2019年3月のドバイターフで海外G気鮟蘋覇したアーモンドアイ(写真:REX/アフロ)

新元号「令和」となって中央競馬は春のG汽掘璽坤鵑魴泙┐討い襦クラシックシーズンは佳境に入った。5月26日には令和初となる競馬の祭典G蟻86回日本ダービー(2400m芝)が東京競馬場で行われる。新しい元号の初代ダービー馬はどの馬になるのだろうか。


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平成の最後に我々は意外なニュースに直面した。今季初戦のG汽疋丱ぅ拭璽佞魍攵,軍こG気鮟蘋覇したアーモンドアイ(牝4、美浦・国枝栄厩舎)が4月17日にシルク・ホースクラブのHPを通じてフランスのG騎旋門賞(10月6日)への登録を見送ることを明らかにしたのだ。

JRAは5月16日、凱旋門賞に日本馬7頭が登録したことを発表した。そこにはもちろんアーモンドアイの名前はなかった。

凱旋門賞には史上11頭目の無敗のダービー制覇、7頭目の無敗の2冠制覇を狙うサートゥルナーリア(牡3、栗東・角居勝彦厩舎)、昨年の菊花賞と今年の天皇賞・春の3000m以上のG気鯱⊂,靴織侫エールマン(牡4、美浦・手塚貴久厩舎)、昨年の有馬記念を制したブラストワンピース(牡4、美浦・大竹正博厩舎)、一昨年の菊花賞馬で昨年のジャパンC2着馬キセキ(牡5、栗東・角居勝彦厩舎)のG鞠4頭とリオンリオン(牡3、栗東・松永幹夫厩舎)、ロジャーバローズ(牡3、栗東・角居勝彦厩舎)、ノーワン(牝3、栗東・笹田和秀厩舎)が登録した。

アーモンドアイの今季初戦は世界中から注目を集めた

アーモンドアイは昨年、桜花賞、オークス、秋華賞を次元の違う強さで制して史上5頭目の3冠牝馬となり、ジャパンCも驚異的な世界レコードで圧勝した。最優秀3歳牝馬に満票で選出され、年度代表馬も満票で選ばれた。今季初戦に陣営が選んだのは3月30日にドバイ・メイダン競馬場で行われたG汽疋丱ぅ拭璽奸1800m芝)。

日本国内だけでなく、アーモンドアイが世界でベールを脱ぐレースとして海外からも大きな注目を集めた。海外メディアからの取材攻勢にも国枝栄調教師(63)は流暢な英語を駆使してウイットに富んだ受け答えで余裕の表情を見せた。クリストフ・ルメール騎手(39)も「ボウマンのウィンクス、スミスのゼニヤッタのように、自分にとってアーモンドアイは騎手人生で特別な馬になる」と語った。

ジャパンC後からさらにたくましさを増したアーモンドアイはノーザンファーム天栄でじっくり調整され、2月22日に美浦トレセンに戻った。遠征に備えて馬体を増やしたのは航空機輸送や現地での環境の変化で馬体減があった時のためのリスク管理だった。美浦の輸出検疫でナーバスになって馬体を減らしたが、輸送を克服するとドバイ入り後は持ち直し馬体も回復。広い馬房で伸び伸びと過ごし、湿気の少ない気候も合った。

レースは前半少し行きたがったものの、いつでもスパートできる外めの位置につけると、直線堂々と抜け出した。6カ国から参戦した12頭を問題にせず、一昨年の覇者ヴィブロスを余裕十分に突き放した。最後に思ったほど差が開かなかったのは気を抜いたためか。とはいえ完璧なレース運びで世界デビューを飾った。レース後、国枝調教師とルメール騎手からは凱旋門賞挑戦を意識する発言が飛び出した。海外メディアも3連覇を狙うエネイブルの強力なライバルとして報じた。

ところが、アーモンドアイの帰国後にムードが変わる。遠征へ向けて陣営のトーンが急に下がった。「アーモンドアイは凱旋門賞に行かないらしい」。そんな噂が駆けめぐった。それは本当だった。そして、4月17日の発表につながる。いささか唐突なタイミングの発表となったのは、今年はゴールデンウイークが10連休となったため事務的な問題で凱旋門賞の登録の実質的な締め切りが4月18日だったからだ。

アーモンドアイが所属するシルク・ホースクラブはHPの会員向けのページで登録を見送ったことを報告した。「アーモンドアイを応援してくださる皆様」へ送られたメッセージは「凱旋門賞登録の見送りについて」だった。

この文書を引用すると「ドバイ遠征における新たな環境への対応・レース後の様子・長距離輸送での体調の変化などを精査した結果、凱旋門賞への挑戦はこれまでの本馬の経験上、コース・距離・斤量、そして初めての環境と全てがタフな条件となることから、環境適応力・レースそのものの本馬への負荷・ レース後のケア環境・長距離輸送などの条件を鑑みますと『ベストのレース選択ではない』、 との結論に至りました」と回避の理由を説明している。

