LINEで告白し、別れるのが当たり前という若者たち。宅電時代と比べると恋愛がラクになっているかと思えば、さにあらず。イマドキの恋愛では、とくに男子たちがとても大変なんだそう。10代、20代の若者5人の座談会を通じて、恋人同士のSNS利用について驚きの実態が見えてきました。司会と解説は、若者の消費動向を追いかけているサイバーエージェント次世代研究所・所長の原田曜平さんです。

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座談会メンバー
Aさん 早稲田大学2年生。まだ恋愛をしたことがない。趣味は食べることとYouTubeを見ること。女性
Bさん 地方の大学4年生。現在彼氏はいないが、片思い中。趣味は音楽鑑賞と、SNSで美容アカウントをチェックすること。女性
Cさん 青山学院大学4年生。交際4年目になる彼氏がいる。趣味はネットフリックスで韓国ドラマやアニメを観ること。女性
Dくん 慶應大学大学院1年生。現在彼女はいない。大学で、オールラウンドサークルと野球サークルに所属。趣味は映画鑑賞。男性
Eさん 高校3年生。彼氏あり。企業のインターンなどに積極的に参加中。女性

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■恋人にSNS投稿を強要する女子たち

【原田】今、若者は恋愛離れをしていると言われています。明治安田総合研究所の調査によると、未婚者の20代の男性の78%、女性の67%に恋人がいない(図表1)。前回も昔に比べて恋愛がしにくい時代になっていることについてたくさん皆で話したけど、話を続けてみましょうか。

【Cさん】私は恋人間のSNSのやり取りが若者の恋愛離れにつながっていると思います。SNSがない時代なら電話やメールでデートに誘ってデートして終わりじゃないですか。でも今はデートが終われば終わりなわけじゃなく、SNSにデートの様子を投稿しないといけなくなっているんです。女の子が男の子に「SNSにデートの様子を投稿しておいてね」って強要することがとても多いです(笑)。男の子からしたらかなり面倒ですよね。

【原田】ちなみに、女子はどんな投稿を強要するの?

【Cさん】例えば、記念日。インスタグラムで何枚かに分けて投稿するんですけど、まず1枚目がツーショット。2枚目はプレゼント。3枚目以降は行った場所とか食べたもの。文章は「今日は○○に行きました、本当に大好き、ありがとう」という内容を長々と書いて、「△△ちゃんと3カ月記念日」みたいなハッシュタグをたくさんつけて投稿させるんですよ。

【原田】投稿指導まで入るんだ(笑)? それは拒否できないの?

【Cさん】拒否したら女子はめっちゃ怒ります。

【原田】彼女のことが本当に好きだとしても、自分の恋愛事情を他人に知られたくない人だってきっといて、そういう人の感情だって尊重されるべきだと思うんだけど……。SNSは周りに対して個人のPRをするモノであると同時に、カップルのPRもするようになってきているんだね。

■SNS時代、恋人とのケンカが激変!

【Cさん】SNSに投稿しないと、「もしかして他の女を狙ってる?」とか「私はこんなに投稿しているのに、どうしてあなたはしてくれないの?」ってケンカにつながるんですよ。そういうSNSでのトラブルが面倒だから彼女はいらないっていう男性の声も聞きます。

【原田】SNS登場以前は、どんなに彼女にいろいろなことを強要されても、極端なことを言えば、面倒くさかったら彼女の前だけで従うフリをしていれば後は解放されたけど、今はSNSという「遠隔強要ツール」ができたせいで、彼女といないときでも遠隔操作で強要されちゃうんだね。そんな「SNS強要女子」と付き合わなければいいのに、ってつい思ってしまうけど、そういう女子がそもそも母数として多いから仕方ない、って感じなんだろうね。

【Eさん】それから、今の時代のほうがケンカが長引くようになっていると思います。友人関係にもこれは当てはまることだと思いますが、SNS以前だったらケンカをしてもいったんそれぞれ持ち帰ることができたじゃないですか。

【原田】携帯がない時代だったら、彼女とケンカをしてもいったんそれぞれ離れて帰宅し、家族と話したり、友達と飲みに行ったりして、時間的にも空間的にも「間」ができることによって互いに徐々に忘れていく、となっていたことが多かったかなあ。

【Eさん】今はケンカをしたら、インスタグラムのストーリーでグチる人が多いんです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/west)

【原田】インスタグラムじゃなくて、「インスタグチル」?!

【Eさん】ストーリーで何かの景色の動画に「あれはなくね?」って意味深な内容の文字を載せて投稿したり。LINEもチャットなのでケンカが終わらないでずっと続いちゃうようになっているし、文章だとうまく伝わらなくてこじれていくことが多いし。当人同士ではもう解決していても、SNSに投稿した場合は周りが引きずって騒いでいることも多い。そこに異性や恋敵が絡んできたらもう大変。本当にSNSによって恋人とのやり取り全てが面倒になっていて、恋愛がしづらくなっているんですよ。

■異性に求める外見レベルが急上昇

【Cさん】若者の恋愛離れのもう一つの原因として、インスタグラムがあることで、異性の外見に求めるハードルが上がったというのもあると思います。

【原田】どういうこと?

