美女失脚:女の価値は、顔でしょ?玉の輿目前だった超絶美女の人生が、狂い始めた夜
「女の価値は、顔でしょ?」
恵まれたルックスで、男もお金も思い通り、モテまくりの人生を送ってきた優里・29歳。
玉の輿なんて楽勝。あとは、私が本気になるだけ。
そう思っていた。
だが、30歳を前に、モテ女の人生は徐々に予想外の方向に向かっていく…。
“未読メッセージ 32通”
仕事を終えた優里は、急いで化粧室へと向かった。
今夜のデートに向けて念入りに化粧を直しながら、溜まったLINEをスクロールする。
−Masato:今週の金曜日は『センス』を予約しています。大丈夫かな?
−Y.Kitamura:来週の日曜日、葉山までドライブでもどう?
メッセージのほとんどは、デートのお誘いだ。(ちなみに、それ以外はお食事会の誘いである)
優里は、差出人をざっと確認し、優先順位の高い人物から開封していく。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたデートの予定と擦り合わせて返信するのは、なかなか骨の折れる作業だ。上位3人に返信したところで、手首に巻かれたカルティエのタンクに目をやった。
−やばい、もうこんな時間。そろそろ行かなくちゃ。
今夜のお相手は、今持っているカードの中でも優先順位トップの弁護士・清宮隆一。
隆一と会うのは今回で3回目だ。
初デートで脱落する男性がほとんどの中、見事3回目のデートに駒を進めた隆一には、優里もそれなりに気がある。
家柄も年収も申し分なく結婚歴もない隆一は、後退気味の頭が玉にキズだが、まあ、結婚相手としては悪くない。隆一とだったら付き合っても良いかなと思っていた。
だが、付き合うとなったら他の相手とのデートをキャンセル、調整しないといけない。
−それもそれで面倒だなあ…。
そんなタラレバに頭を悩ませながら、優里は、仕上げに香水をひと吹きした後、鏡に向かってとびきりのスマイルを作った。
−今日も完璧だわ!
超絶モテ女・優里。向かう所敵なしと思われたが…?
女の価値は、顔でしょ?
優里は、大手広告代理店の受付で契約社員として働いている。
彼女の武器は、なんといっても、最強のルックスだ。
陶器のようになめらかで真っ白な肌の小さな顔に、ヘーゼル色の大きな瞳や桜色のぽってりした唇が行儀よく配置されている。
身長は155cmと小柄だが、Dカップの豊満な胸と華奢な身体つきで、男心をくすぐる。
少し前には、とあるネットの掲示板で、超絶かわいい受付として話題になったほどだ。
ひと昔前の百貨店のエレベーターガールのようなレトロな制服に優里が身を包めば、アイドルのコスプレのようなかわいさで、男性ファンの心を掴んで離さない。
「女の価値は、顔」だと、優里はつくづく思う。
勉強も好きではないし、料理も一切出来ないが、自分にはそんな努力は必要ない。
男に尽くすなんて、狂気の沙汰だと思っている。女は、男に尽くされてなんぼなのだ。
ハイブランドのバッグを貢ぎ、星付きレストランに誘ってくれる男達が自然と寄ってくる女こそ、極上の良い女。
−玉の輿なんて楽勝。あとは、私が本気になるだけ。
30歳目前。そろそろセレブ妻という次のステージに進むのも悪くないだろう。
「優里ちゃん、今日も最高にかわいいね」
『レストラン エール』に5分遅れで到着した優里を見るなり、隆一は目尻をぐにゃんと下げた。
優里が微笑むと、隆一はさらに目尻を下げて、ギョロギョロしたその目は、糸のように細くなる。
「今日はちょっと話したいことがあるんだ。ひとまず何か飲もう…そうだな、ロゼでも頼む?」
−話したいことって…。やっぱりね。
優里は、やはり隆一は自分に告白しようとしているのだと確信した。
こんなこともあろうかと、今日はお気に入りのワンピースに身を包んできた。
付き合うことになれば、交際記念の一枚を撮影することになるだろう。そしてその写真は、近い将来2人の結婚式で使われることになるはずなのだ。
優里は、その時を待った。
しかし、隆一は前菜、メインが運ばれた後も、なかなか告白してこない。時折バチっと目が合っても、隆一はフフッと笑ってすぐに目を逸らしてしまう。
−緊張しているのかしら…?
