"映画『貞子』の主演は、5月31日(金)にファースト写真集『pinturita』(集英社)を発売する池田エライザ" ©2019「貞子」製作委員会

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映画『貞子』の主演は、5月31日(金)にファースト写真集『pinturita』(集英社)を発売する池田エライザ ©2019「貞子」製作委員会

怨霊・貞子(さだこ)といえば、呪いのビデオとか、テレビから飛び出してくるとか、とにかく強烈なホラー表現が記憶に残っている人も多いだろう。今月、この『リング』(98年)を撮った中田秀夫監督による新作『貞子』が公開される。ただ、最近の貞子って......「愛されキャラ」になってない!?

■「いい塩梅の怖さはやめようと思った」

ブツン! ザ――――。

何もしていないのに突然、テレビがつき、ビデオが再生される。砂嵐の画面は、しばらくすると、次々と脈絡がない不気味な映像に切り替わる。そして最後には朽ちた井戸が映し出され、その中から真っ白な衣装に身を包み、長い髪で顔を隠した女が這(は)い出てくる。女は、ゆっくりとこちらに向かってきて――――。

1998年公開の『リング』から21年。「呪いのビデオ」は一大ブームを呼んだ。そして、ビデオの中にいた女「山村貞子」は日本のホラー映画を象徴する存在になった。

4月23日発売の『ニューズウィーク日本版』が特集した「世界が尊敬する日本人100人」でも怨霊として史上初めて選出されるなど、貞子はその名を世界に轟(とどろ)かせている。

そして今年5月24日には、新作『貞子』が公開される。手がけるのは『リング』を撮った中田秀夫監督だ。平成を彩った恐怖のアイコンは、令和時代にどんな進化を遂げるのか、と期待したいところだが......今回、ちょっと(かなり?)失礼な質問を監督に投げてみた。

* * *

──今月12日、貞子が札幌ドームにて始球式を行ないました。このイベントは4度目で、2016年にも投げていましたよね。それだけじゃなく、映画『貞子』の公式ツイッターを見ると貞子が「ずんだシェイク」を飲んだり、お好み焼きを焼いていたりする。

なんというか、近年の貞子ってえたいの知れない不気味な怨霊というよりも、"愛されキャラ"になってしまっている気がするんですが......。

中田秀夫監督(以下、中田)そういう側面があるのは否定できないです(笑)。ただ今回、映画のプロモーションとして、動画サイト上で「貞子が(出身地の)大島に里帰りする」という動画が公開されていますよね。

──貞子が体育座りで海をボーッと眺めたり、地元住民とLINEのIDを交換したりする映像ですね。

中田 あれを見て、僕も楽しい気分になったし「貞子、カワイイな」って思いました。なので、あの貞子は"PR貞子"だと。映画の中の貞子とは別だと自然に思えたわけです。

──では、単刀直入にお聞きします。今回、中田監督が手がけた『貞子』は怖いんですか?

中田 怖くなければホラー映画じゃない。怖いに決まっているじゃないですか──が公式なお答え(笑)。でも、何が怖いと感じるかは、人それぞれです。だから、その点はお客さんに委ねます。ただ、『貞子』は真剣に、容赦なく怖い映画を目指しました。

──というと?

中田 ネタバレになってしまうので詳しくは言えないのですが、「ちょうどいい塩梅(あんばい)の怖さ」はやめよう、とにかくわかりやすく"怖さ"に振り切ろうということです。それこそ、言葉は悪いですが「子供がオシッコちびる」ぐらいに。

──ということは、『貞子』は低年齢向けの映画なんですか?

中田 明確に子供向け、というわけではありませんが、10代は意識しています。

ただ、それは昔から一緒。98年に『リング』が公開されたとき、僕は池袋や渋谷などの映画館の朝の回に行ったんです。そしたらそこには、大人だけでなく若いお客さんもたくさんいた。

すると、若い方たちが『リング』の上映中に何度も悲鳴を上げるんですよね。それをそばで聞くのが病みつきになっちゃって(笑)。

──ハハハハ。

中田 それ以降、悲鳴を聞くために映画館巡りをした。しかも僕はすごい悪い観客で、映画の途中から入っていくんですね。ちょうど怖いシーンのときに、おもむろに席に座る。そしたら女子高生から「ヒエッ」といった声が聞こえるんですよ。そのたびにいいぞ!となったり(笑)。