【Cさん】きっと昔の外見の基準って、比較対象がほぼ学校内やクラス内だけで決まっていたと思うんです。例えば、あの子はクラスで3番目の外見だ、など。逆に言えば、たった40人のクラスで3番目の外見にランキングされたら、かなり上位の外見だと判断されたわけです。だから、自分の容姿がクラスの中でそこそこにランキングされたら、大した容姿でなくても恋人ができたと思うんです。

でも今は、インスタグラムでかわいい女の子やかっこいい男の子をいくらでも検索できるようになったから、インスタが男女の容姿の評価基準になってしまっているんだと思います。実際に私の彼氏も、インスタグラマーの女子を見て「カラコン入れないの?」とか「ヒール履きなよ」とか言ってきます。

【原田】インスタによって若者の目が肥えたから若者が恋愛から離れた説(笑)。

なるほど。僕の中学生時代は宮沢りえと一色紗英が男子から大変人気があったのだけど、そのレベルの美女は学校を見渡しても全くいないので、彼女たちと学校の女子を比較する、なんて発想自体がなかった。恐らく女子側だってそうだったでしょう。学校を見渡しても吉田栄作みたいなスタイルや顔の小さな男子はいなかった。

テレビに出ているTVスターとわれわれ庶民の間には大きな差があると誰もが認識していたんだと思う。ところがSNSが出てきて、インフルエンサーと呼ばれる「ちょうど良い存在」が登場した。TVスターほど高嶺の花ではないし、クラスの子たちよりかはちょっとかわいかったり、かっこよかったりする。こうしたちょうど良い存在であるインフルエンサーは、ちょうど良いがゆえに、ついクラスの異性と比較してしまう。そして、同じクラスのあの子も、カラコンを入れたらあのインフルエンサーに追いつけるのになあ、なんて自然と思ってしまう。こんなプロセスで、今の若者の目が結果的に肥えてしまった、ということだね。僕も長らく若者研究をしてきて思うけれど、今の若者の審美眼の平均値は確実に上がってきていると思いますよ。

【Cさん】そうです。「私の彼氏ってブサイクなんだよね」って言う女友達に写真を見せてもらうと、普通にかっこよかったりすることが多くて。誰と比較しているのかを聞いてみたら、インスタグラマーってことが本当によくあるんです。

【原田】インフルエンサーたちは本当に手が届きそうな人が多いから、「あれぐらいのレベルの人となら付き合えるだろう」という気持ちになっちゃう若者が多いのかな。

■20歳の誕生日がすごい!

【Eさん】インフルエンサーの影響でデートスポットの基準も上がっていると思います。「インスタグラマーの○○ちゃんは、クリスマスにこんな所に連れて行ってもらってこんなことを言われている」とか「ホワイトデーにこんなサプライズをしてもらっている」といった情報がたくさん入ってきますから。

【原田】SNSがない時代は友達から直接聞くか、あとは雑誌からの情報だったかな。今は他の人のデート情報がSNSを通して大量に入ってきてしまう。中でもインフルエンサーという自分よりちょっとだけ上で、目指せる程度の存在からの情報が大きい。雑誌に比べると大変リアリティのある情報がよく目に入るようになっているわけだね。「私、彼にあまりいい扱いを受けてないじゃん」っていうのが可視化されやすくなっていますね。

【Eさん】だから、SNSの情報によって相手に対して不満を感じやすくなっているんだと思います。

【Aさん】費用もかかるようになっていますよね。インスタグラムを見ていると、豪華なデートをしている人が多い。インスタに載せるようなデートは、豪華なものが多いと言うこともできるかもしれませんが。でも「自分たちもそういうところに行かなくちゃ」ってついつい思ってしまう。

【Cさん】二十歳の誕生日がみんなすごいんですよ。ホテルの部屋を借りて風船で飾って、ブランドもののデパコス(デパートコスメ)をたくさん並べて……。みんなそんな豪華なことやってるの!? って驚いちゃうし、自分もやらなくちゃ、って思わされる。

【原田】昔は一部のパーティーピープルやセレブリティがやっていたことを、今はみんながやらなくてはいけない雰囲気になってしまっている。かつてはデートの食事が吉野家で、でも「愛があれば幸せ」って、反町隆史と鶴田真由はドラマで演じていたけど、今はあの名シーンは撮れないかもしれないね。

■“インスタセンス”がいい子がモテる

【Cさん】LINEも既読がついてしまうから連絡を取り合うのが面倒っていう人がいますね。女の子が彼氏にLINEを送って、「なんで既読がつかないの」って文句を言って、男の子が面倒くさがるパターンが本当に多いんです。

【原田】面倒くさがり屋とか大ざっぱな性格の人は生きにくくなっていそう。では逆に、恋愛がうまくいっている人の特徴って何かあると思う?

