎょっとするかもしれません。

「え、あんなつたない文章をメディアに送ったの?」と。

確かに、グーグル翻訳は文章を直訳してくれるだけなので、ニュアンスが伝わらない、少し意味が違う、といったことも起こりうると思います。

でも、テレビ局に送った回答を、後日、英語のわかる友人にみてもらったところ、「9割は合っている。伝えたいことは伝わっている」とお墨付きをもらいました。主語と述語をはっきりさせた日本語を書く、など入力する際のコツはありますが、短い文章なら十分に使えるレベルなんです。

しかも、コンピューター翻訳の精度はどんどん進歩しています。音声を流すだけでマイクで拾って文章化し、それを翻訳するなんていう機能もできてきています。それってもう、同時通訳機ですよね。

とにかく、人工知能は絶えず学習しています。しかも、ものすごい勢いで。とてもじゃないけれど、人間はかないっこないです。人工知能君が得意なことは、人工知能君に頼みましょう。

「英語で対応なんかできない!」とチャンスをふいにするくらいなら、つたない翻訳であったとしても、やってみるほうが何倍も有益です。

亀の甲より年の功。想像力で乗り越えちゃえ

ちゃんとした単語、文法が使えなくたって、海外旅行は何とかなります。初めてフランスに行ったとき、パリのホテルでなかなか朝食がこないということがありました。当時のホテルは、食堂ではなくルームサービスが主流だったんです。

私はとりあえずフロントに「アロー」と電話をかけました。朝ご飯はフランス語で「Petit déjeuner」ということは知っていたので、電話口の相手に「私のPetit déjeunerがnot yet comeなのよっ!」と訴えたのです。もう、日本語、フランス語、英語がごちゃまぜです。それでも、5分後には朝食がきました。ちゃんと通じたんですね。

ホテルのレセプションの立場になってみれば、朝、宿泊客から電話があって、「Petit déjeunerがどうのこうの」といっていれば、それはルームサービスの朝食がこないという訴えにほぼ間違いない。これは、語学というより想像力の問題ですね。

単語が聞き取れれば、「このシチュエーションで、この人が、◯◯という単語を使っているということは、きっと◯◯だということを言っているに違いない」と推測することができます。

例えば空港で、自分の乗る飛行機の便名と、「1hour」という単語が聞こえたとする。それはたいてい「出発が1時間遅れる」というお知らせでしょう。だって、出発が1時間早まるなんてことがありますか? 遅延は何度もあれど、1時間もの出発の繰り上げなんて私、体験したことがありません。

もし繰り上げならば、相当異例の事態なのでもっといろいろなアナウンスがあるはず。そう考えていくと、正解にたどり着くことができます。この想像力を鍛えると、海外旅行でも意外と何とかなるのです。

とにかく大事なことは、かっこつけないこと。海外に何度も行っていると、日本人は英語に対する独特のメンタリティーがあると感じます。なにしろ、そばに日本人がいるだけで、途端に英語がしゃべれなくなってしまうのだから。眼の前の相手よりも、まわりの日本人がどう思うかが気になってしまうのですね。

きっとその人も、日本人がいない場所で、ホテルでチェックインをしなくちゃいけない状況になったら、どんなにめちゃくちゃでも英語を話そうとするはずです。下手でも、ここで英語を使わないと今夜は野宿しなくてはならないわけですから。

でも、日本人も周りにいるパーティーだと、だんまりを決め込んでしまう。日本人が複数人いると、日本人とばかりしゃべるというのも、よくない慣習です。

この恥の気持ちはどこからきているのでしょう。こうした恥の意識が強いことは、日本という国にとってもマイナスだと感じます。海外にいる日本人が積極的に英語でコミュニケーションすれば、日本のプレゼンスはもっと上がるはず。誰もかっこ悪いなんて思ってないですよ。

なお、ネイティブに近い帰国子女も日本人には敬遠されることがあるそうです。「キザなやつだ」「変な発音」とかえってバカにされた経験があるという話をよく聞きます。これは「みなさん、ご一緒に」の国では、よくも悪くもひとさまと違ったことをしてはいけない、ということなのでしょう。「なにか言われても平気。自分なりにやるからいいわ」と開き直るしかないですね。

「大阪のおっちゃん」の見事な…日本語? 英語?

ここで参考になるのが、大阪の人のメンタリティーです。以前、オーストラリアのシドニーのお土産屋さんに行ったら、先客に典型的な「大阪のおっちゃん」がいました。

彼はまず「ハウマネー?」と値段を聞きました。すると、店員が「12ドル」と答える。そうしたら、「もっとチープ!」と大声で値切り始めました。「もっと」が日本語だなんて細かいことは気にしない。それでも、ちゃんと値切り交渉ができているんです。

この様子を見て「英語を学ぶ日本人に足りないものが、大阪の人にはある……!」と思いました。単語や文法がわからなくても、伝えたいことを一生懸命大きな声でいう。その姿勢がなにより大事だからです。

考えてみると、大阪の人は日本でもよく商品を値切っています。百貨店だろうと、家電量販店だろうと、とりあえず値切ってみる。安くなったら儲けもん。これはきっと、大阪が商売で栄えた商人の町であることからきているのでしょうね。私も出身が兵庫県なので、こうした大阪の感じはよくわかります。

そしてこの「大阪人」の特徴は、今や世界中で活躍している中国人とも通じるところがあります。せっかちなところやはっきりものを言うところも、似ています。


大阪の人は外国の人から見ると、他の地域の日本人よりも、比較的声が大きく、身振り手振りが激しく、人懐っこいと感じられるようです。この性質ってすごく英語を話すのに向いていますよね。またお笑いの文化があるせいか、男女問わずポンポン話す人が多いのも大阪の人の特徴。発話量が多いのは、外国語を習得する際に大事なことです。英語を学ぶときは、身近な大阪の人を見習ってみてはいかがでしょうか。

いくら熱心に外国語の勉強をしていても、家で「メシ、フロ、寝る」しか言わない人が英語になったら急に雄弁になるなんて考えられません。

また、「アレはどこへいったかな」「ああ、コレですね」「ソレソレ」というような「身内限定会話」だけで過ごしておられる方がどんなに外国語を熱心に勉強しても限界があると思います。まずは、日本語で「自分の言いたいこと」を、正しく、簡潔に、相手の気持ちを傷つけないように、話せるようになることが大事だと思います。