総合的に考えたうえで登録を見送った

この発表を受けて国枝調教師が取材に応じた。「レース後の状況が心配。きっちりケアする必要がある」。オークス後から毎レース後に熱中症のような症状が見られた。レースで全力を出し切るだけでなく、汗をかきにくいために熱がこもる。足元がふらついたり呼吸も乱れる。ドバイターフの後にもあった。施設やシステムの違う海外で日本と同じようにレース後のケアが施せるかが難しいという判断だ。続いて国枝調教師は「負担重量や欧州の特殊な馬場など総合的に考えての決断」と語った。

凱旋門賞で4歳以上の牝馬は58キロを背負う。国内では背負うことのない厳しい斤量だ。ジャパンCで東京2400m芝2分20秒6の驚異的な世界レコードをマークしたアーモンドアイは軽い高速馬場が向く。フランスのロンシャン競馬場の重い芝への適性も考慮された。

国枝調教師はドバイターフ後に凱旋門賞への前哨戦として8月のイギリスのヨーク競馬場で行われるヨークシャーオークスへの参戦プランを語っていたが、欧州の芝を経験させて本番に向かうために長期滞在しなければならないというリスクも回避した。タフな馬場では現役時代に香港スプリントを連覇したロードカナロアの産駒が2400mの底力勝負に向いているのか疑問視する部分もある。

秋の海外遠征の可能性は残っているが、日本競馬界の悲願でもある凱旋門賞制覇へ向けて、挑戦する機会自体がなくなってしまった。筆者の素直な感想としては残念である。エネイブルとの対決を見たかった。それはファンの皆さんと同様の視点で考えれば当然の思いだろう。

結局、6月2日に東京競馬場で行われるG軌妥諜念(1600m芝)への参戦が決まった。当初はここへ香港最強馬で世界ランク1位のビューティージェネレーションの参戦があると見られており、日本で夢の対決が実現するかと思われたが、ビューティージェネレーションの回避で実現しなくなった。大きな夢を膨らませたファンにとっては二重の拍子抜けになったというのが率直な印象だ。

アーモンドアイの凱旋門賞回避には生産者であるノーザンファームの意向が大きく働いている。牝馬は繁殖生活を送ったとしても産駒の頭数は限られる。例えば凱旋門賞を勝ったとしてもアーモンドアイが送り出す子供に高い値段がつくだけだ。ところが、牡馬が凱旋門賞を勝てば種牡馬価値がグンと跳ね上がる。ノーザンファームの生産馬でサートゥルナーリア、フィエールマン、ブラストワンピースら牡馬が凱旋門賞に登録しているのはそうした意図もあるからだろう。牡馬が挑戦するメリットは大きい。

ただ、種牡馬価値が上がっても、その需要が国内の他の生産者にあるのかどうかという話は別問題だ。種付け料が飛躍的に上がっても、それはノーザンファーム自身の繁殖馬に種付けするケースが多いわけで、欧州のクールモアのように種付け料が主な収入源なら問題ないが、ノーザンファームにとっては種付け料の上昇は生産コストの上昇にもつながるために痛しかゆしの部分もあるはずだ。

ノーザンファームは本気で凱旋門賞を狙っている

話が少しそれたが、ノーザンファームの戦略ではアーモンドアイよりもサートゥルナーリア、フィエールマン、ブラストワンピースらが馬場適性などを含めて凱旋門賞に合うという判断をしたことになる。これは尊重するしかない。サートゥルナーリアは日本ダービーの結果次第で凱旋門賞挑戦が具体化するのだろう。

フィエールマンは前哨戦として洋芝の札幌競馬場で8月18日に行われるG胸ニ攀念(2000m芝)への参戦を予定している。ブラストワンピースはダービー当日の5月26日に東京競馬場で行われるハンデキャップレースのG玉楾記念(2500m芝)に参戦する。凱旋門賞で59・5キロを背負うため、敢えて59キロの重いハンデを本番へ向けて経験させるというテーマで出走する。ノーザンファームは本気で凱旋門賞を狙うために用意周到に準備を始めている。

筆者は以前、当コラムで「日本馬は凱旋門賞にこだわるな」というテーマで記したことがある。「マカヒキ14着、日本は凱旋門賞にこだわるな」(2016年10月3日配信)。馬場適性なども含めた適材適所でレースを選択するべきだ。凱旋門賞だけが海外のレースではない。

その意味では牝系に欧州のスタミナ血統を持つディープインパクト産駒のフィエールマンや、キングジョージを圧勝したハービンジャー産駒のブラストワンピースがロンシャンの馬場に向くというイメージは理にかなった選択だと思う。

ただ、何かすっきりしないもやもやとした気持ちがある。おそらくファンもそうだろう。凱旋門賞と同じ2400mのジャパンCで圧倒的な強さで世界レコードをマークした馬がなぜ挑戦しないのか。単純にその疑問がある。

結果的にそこへの明確な理由がはっきりとわからない。それはなぜか。説明不足だ。アーモンドアイの凱旋門賞登録見送りについて公式な発表がシルク・ホースクラブのHPだけだったということが影響している。やはり関係者が記者会見をすべきだったのではないか。

凱旋門賞の見送りを決めたのはドバイターフの前?