【Cさん】インスタグラムのセンスがいい子は彼氏がいるイメージです。載せている写真がすてきだったり、ストーリーには日記のような内容をオシャレに投稿していたり。同性から見ても憧れます。「こんな子と付き合ったら、デートもオシャレなのかな」って男子は想像が掻き立てられるのかも。

【原田】なるほど。インスタが個人の広告・宣伝媒体になっているんだね。そこにすてきな投稿ができれば、自然と興味を持ってくれる異性が増える、ということだね。会ったことがない遠くの異性にもインスタでまき餌ができるようになったわけだ。

【Cさん】インスタはその子の容姿だけではなく、趣味等についても投稿しているから、ある程度その人の中身もわかりますしね。

センスが良くて、趣味が同じだったら性格も自分と合う可能性が高い。実際、人気のインスタグラマーも、長く付き合っている恋人がいる人が多いと思います。

【原田】インスタで事前に相手の分析をするようになっているから、付き合ってみてから「やっぱり、ちょっと違うな」って思うケースが減ってきているのかもね。昔は、アプローチされてとりあえず付き合ってみて、付き合いながら互いの価値観をすり合わせていくということが多かったけど。今はインスタで事前に価値観をすり合わせてから付き合う、というプロセスになってきているのかもしれないね。

■男性は「真のマメさ」が求められる

【Cさん】あと、男の子だとLINEをまめに返す人はうまく付き合っていると思います。

【原田】昔から恋愛ではマメな人がモテたけど、女の子といるときだけマメなフリをして乗り切れた男子もいたと思う。ところが今はSNSがあるから、表面上マメでも本当はズボラな人は、すぐにバレてしまいそう。

【Cさん】インスタグラムのストーリーに「彼氏と○時間電話した」って、女の子が投稿することがよくあります。それを見て、「あ、あの彼氏は見た目がイマイチだけど、意外とマメなんだな」って好印象になったりします。

【原田】そうか。そうやってストーリーにわざわざ彼氏自慢をつぶやくわけだ。女友達にマウントをとるために。誰も聞いていないのに……。

【Eさん】私の周りは、もはやSNSをやっていない男の子が好印象です。面倒くさいからLINEしかやってない、みたいな。相手のSNSがなければ、相手が何をやっているのかわからないから、不安にもならない。

【原田】彼氏がSNSを止めたら恋人同士の間でケンカが減る説(笑)。確かにSNSはやっていないほうが幸せかもしれないし、やっていたとしても、本当にマメに使いこなしている人
だけが幸せになれるツールかもしれないね。

【Bさん】SNSの普及により昔より付き合うことがとても面倒な行為になっている可能性は大きいと思います。例えば、LINEには既読機能があったり、インスタグラムやフェイスブックには投稿せずともいつログインしたかがわかる機能があります。ツイッターにもDM(ダイレクトメッセージ)の既読機能があります。このようなSNSの普及で、今その人が何をしているのか、また何をしているか分からなくとも、スマホをいじっているかどうかくらいはわかるようになりました。さらに、相手のSNSアカウントだけではなく、その人の友達のアカウントも見れば、その人に関する何かしらの情報を得ることができるようになりました。相手の行動を常に監視しようと思えば簡単にできるようになったのがSNS時代で、恋人に具体的な束縛はされていなくても、なんとなく重荷に感じている人は多いと思います。

■女性同士のマウンティングが熾烈に

【原田】SNSによる監視社会が若者の恋愛離れを促進している説。

【Bさん】それ、本当にあると思います。特に女性は、いかに自分が幸せかをアピールすることで互いに競争するようになりました。幸せだとアピールするためには、それなりのことを男性にしてもらわなければなりません。他の女性がどんなことをしてもらっているのかが、SNSでハッキリとわかってしまうため、それよりも尽くしてもらう必要が生じます。

こうした状況下、男性は記念日に単に高いディナーを奢るだけではだめで、例えば、たくさんの風船と二人の写真で飾られた部屋や、手作りのアルバムとメッセージを用意することなどが求められるようになっています。

【原田】もちろん、昔だって女性同士で彼氏にどんなことをしてもらったか、どんなモノを買ってもらったか、ということを自慢し合うことはあったと思。今はその女同士のマウンティングが、リアルの場だけじゃなくてSNS上でも繰り広げられるようになっているため、誰が見てもすてきと思う演出が求められるようになっているのかもしれないね。

【Bさん】こういう時代になると、恋愛は女性というよりも、男性にとってコストパフォーマンスが非常に悪いものになってしまったのだと思います。こんなにコスパが悪いのなら、1人でいたり、同性といたり、異性と友達関係になった方が楽だよね、と考える人が増えたのだと思います。

(サイバーエージェント次世代生活研究所 所長 原田 曜平 構成=梶塚美帆 写真=iStock.com)