その当時、テレビもビデオも一家に一台ではなく、部屋がある子供ひとりにつき1セットみたいな時代だったから、『リング』が若い人たちに受けたのはそのタイミングの良さがあったのかも。

あとはやっぱり携帯。上映が終わると、彼女たちは友達に電話するんですよ。「今すごく怖い映画を見た」って。あれが効いていたと思います。


「いい塩梅の怖さはやめようと思った」と語る『貞子』の中田秀夫監督

■「一切、笑えなくていいという気持ちで撮った」

──若い観客を怖がらせることを大事にしているんですね。

中田 今回の『貞子』は「リング」シリーズを見たことがないお客さんもたくさんいるはずだと考えました。なのであえて「井戸から出てきた貞子が、テレビの中から現実世界に乗り出してくる」というシーンはもう一度入れた。

──『リング』と貞子、さらには「ジャパニーズホラー」を一躍世界に知らしめた名シーンです。

中田 僕自身、実はそんなにホラーが得意というわけではないのですが、なぜかやらせていただくことが多い。そのなかで近年は「いつもと違うことをやろう」という意識で映画づくりをしていた。

でも、『リング』における恐怖の表現は、たとえ20年以上も前のモノであっても、今の若いお客さんはきっと怖がってくれるはずだという自負がありました。

──ただ、近年の貞子が登場する映画って、『呪怨(じゅおん)』シリーズの伽椰子(かやこ)とバトルする『貞子VS伽椰子』(2016年公開)をはじめとして、カラッと笑える要素が多分に入っているような気がします。中田監督がつくる「Jホラー」的なジットリ怖い感じからはだいぶ離れてしまったような......。

中田 僕はそういう笑えるホラーも好きなんですよ。ただ、ある意味でこれは劣等感でもあるんですが、自分ではつくれない。だから、『貞子』はもう割り切って、「一切、笑えなくていいです」という気持ちで撮りました。

──なるほど。

中田 とはいえ、僕は怖さの表現だけを追い求めればいい、と開き直れるタイプでもないんですよね。映画『貞子』に登場するのは親に恵まれなかった子供たちです。

貞子もそうだし、池田エライザさんが演じたヒロインもそう。登場人物たちの"魂の交わし合い"がないと、たとえ怖さを追求するホラーであっても、ダメだという思いがあるんです。

■中田秀夫(なかた・ひでお)
1961年生まれ、岡山県出身。テレビドラマ『本当にあった怖い話』(1992年)で監督デビュー。『女優霊』(96年)、『リング』(98年)、『リング2』(99年)、『仄暗い水の底から』(2002年)などで日本のホラー映画を牽引。『ザ・リング2』(05年)ではハリウッドデビューも果たす。監督作は『Lchange the WorLd』(08年)、『クロユリ団地』(13年)、『スマホを落としただけなのに』(18年)、『終わった人』(18年)、『殺人鬼を飼う女』(19年)など

■『貞子』5月24日(金)、全国ロードショー
原作:鈴木光司「タイド」(角川ホラー文庫)
出演:池田エライザ、塚本高史、清水尋也、佐藤仁美ほか
上映時間:99分

【NTRODUCITON】
見ると1週間後に呪い殺される「呪いのビデオ」の恐怖を描いた『リング』から約20年。中田秀夫監督が『ザ・リング2』以来、14年ぶりに同シリーズを手がける。本作では、誰もがスマホなどで写真や動画を撮影できるSNS時代にふさわしい「撮ったら呪われる」という新設定で、貞子が襲いかかる! 『リング』シリーズではおなじみとなる"例のシーン"はもちろん、過去作を知る人にとっても、サプライズとなる人物も登場。"恐怖の原点"をアップデートさせた一作となった!

【STORY】
心理カウンセラーの秋川茉優(池田エライザ)が働く総合病院に入院したひとりの少女(姫嶋ひめか)。彼女は1週間前に公営団地で起きた放火事件の犯人が生み育てた子供だった。そして少女の周辺で不気味な出来事が起こり始める。一方、茉優の弟・和真(清水尋也)はSNSに笑える動画を次々と投稿する動画クリエーターだが、低調なアクセス数に悩んでいた。そんな彼はある日、起死回生を狙い、放火があった団地に忍び込み心霊動画を撮ろうとうした。しかし、火災跡が残る部屋の中でカメラがとらえたのは、あの"貞子"だった......

撮影/五十嵐和博