恥ずかしくて言い出せず、頃合いを見計らっているのかもしれない。確かに、料理の途中で告白して断られてしまったらその後が気まずいだろう。
コースの終盤、デザートのタイミングにでも告白されるんだろうなと思っていた。
そして優里の読みは当たり、コーヒーが運ばれてきた時。ついに、隆一は口を開いた。
「僕、ニューヨークのロースクールに留学することになったんだ」
セレブ妻 in NYに心躍らせる優里。しかし、隆一から衝撃的なことを告げられる
SATCに憧れる女
−付いてきてほしいってこと?待って。これって…プロポーズ?
留学することになったと告げた後、隆一は黙り込んでしまった。
優里も、予想外の展開に驚きを隠せずにいた。交際を飛び越え、プロポーズされてしまうなんて…。
周りはびっくりするだろうけど、電撃的な独身引退劇も悪くないかもしれない。
アイドルが絶頂期に引退をするのと同じように、皆の記憶の中で永遠のアイドルとして君臨し続けられるのだから。
それに、英語は全く出来ないけれど、ニューヨークでのセレブ妻ライフも憧れる。
−5番街でお買い物なんて、まるで映画の世界じゃない!
セントラルパークでのランニング、摩天楼を見下ろすルーフトップバーに、カラフルなカップケーキ…。
優里は、Sex and the Cityで憧れた、あの世界に自分が身を置くことになるなんて、ああ自分はなんて幸せ者なんだろうと、浮かれた様子で妄想を繰り広げる。
すると、隆一が大きく深呼吸をしてから、重々しく口を開いた。
「それで…僕、結婚することになったんだ。優里ちゃんとは、今日が最後になる…」
−えっ…!?
隆一のプロポーズに「はい」と答える気満々だった優里だったが、予想外の告白に「はぁ?」と半ばキレ気味の答えになってしまった。
「ごめんね、いつか話そうとは思ってたんだけど…。彼女は、同じ事務所の弁護士で…。付き合って3年になるんだ。
一緒にロースクールに受かってさ…」
優里は、なぜかデレデレしながら彼女について紹介する隆一に、開いた口が塞がらない。
彼女とは3年も付き合っていたなんて、自分は最初から遊び要員だったと思うと、怒りがフツフツと湧いてきた。
それに、目の前にいる隆一は、よくよく観察してみれば弁護士という肩書きを除けば、ギョロ目が特徴的な、頭も後退しかけた普通の男だ。
−こんな男に遊ばれるなんて…!
これほど屈辱的なことは人生で初めてだ。先ほどまでのキラキラとした世界(妄想)が、ガラガラと崩れ落ちていく。
だが、この男との今後がないと分かったら、もう時間を割く必要などない。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
優里は、お手洗いに行くふりをしてそのまま店を出た。
店を出てからスマホを見ると、大量のお誘いメッセージが溢れている。
少しばかりプライドを傷つけられた優里だが、これらのメッセージによってすぐに自尊心を取り戻すことが出来た。
−まあ、こんなこともあるわよね。さてと、誰に連絡しようかな。
誰に返信しようか迷っていると、新着メッセージを知らせる音がピコーンと鳴る。
雅也:ちょうど飲み会終わったんだけど、今から会えたりしない?
彼は、優里が受付をしている大手広告代理店の営業職。これまでも熱烈なアプローチを受けてきたが、適当にかわしてきたのだ。
しかし、もう少し飲みたい気分だと思っていた矢先の、これから飲もうという誘い。断る理由も特にない。
即座に、“今、銀座だよ”と送ると、すぐに電話がかかってきて、そのまま『シクス バイ オリエンタルホテル』で会うことになった。
お店に到着すると、雅也がすでに座っていた。
「優里ちゃんが来てくれるなんて思わなかったよ」
お酒が入っているのか、彼の目は少し充血している。隣に腰掛けると、嬉しそうにトロンとした目で優里の顔を見つめた。
「本当に良い女」「結婚してほしい」「死ぬほどかわいい」
優里を絶賛する雅也に微笑み返しながら、優里は苺のカクテルに口をつける。
明日も明後日もデートの予定が入っているし、土日なんて、昼一件、夜一件と、まるで芸能人並みの多忙さだ。
−ああ、忙しい!お誘いも休み休みにしてほしいわ。
弁護士の隆一にプライドを傷つけられたものの、こうして雅也にちやほやされてすっかり機嫌をよくしていたのだが…。
しかし優里は、この日を境に、自分の人生が狂っていくことになるなんて予想もしていなかったのだ。
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隆一の婚約者に絶句する優里。さらに降りかかる悲劇。そのわけとは…?