白頭山先軍青年発電所の建設現場を現地視察する金正恩氏(2015年4月20日付労働新聞)

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国際社会の制裁で苦境に立たされている北朝鮮だが、国の挙げてのメガプロジェクトは進められている。その代表格が三池淵(サムジヨン)郡の再開発と元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区だ。

その工事を支えているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊と、各地の工場や企業所、国の機関から動員されたタダ働き部隊である「突撃隊」だ。ところが、動員に応じようとしない人が増えつつある。タダ働きであるうえ、続発する事故で命の危険まであるのだから当然だろう。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

しかし北朝鮮当局としては、そのまま放置するわけにはいかない。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、朝鮮社会主義女性同盟、金日成ー金正日主義青年同盟などの組織が、当局から割り振られた勤労動員の人数を確保するために、町で無為に過ごしている人にカネを渡して雇っていると伝えた。

彼らが受け取る日当は20元(約320円)。3日間働けば交通費まで含めて80元(約1290円)の収入になる。不景気で市場で商売しても大した儲けにならない中、動員に行けばコメが6キロも買える収入が得られるというわけだ。

彼らは「代打労力」と呼ばれている。国がやらせるタダ働きを、民間人が賃金労働に仕立ててしまった形だ。

ただでさえ劣悪な動員現場での労働だが、代打労力にはさらに劣悪な条件が強いられる。

「所属する単位(組織や企業)などがなく、単にカネを稼ぐためにやってきた人々には、現場の指揮部が課題を多く出す。また、宿や食事も自分で解決しろと言われる。カネをもらったんだから自分で適当にやれと(突き放される)」(情報筋)

かつての北朝鮮では、国が国民に住宅、食糧、生活必需品、教育、医療を無料または安価で提供する代わりに、すべての国民は建設工事からドブさらいに至るまで、様々な動員に無料で応じる形となっていた。

ところが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」に前後して、配給や無償医療などの制度は崩壊してしまい、人々は自分の手でカネを稼いで生きていくことを強いられるようになった。その一方で、旧来からの動員はそのまま残っていた。

それでもなんとか動員システムが機能していたのは、国や最高指導者のために身を捧げたいという気持ちが多少なりともあったからだ。つまり、国営の「やりがい搾取」システムだ。

ところが、1980年代以降に生まれた「チャンマダン世代」と呼ばれる若者は、国や最高指導者に対する忠誠心が希薄で、国のことより自分の生活を充実させることを優先する。

「いくら最高指導者同志(金正恩党委員長)が(三池淵の工事を)重要に考えていると言っても、生活のほうが大切だ」(情報筋)

こうした人々は、送り出す機関の側が食べ物を準備して動員による損失を補填しなければ、行こうとしないという。

「三池淵が観光地になって国が発展すると言っても、最近の人々は『三池淵が自分の暮らしに得になるのかならないのか』を考えて判断する」(同)

よほど人が足りないのだろうか、三池淵では子どもが工事に駆り出されているとの噂が絶えない。デイリーNK取材班が取材した結果、当局が公式に子どもを動員してはいないが、国の組織からカネを受け取って代打労力として働いている人の中に17歳以下の青少年が含まれていることがわかった。その多くが家がなく路上生活をしているコチェビ(ストリート・チルドレン)だ。

「完成の期限が前倒しになったのに、労力動員は困難になる一方で、手当たり次第に人を連れてきている。ひと目でわかるほどの子どもにはさすがに仕事はさせていないが、青年なら問題がないと仕事をさせている」(情報筋)