政治家の失言が止まらない。今度は自民党の谷川弥一衆院議員が失言をした。「失言防止マニュアル」を配布した直後のことだから、参院選を控えた自民党にとってダメージは小さくない。谷川氏の失言にはどんな背景があるのかを考えてみた。

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今月21日、衆議院本会議に臨む自民党の谷川弥一氏 ©時事通信社

 谷川弥一 自民党・衆院議員
「できれば佐賀の知事さんには台湾のようなつきあいをしてほしい。いまは韓国か北朝鮮を相手にしているような気分だ」
 日テレNEWS24 5月20日

 5月18日、自民党の谷川弥一衆院議員が、九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)の整備に反対する佐賀県の山口祥義知事の対応について、「韓国か北朝鮮を相手にしているような気分だ」と発言した。長崎県内のトンネル工事現場を視察した際、4月に行われた与党検討委員会で直接伝えたと話した。谷川氏は長崎選出で、与党検討委員会のメンバーである。

九州新幹線長崎ルートの整備計画とは

 まずはこじれにこじれている長崎新幹線の問題について整理しよう。

 九州には南北を貫く博多―鹿児島中央間に新幹線が開通している。長崎新幹線は、途中の新鳥栖(佐賀県)から長崎へ向かう約120キロのルート。このルートのうち、新鳥栖から武雄温泉(佐賀県)までは在来線を使い、武雄温泉から長崎までは新幹線専用のフル規格で整備することになっていた。

 もともとは事業費が小さく、在来線に直通できるスーパー特急方式で整備される予定で、佐賀県も含めて合意したが、長崎県側からフル規格での整備を求める声が高まったことで、在来線とフル規格を乗り継げる新型車両、フリーゲージトレインを開発することになる。ところが開発の過程で不具合が多発、導入が断念された。

佐賀県関係者は「都合のいい試算で結論を急ぐ与党が許せない」

 武雄温泉―長崎間はすでに6割の工事が終わっている。長崎県と政府与党の検討委員会は佐賀県にフル規格の新幹線か、在来線が使えるミニ新幹線の2つの案を提案しているが、佐賀県は莫大な費用がかかるフル規格の新幹線も、在来線のダイヤを乱すミニ新幹線のどちらも拒否。

 佐賀県の山口知事は4月の検討委員会の場で「新幹線整備を求めたことはないし、今も求めていない」と不快感を示している(朝日新聞デジタル 5月20日)。また、「これまで、関係者間で合意されているのは武雄温泉〜長崎間の新線整備と、新鳥栖〜武雄温泉間は在来線を利用することだったはず」とも主張(乗りものニュース 4月26日)。佐賀県関係者は「財政負担だけの問題ではないのに、都合のいい試算で結論を急ぐ与党の姿勢が許せなかった」と山口氏の心情を代弁した(西日本新聞 4月27日)。

 佐賀県は議論に応じない姿勢を示している。一連の問題について、鉄道に詳しいライターの杉山淳一氏は「佐賀県は『間違った手続きには応じない』」「佐賀県の態度は法治国家として正しい」と評している(ITmediaビジネスオンライン 5月17日)。これらの背景があった上で、谷川氏は佐賀県知事のことを「韓国か北朝鮮のようだ」と言い放ったのだ。

「北朝鮮は言い間違い」と訂正

 谷川弥一 自民党・衆院議員
「北朝鮮という表現は言い間違えで訂正している。韓国については思いやりを持ち、交流できる関係であってほしいという思いだった」
 日テレNEWS24 5月20日

「国交がない北朝鮮に例えたのは明らかな間違いで、真意ではない。情のある対応をお願いしたいという意味だった」
 佐賀新聞LiVE 5月22日

 谷川氏は発言後、取材に応えて発言を訂正、「配慮を欠いた発言だった。佐賀県民におわびしたい」と謝罪した。谷川氏は「とりつく島のない佐賀県の対応が、日本との関係がぎくしゃくしている韓国のように感じ、その場で山口知事に伝えた。そのときは北朝鮮の名前は出さなかった」と釈明している。

 つまり、谷川氏は山口知事に対して「韓国のようだ」とは言ったが、「北朝鮮のようだ」とは言っていないらしい。「北朝鮮のようだ」とはトンネル視察のときに口が滑ったようだ。

 谷川氏は北朝鮮、韓国との友好を目指して設立された超党派の「朝鮮通信使交流議員の会」の幹事長を務めている。一方、掲げている政策の1番として「安全保障の整備」で「対北朝鮮、タリバンのテロ対策」と記されている。

 谷川氏は韓国とは交流できるはずだが現在は関係がぎくしゃくしているという考えがあり、佐賀県を韓国になぞらえたのだと考えられる。また、北朝鮮は言い間違いだと躍起になって否定したのは、谷川氏が北朝鮮をテロ国家だと認知しているからに他ならない。

 自民党が5月10日に配布した失言防止マニュアルには、表現が強くなって失言を招きやすいパターンとして、「歴史認識、政治信条」が最初に挙げられている。谷川氏の失言もこれにあてはまる。

カジノ解禁法案質疑での衝撃の言動

 谷川弥一 自民党・衆院議員
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」
 朝日新聞デジタル 2016年12月5日

 谷川氏は過去にこのような言動で騒ぎを起こしている。2016年11月30日に行われた衆院内閣委員会のカジノ解禁法案に関する質疑の場で、質問に立った谷川氏が40分の質問時間があるにもかかわらず、28分を過ぎた時点で「一応質問が終わったのですが、あまりにも時間が余っているので」と前置きし、余った時間を潰すために「般若心経」を唱えはじめたのだ。その他にも地元愛や夏目漱石の紹介も行った。

 結局、カジノ解禁法案は推進派の自民党がわずか5時間33分の審議時間で採決を強行した。カジノ推進派の木曽崇国際カジノ研究所所長も「推進側にいる議員がことごとく意味のない質疑で延々と持ち時間を消費するという驚きの展開」と指摘し、「本法案は我が国の賭博史始まって以来の『お笑い法案』として末代まで語り継がれてゆくことは間違いありません」と批判した(BuzzFeed NEWS 2016年12月6日)。

 問題点をあぶり出し、議論を詰めていくという発想が根本から抜け落ちているのかもしれない。カジノ解禁法案も長崎新幹線も同じである。推進したいことはゴリ押しし、相手が反発すればピント外れの言葉で批判をする。谷川氏の姿勢は、与党全体に蔓延しているのではないだろうか。

(大山 くまお)