実は取材を重ねていくと、アーモンドアイが凱旋門賞に行かないということはドバイターフの前から既定路線だったらしいという説にぶつかる。ノーザンファームやシルクレーシングの関係者がきちんと記者会見してくれれば、我々も公式にアーモンドアイがいつ凱旋門賞の登録見送りを決めたのかということを聞くことができた。少なくともプレスリリースをしてほしかったと思う。

昨今、クラブ法人の所有馬の動向が「○○のホームページで明らかになった」というニュースを目にすることが多い。やはり会員向けの情報と並行して一般のファンにもわかるようにプレスリリースをしてほしいと思う。アーモンドアイの動向は会員だけではなく、競馬ファンが最も関心を持って見ているからだ。ファンに向けての説明責任もあったのではないだろうか。

ドバイターフ前に凱旋門賞に行かないということを決めていたのなら、ドバイターフ前後に国枝調教師とルメール騎手が国内外のメディアに凱旋門賞に参戦するという方向で答えていたのは気の毒という以外にない。早い段階で知らされていれば違った対応があったはずだ。

凱旋門賞登録見送りの後で国枝調教師とじっくりお話しさせていただく機会があった。国枝調教師はドバイでの楽しい思い出を語ってくれた。追い切りでルメール騎手のヘルメットにカメラを装着して追い切りの動画を撮影したこと、エネイブルのゴスデン調教師と写真撮影したことなどを満面に笑みを浮かべて説明してくれた。

「アーモンドアイがいなければドバイにも行けなかった。国内ではできないような経験もいろいろな出会いもすべてアーモンドアイのおかげ。アーモンドアイはみんなを幸せにする馬だよ」。

ただ、筆者は以前にも記したが国枝調教師の凱旋門賞に対する特別な思いも聞いている。ポツリと言った「オレもあと7年で調教師生活も終わりだよ。もうこんな馬には二度と巡り合えないよな……」との言葉は本音だろう。国枝調教師は改めて別の馬で凱旋門賞挑戦を目指すしかない。

ルメール騎手は違う馬で母国の凱旋門賞に騎乗する可能性が十分ある。それでも、天皇賞・春をフィエールマンで勝った後、レース後に凱旋門賞への可能性を聞かれた時に思わず「残念ながらアーモンドアイは回避しました」と語った。この「残念ながら」という言葉にルメール騎手の思いが込められていると筆者は考える。

アーモンドアイの凱旋門賞登録見送りに対してファンの反響は大きかった。強い馬の挑戦を見たい。それはファンの夢だろう。野球の二刀流で活躍する大谷翔平が世界最高峰のメジャーリーグでも二刀流で挑戦した。その姿にファンは夢を託した。かつてのイチローや松井秀喜、中田英寿、さらに今の大坂なおみや錦織圭、松山英樹らが世界のトップに挑む姿に心を揺さぶられた。

アーモンドアイは文句なく日本最強馬だ。だが、日本競馬の夢である凱旋門賞挑戦の機会はなくなってしまった。日本の競馬はファンの馬券の売り上げで成り立っている。数百億というビジネスに成長したノーザンファームにさまざまな事情があるのは承知のうえで、ファンの夢をかなえるためにも挑戦の機会を与えてほしかったと思う。

「アスリートファースト」の観点から見てもアーモンドアイがエネイブルに挑む機会がなかったことは個人的に残念である。今回の発表の経緯も含めてアーモンドアイという馬が競馬ファンにとって大きな存在だったという認識が少し欠けていたのではないか。陣営の意思疎通ができていなかったのではないか。筆者にはそんな気がしてならない。

令和初のダービーを制するのは?

令和初のダービーは凱旋門賞挑戦へ向けてサートゥルナーリアがどんな競馬を見せるのかが焦点になるだろう。旋風を巻き起こすオーストラリアのダミアン・レーン騎手(25)が騎乗停止中のルメール騎手に代わってサートゥルナーリアに騎乗する。その手綱さばきも見ものだ。

アーモンドアイはドバイターフ後もノーザンファーム天栄で乗り込まれ、5月10日に美浦トレセンに戻って順調に調整されている。安田記念には騎乗停止が明けるルメール騎手とのコンビで挑む。こちらは同世代の牡馬最強ダノンプレミアム(牡4、栗東・中内田充正厩舎)との初対決が楽しみだ。

今後はジェンティルドンナやウオッカのG議婿7勝を超える牝馬最多、史上最多記録への挑戦が焦点になるだろう。春競馬のハイライトが迫っている。