「プロメア」で劇場アニメーションに初挑戦!脚本家・中島かずきに迫る!

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演劇に漫画やロックを融合させ、独自のエンターテイメントを築く「劇団☆新感線」の座付作家として知られる脚本家・中島かずき。かねてからアニメーション作品とも深い関わりがあり、アニメーターで監督の今石洋之とタッグを組んでTVアニメ「天元突破グレンラガン」(2007)、「キルラキル」(2013)を発表。国内はもちろん、海外でも大きな注目を集めた。そして今回、3回目のタッグとなる「プロメア」で劇場アニメーションに初挑戦。アイデア発想の意外な原点やヒットクリエイターとして活躍し続けている秘密について、中島が明かしてくれた。

今回は難産だったと明かす中島「当初『ヒックとドラゴン』のようなジュブナイル作品をやろうとスタートしましたが、紆余曲折あってこの世界観にたどりつきました」

映画「プロメア」は、世界大炎上により半分が焼失した世界を舞台に、火消し魂を持つ消防隊「バーニングレスキュー」の新人隊員・ガロと炎を操る人種の中でも攻撃的な「マッドバーニッシュ」のリーダー・リオの熱き戦いを描いた作品。

ガロを松山ケンイチ、リオを早乙女太一、ガロの上司・クレイを堺雅人とボイスキャストには実力派俳優陣が勢ぞろい。中島の描く世界観や独特のセリフ回しを表現できるのはこの3人しかいないという理由でキャスティングされた。

■ アニメ、舞台と数多くの脚本を執筆。着想の原点は意外なところにあった!

ープロジェクトは2017年の夏頃に発表でしたね。

「キルラキル」が終わって半年ぐらいしてからプロジェクトとして進めていたので、形になるまで時間がかかってしまいました。

ー本作は大炎上が起きて半分が消失した世界が舞台ですが、設定やアイデアはどこから発想されたんですか?

一番大きいのは締め切りです(笑)。ここまでに思いつかなければってなると、人間なんとかするものなんですよ。

ー締め切りに追われるタイプとか?

予定通りに提出する方だと思いますが、自分で設定している締め切りが厳しいみたいで。自分で決めたものに対して自分が遅れるのが嫌なんです。

ー数多くの作品を手掛けられていますし、やはり自己管理はしっかりされてるんですね。

自分のためなんですよ。遅れて誰かに迷惑がかかると思うと胃が痛くなるんで(笑)

ー締め切りが発想の原点とは意外でした(笑)

あとは今石さんの無茶振りに理屈をつけるみたいなところから発想しますね。「天元突破グレンラガン」の時も今石さんにテーマを聞いたら「ドリル」と言われて、「ロボットアニメのテーマがドリル?」って(笑)。本当に悩んだんですけど、ドリルだったら螺旋だなって思って、そこから遺伝子と宇宙の進化の話を思いついたんです。

■ 脚本執筆は「注文住宅」スタイル

ー私もそうだったんですが、脚本家としての中島さんといえば、劇団☆新感線のイメージが強いように思えます。しかし、過去にもアニメーション作品を多く手掛けられていて、最近では「ニンジャバットマン」の脚本も執筆されています。舞台とアニメで描き方は変えているんでしょうか?

自分の中であまり差はなくて、舞台もアニメも回路を変えて書いているつもりはありません。劇団☆新感線の場合はキャストが決まってからの当て書きなんですが、アニメになるとどんな物語が面白いかを今石さんと相談するところが始まりなので。基本は注文住宅なんです(笑)

ー注文住宅ですか(笑)?

オーダーされたお題に対して、自分の個性をのせるんです。オーダーしてもらった注文がこれくらい膨らませますって返すのが好きなんで。逆にゼロからは苦手なんですよね。

■ 第一希望だったボイスキャストが集結!

ーボイスキャストの松山さん、早乙女さん、堺さんは劇団☆新感線の舞台への出演経験がありますね。中島さんがキャスティングの第一候補として挙げた3人が揃ったわけですが、この狙いは?

少し前に僕の脚本で松山君と(早乙女)太一君とは「ふたがしら」というドラマをやったんですが、そこで陽気な松山君、クールな太一君を書いたんです。本作のガロとリオの関係性も書いてる時から同じように感じていて。クレイは書いている時から堺君がやってくれたら面白いなって思っていました。

ー声が入るとそれぞれのキャラクターの熱量を感じました。

僕のセリフにはクセがあるので、自分のセリフを言ったことがある人の方が演じてくれた方がいいのではと思いました。一緒にお仕事をさせてもらった俳優さんの方が僕の文法や語り口、リズムみたいなものを掴むのが早いだろうなと。

ー特に松山さんは声が完全にマッチしていましたね。

「髑髏城の七人 Season風」で捨之介を演じてくれた直後のアフレコだったんです。松山君から「捨之介っぽいですけど、あの感じですか?」って言われて「そうです」って言ったら、ガロにマッチする声を出してくれました。

ー少ないデスカッションだけでここまでマッチする声になったとは。アフレコ現場にも立ち会われて、手応えを感じたと聞きました。

松山君もアフレコの経験はあるけど回数をやっているわけではないので「どうかな?」と思ってたんですけど、わかってくれましたね。僕だけじゃなく、ブースにいた全員が「お!」っていう感じで、ホッとしました。

■ 「想定していなかったテーマを自分風に変えると、自分の幅も広がる」

ー今後、手掛けてみたいテーマをお聞きしたいのですが、やはり発注次第ですか?(笑)

昔、あるプロデューサーからも「やりたいように書いて」って言われたんですけど、2ヶ月ぐらい悩んで「できないので何かテーマください」って言いました(笑)

ーでも、そのスタイルが中島さんのクリエイターとしての気質を感じるところでもあります。

自分で考えると興味のあるテーマだけになるので。想定していなかったテーマがくると、それを自分風に変える。そうすると自分の幅も広がるんですよね。この間も稲垣吾郎さんの「No.9 ―不滅の旋律―」というベートーヴェンの舞台を書きましたけど、ベートーヴェンも自分の中に全然なかった。でも、調べていくうちに自分ならこんな物語が提示できるとか考えていくのが新鮮で。その作業が、書き手として自分を長持ちさせてくれているんだと思います。

ー中島さんの脚本は、ちゃんと中島さんの色が出ていますよね。

脚本になると僕の色がすごく出るみたいで。僕がやりたいテーマだろうとよく思わているんですけど、実は全然違うんです。アレンジがキツイだけなんです(笑)

映画「プロメア」は、TOHOシネマズ梅田・TOHOシネマズなんばほかにて全国公開中。(関西ウォーカー・山根翼)