■会社にプラスか否かは、直感で判断できる

依頼ごとには、直接僕に言ってくるもの以外にも、広報・秘書経由で来るものがありますが、誰かが忖度して僕のところまで届いていないケースもあります。カルビー時代は講演の依頼を相当断っていたようです。

RIZAPグループ取締役 松本 晃氏

ただ、私は依頼されたことは基本的に断らない主義です。僕に「会いたい」と言う方がいれば、時間が許す限り、会うようにもしています。

しかし、売り込みの相談には応じません。僕はこの二十数年間、自分の役職、立場を使って物を買ったことが1度もありません。ところが、私のところに来たら物が売れるんじゃないかと考えている人が大勢おられます。とにかくあらゆることが持ち込まれます。

別に、買うことじたいが不愉快だから断るのではなくて、1度やると接待をはじめ、様々な面倒なことがついてくるのが嫌なんですよ。僕は物を買う権限が自分にはない、と決めていますので、そういう依頼があったときは、担当者や適任者を紹介するようにしています。その際、私が紹介したからといってオブリゲーション(責務)を感じる必要はないし、報告も要らないと伝えています。

依頼や相談を受ける際の判断基準は、はっきりしています。それが会社にとってプラスになるかどうか、それだけです。仕事をしている間に人と会うわけですから、プラスがあると判断すればどんな人にでもお会いしますよ。そのあたりの判断は直感でできます。

ただ、会ってみないとわからないような件に関しては、頭から断るということは基本的にしないですね。もっとも、ちょっとしたテクニックは使います。いろんなお客様の来訪を一日にまとめて、朝から晩まで30分、1時間ごとにこなしていくんです。ポツポツと五月雨式では困るので。こちらから出かけることも多いですよ。そのほうが相手のことがよくわかって、勉強になりますね。

僕は勝ち馬にしか乗らない。骨折したロバに乗ることはしません。経営の依頼でも、そのときに考えるのは勝ち目があるかどうか。つまり、僕がその会社の経営を引き受けて、うまくいくかどうかです。今まで手がけた会社の大部分は、その時点ではあまり良くない。けれど、可能性は十分ある。自分がやったらうまくいくという自信のある会社だけでした。

カルビーの会長兼CEOを引き受けたときもそうです。業績はずっと横ばいで、デフレ市場の中でこれから人口が減り、子どもが減るとなれば一見、成長の目はない。しかし、もともと商品力はある会社です。経営戦略に問題があったので、そこを何とかすれば伸び代はあると思い、引き受けました。

ただ、ライザップの場合は人でした。社長の瀬戸健さんは礼儀正しく、爽やかな人柄。しかもまだ40歳なのに、あそこまで会社を大きくした。そこに惹かれました。経営トップの人柄を理由に引き受けたのは、僕としては初めてのケースです。

ともあれ、人からものを頼まれたときは、まず引き受けることを前提にし、そこで自分の力をどう発揮すれば、会社と相手の役に立てるかを考えるのが僕の流儀です。

■自分と会うメリットは何かを、いつも考える

先に売り込みには応じないと言いましたが、僕は若いころは、ものを売るために、相手先の会社の偉い人に会ってもらおうと必死でした。大学院を出て、商社(伊藤忠商事)に勤めていたころです。

言葉遣いや目上の人を敬うなど、マナーに気をつけるのは当然ですが、それにもまして大切にしていたのは、商品よりも自分を売り込むことです。

偉い人に会うときは、手土産を持っていきますが、それは物ではありません。一番の手土産は情報です。相手先の会社のことはもちろん、その業界の動静から社長の趣味や家族のことまで、とにかく事前にいろいろと勉強して訪ねました。

商品の話など、しても聞いてもらえませんからね。共通の話題が持てて「こいつはおもしろい」と思われれば「また来なさい」と言ってもらえます。「○○に関心があるので教えてください」とお願いするのもいいですね。長く、ひとつの業界で経験を積んだ方ほど、人にものを教えるのが好きですから。

「人は買いたい物を買うんじゃない、買いたい人から買うんだ」と、今でも僕はよく言います。相手にとって自分と会うメリットは何か、どうすれば相手を惹きつけることができるかを、いつも考えていましたね。

若いうちは手間暇をおしまず、いろいろなところへ出向き、たくさんの人と会うことが大切です。それで得た知識が、後にどれほど役に立つかは、計り知れないものがあります。

■引き受けたら、約束は必ず守る

ものを頼むにも、頼まれるにも、最も大事なのは「約束を必ず守る」こと。当たり前ですが、約束を守れない人は信用されません。

これも商社マン時代の話ですが、僕は「御社で必要なものは全部、私を通して買ってほしい。何でも買ってきます」と言って顧客をつくりました。そして、必ず約束を守りました。上司には「こんなの、うちで扱えるか!」とよく叱られましたけれども、あの経験があって、今の自分があると思っています。

■相手の時間を無駄にしてはいけない

それから、相手の時間を無駄にしてはいけない。これもビジネスパーソンの心得として大切です。ものを頼むということは、相手の貴重な時間を割いてもらうことです。お金の無駄は、稼いで取り返せますが、時間の無駄は取り返せません。

ですから、会って話すときも、まわりくどい前置きなどせず、単刀直入に何を求めているのかをはっきり示したほうがよいでしょう。依頼を受ける側も、相手を慮って中途半端な受け方をすると誤解を招くなど、後に禍根を残します。受けられるか否か、はっきり返答することが肝心です。

これも、若い世代の人たちによく言うのですが、会社は体育会であって、同好会ではありません。同好会は皆が楽しければそれでいいのですが、体育会には目標、目的があり、その達成が第一義です。言うまでもなく、会社にはお金を稼ぐという使命があります。ものを頼む、頼まれる、どちらの場合も、そのことをしっかりとわきまえていただきたいものです。

Q:依頼先と会うときの一番の手土産は?
A:情報です

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松本 晃(まつもと・あきら)
RIZAPグループ取締役
1947年、京都市生まれ。京都大学大学院修了。伊藤忠商事、ジョンソン・エンド・ジョンソン社長、最高顧問などを経て2009年カルビー会長兼CEO。18年よりRIZAPグループ代表取締役COO。19年1月に代表権を返上。

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(RIZAPグループ取締役 松本 晃 構成=高橋盛男 撮影=永井浩)